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猫と僕と知らない世界  作者: シマタロウ
第一部1章:猫と見習い

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6-7:猫と魔術師 うるせぇなぁ

 倒れ伏す依城さんを目にした瞬間、思考がこれまでに無いほどクリアになった。


 僕はどう言われていた?依城さんから何を頼まれていた?

 そうだ。「出会ったら速攻でやってしまえ」、そう言われていたはずだ。


 ぼんやりと依城さんに視線を落としたままの男に向け、一気に加速し距離を詰める。


 右足を大きく踏み込み、上半身にひねりを加え、全身の力を全て拳に乗せるようにして右ストレートを放つ。

 狙いは右側頭部。骨だろうが魔術師だろうが、今の全力なら確実に打ち壊せる自信がある。


 ろくに反応もしないままの魔術師の頭に拳が吸い込まれようとした時、唐突に、まるで初めからそこにあったかのように、頭と拳の間に何かが差し込まれた。


 拳が『それ』と衝突し金属同士が衝突したかのような鈍く大きな音が響き渡る。


「ひぃっっ!!!」


 魔術師はその音で初めて僕に気付いたようだ。腰を抜かし、地面にへたり込む。まぁ、そんな無様な姿は別にどうでもいい。そんな事より気になるのは・・・魔術師の頭の近くにフワフワと浮いている青い金属の盾のような物。大きさはゴミバケツの蓋ぐらいか。厚みも然程は無さそうだ。一見した限りではそれほど丈夫そうな物には見えないが、さっき僕の攻撃を止めたのはこれで間違いない。僕の全力を受け止めたのに傷もへこみも全く見当たらない。第一、どうやって攻撃の軌道に割り込んできたのかが全く分からない。これは・・・


『あの盾だけど魔術師が持っている大きな剣とセットになってる霊装だと思う。何か特殊な力があるはずだから、何回か攻撃して様子を見せて』


 専門家のクロさんアドバイスありがとう。だが言われるまでも無い。知らない物は考えても分からないんだから行動あるのみだ。


 あわよくば盾をすり抜け頭をぶち抜く、そんなつもりで拳を振り下ろす。

 だが、盾が軌道に割り込み、僕の拳を受け止める。


 サイドステップを踏み、打ち込む角度を変え、次は肩を狙って拳を振り下ろす。

 結果は同じ。

 三度目の攻撃もいきなり現れる盾に防がれた。殴るたびに盾と拳がぶつかって騒音を発生させるだけ。


 しかも、この盾、フワフワ浮いてるだけのくせに殴っても傷一つ入らない。

 それに、流石に拳へのダメージが洒落にならなくなってきた。自分の血でぬめって握り込み難い。

 一度攻撃の手を止め回復魔術を使う。あまり意味は無いと思うけど、ついでに拳の強化魔術の強度を上げる。


 さて、仕切り直しだ。と思ったら、相手さんは何故か嘔吐きながらヨロヨロとしている。なんとか頑張って立ち上がろうとしているが、そのまま地面へとへたり込む・・・・なんでダメージ負ってるんだ?


「やめ・・もうやめて・・・あやまる!あやまるからっ!!」


 それなりに元気そうだ。

 今度は一撃の威力を抑える代わりに左右をスイッチしながらの連撃にしてみる。少しずつ場所を変えながら攻撃が通る場所を探していく。


「がはっ・・・がっ・・」


 どこを殴っても盾が防いでくれるのに、当の本人はどんどんボロボロになっていく。なんで??

 とりあえずダメージがあるみたいだから殴り続けるけど。


『マスター、手を止めずに聞いて。たぶんあの盾は素早く動いたり瞬間移動して攻撃を防いでいるのじゃなくて、局所的に因果を修正して「盾で受け止めた」という結果を捏造する事で持ち主を守っているみたい。そうで無ければ使い手が認識さえ出来ていない攻撃を防ぎ続けるなんて出来るはずが無いもの。

 でも、そんなの普通の人間が支え切れる魔術じゃないの、霊装側でうまくやっているにしても相当に燃費が悪いはずよ。だから、魔力のストックがあるとしても長時間使えるわけがなくて』


「なるほど。殴り続けたらガス欠を狙えるわけね」


 そりゃ、良かった。雑魚を束ねてる親分も雑魚だったと。前の「影」だけ異常に強かったってわけね。


 良かった、良かった。これなら僕だけでも何の問題も無い。

 さっさと片づけちゃおう、こんなやつ。

 下らない。


 のんびりやったせいで魔力のストック、それこそ3階の「棺」に溜め込んでた魔力なんかを使われたら鬱陶しいから攻撃のペースを速めていく。

 依城さんが待ってるんだから、決着は早ければ早いほど良い。


 クロの話の通りなら威力は必要ない。色々な場所に打ち込んで「盾」に因果とやらを修正させればさせるだけ魔力がゴリゴリ無くなっていくのだから。実際、相手さん、顔面蒼白のヨロヨロで立ち上がる事さえ出来てないので、クロの予想で正解だろう。

 僕は魔力切れなんてなったこと無いから分からないけど、結構辛そう。良きかな、良きかな。

 ステップでちょいちょい場所を変えながらワンツーワンツーと軽く打ち込んでいくだけの単純なお仕事です。


 何セット目だろうか、同じペースで打ち込みを続けていると盾に当たる際の音が変わってきた。変な鈍い音ではなく普通に金属を殴る音になったような?それによく見ると盾がひび割れて変形しているような?


『魔力が底をついたみたいね。これでただちょっと浮いてるだけの変な盾になってるはずよ。後はあの人を殴り飛ばして何かで縛って転がしたらお仕事終了ね』


 因果の修正とやらが出来ないのならば、後は物理で押せば大丈夫。実にシンプルで良い。僕の得意分野だ。

 一撃目と同じように全力で踏み込み、全身の力を右拳に乗せるようにして盾を殴りつける。

 パキリと妙に甲高い破砕音を出しながら盾は二つに砕け、その勢いのまま床に激突した。同時に男が持つ大きな剣も真ん中から圧し折れる。

 なんか連動してたんだね、よく分からんけど。まぁ、どうでもいいか。これで後は本体だけ。


「・・・ま、待ってくれ!!もうボクには抵抗するだけの力は無い!それに・・・うっ・・・ちょっと待ってくれ・・・・魔力切れで眩暈が・・・それに・・ここでボクが死んだら母さんに」

 男がべらべらと話し出した。


「うるせぇなぁ」


 もう盾も無いから、それほど気張らなくてもいいだろう。

 軽く構えて右フックで顔面を狙う。

 それで終わりかと思えば、突き出した拳は男の顔の手前で『光る壁』に受け止められた。

 小賢しくも魔力障壁で防いだと。なんだ。余力あるじゃん。


 一度拳を引く。

 腰の回転をのせて狙いは胸元で右ストレート。

 小さな予備動作から最短距離を真っすぐに僕の拳は突き進む。


 そして胸の前に出て来た障壁を無事破壊。

 真っすぐだと防ぎやすいよね。こっちからしても壊しやすくて助かるよ。


 これで次の障壁の準備が出来るまでは丸裸。当然、待つつもりなんて無いわけで。


 続いて左拳で回り込むような軌道を通り頭部を狙う。


 インパクトの直前、魔術師君が驚愕した表情を浮かべていたのが少し印象的。そら馬鹿正直に見え見えの障壁なんか張ったら、こうなるに決まってるじゃん。


 邪魔をするものが無くなった僕の左拳は男の頭部に吸い込まれるように直撃した。


 魔力で強化した一撃に障壁無しの人間が耐えられるわけも無く、彼の頭部はスイカに発破を仕掛けたかのように綺麗に爆砕した。

 一瞬にして血みどろの景色を作り出してしまったけど、衝撃が強すぎたせいで肉片がまともに残って無いのが救い。スプラッター度合い自体はわりと低い。


『マスター・・・・』


「よし、これで僕のお仕事は完了っと。さぁ、早く依城さんの治療をしないと。頭からの出血は怖いからね、たいした事なければいいんだけど」


 そうだ、依城さんの治療が終わったら柏木さんにも連絡しないと。さぁ、サクサク片づけていこう、サクサク。

 


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