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猫と僕と知らない世界  作者: シマタロウ
第一部1章:猫と見習い

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5-10:猫と大事件 いつの間にか準備は終わっていて

 山の中の工房でズタボロになってから二週間と少し、つまり連日連夜クロに特訓でボロボロにされるようになって二週間と少し経った頃、それは起こった。



 いつも通りの出勤前の流れ作業。簡単な朝ご飯に、手軽な身支度、小さなリュックに最低限の荷物を入れ、そして頭にクロを乗せて、いってきます。そう、今日からクロも勤務?復帰でございます。ここ最近は依城さんの調査に引っ張り出されていたのでクロが一緒なのは久しぶり。


 なんかね、調査は一旦終了なんだって。残念ながら成果は無かったそうなのだけど。

 僕としては、そりゃそうよねって感じ。普通はさ、依城さんのバーサーカーっぷり見たら逃げるよ。見つからないように遠くに行っちゃうって。探したって無駄だよ。というわけで、調査終了に伴い依城さんも今週末で東京に帰る事になるそうだ。お疲れ様でした。


 そして、僕は柄にもなく悩んでいた。バスに揺られながらもずっと悩んでいた。送別会をどこかの店でするか、あるいは自宅なり依城さんが泊っているホテルなりでするかを。しばらく会う事も無くなるだろうし、周囲を気にせずクロと話が出来る場を設けてあげたい。とはいえ、なんか美味いものをご馳走するべき機会な気もする。


 正直、結構シャレにならない額のお給金貰ってしまったし。恩返し・・・・しないと流石になぁ。振り返れば、お世話になったような、なっていないような。

 そんな事を考えながらバスを降りた時、頭の上で眠りこけていたクロが唐突に目を覚まし立ち上がった。


「向こうから大きな魔術の気配がする・・・ような」


 クロは寝ぼけているのか少しボンヤリした声でそう言った。にしても、魔術の気配?


「なんだろう。今までに感じた事が無いぐらい大きな気配・・・でも、なんだか・・・・変な感じ」


 クロはそう言ったきり黙って何処か遠くを眺めていた。

 そのまま3分ちょっとぐらい経っただろうか。


「ごめん。マスター、もう行きましょう」


 観察に満足したのか何処かの魔術の発動が終わったのか、クロはそう言って、また頭の上で眠りについた。もう一度クロが気にしていた方向を見てみるが、僕には何も感じられない。なんとなく嫌な予感はしたけど「猫は変なとこ見つめたりする生き物だし?」みたいな事を思って、そのまま職場に向かった。


 異変に気付いたのは昼休みだった。いつも通り一人無言で唐揚げ定食を食べる僕の耳に周囲の噂話が入ってくる。


 今朝の出勤時間帯にJRのターミナル駅で何か大きな事故があったらしい。

 ガス漏れ?毒ガス?詳細はまだ分からない。

 何千人もの人が巻き込まれたらしい。

 数百人が病院に搬送され死者も出たとか。


 クロも頭の上で起き上がり尻尾をパタパタさせている。周りが人だらけだから声は出していないが、朝に感じたという「大きな魔術の気配」との関係を気にしているのだろう。僕も気になるっちゃ気になるが・・・いかんせん情報が少なすぎて何も分からない。「いまはまだ何も分からないよね」独り言を装ってボソリと呟いた。


 クロも一旦納得したのか頭の上に座って寝なおした。というか、寝るんだ。朝もちょっと思ったけど猫化が進みすぎてない?可愛いから別にいいのだけど。そして、そこからは特に何もなく、いつも通りに仕事をこなし退社の時間となった。現場はスマホを持ち込めないからサッパリ情報が分からない。建屋から出て門に向かうまでの間にプラプラ歩きながらニュースを見る。珍しくクロも起きてスマホをのぞき込んでいた。

 だがニュースを見ても詳細な情報は全く見つからなかった。分かったのは負傷者が二千人以上に及ぶ大事故が起こった事、そしてその原因がいまだに不明という事。それだけ。


 なんとなくだけど関わってはいけない予感がビンビンする。だけど、この先の展開も薄々見当がつく。最近のパターンだと、僕達を導くあの人の出番がそろそろ・・・

 とか思ってたら工場の門の前にスーツ姿の見知った女性。もちろん、勿体ぶる必要もなく依城さんだ。スーツを着る女性の知り合いなんか彼女しかいないし。そして、ここに依城さんがいるって事は、あっち方面の事件だって事は確定。まさか家に帰る暇さえ無いとは。


「赤松さん。ちょっとお話があるので一緒に来て頂けますか?」


 凄く固い表情の依城さん。更に嫌な予感が高まる。


「・・・はい」


 なんとなく警察の人に連れて行かれるような気分で僕は依城さんにトコトコと連行される。門から少し離れたところに止まっていた黒いバン、依城さんが後部座席のドアを開け、それに乗り込んだ。


 ・・・・超乗りたくねぇ。けど、流石にここからの逃亡は不可能と判断して腹をくくる。

 中には既に一人先客がいた。灰色のツナギを来た若い男性。疲れているのか座ったままウトウトしている。


「すみません。出してください」


 依城さんが運転席の男性にそう呼びかけた。


 僕、まだどこに行くか聞いてないんですけど、それとそこの寝ている人は誰でしょうか?そんな事を聞きたかったけど、なんとなく場の雰囲気に押し込まれて黙る僕。よく分からない沈黙が車内に落ちる。依城さんは何故かさっきから俯いたまま。


 これはアレだね、待っていても進展が無いパターン。依城さんって何か責任を感じると黙り込むタイプっぽいし。

 しゃーなし。僕が切り出しますか。堪らないね、このプレッシャー。


「勘違いしてたらごめんね。たぶん今日の用件って今朝のJRの事故関連だと思うんだけど、ちょっと先に説明をお願いしてもいいかな?こっちもクロが大きな魔術の気配がするとか言ってたから少し気になってさ。ひょっとしたら僕達が探してた魔術師が絡んでるのかなって」


 依城さんは一回顔を上げ、そしてやっぱり俯きなおしポツポツと話し出す。


「あれは事故じゃありません。大規模魔術によるテロみたいなものです。・・・術式の内容は範囲内の生き物の生命力を魔力に変えて術者に還元するタイプの物みたいです。・・・覚えてます?一緒にレイスをやつけた時、あの時におじさんが生気を吸われて倒れてたじゃないですか。あれと似た様な術式が、あれよりもずっと強い力で広範囲に展開されたのが今朝起きた事件です」


 あぁ、なるほど。僕達が見つけられなかった魔術師は逃げたわけじゃなく、何処かに隠れてこの大規模な魔術の準備をしていたってわけか。・・・見事にしてやられましたな。ちょっと悔しい。


「ねぇ、だとするとこの前の工房は囮だったって事なのかしら?」


 クロが質問をしたが、それわざわざ今聞かなくても良くねぇ?傷口に塩っていうか。


「・・・えぇ、そうですね。嵌められちゃったみたいです。赤松さんに大怪我までさせちゃったのに・・・それも無駄だったなんて」


 依城さんは俯いたまま黙ってしまった。気にしても仕方ないのに。

 とりあえずデリカシーの無いクロの顔をちょいちょい突いておく。抵抗が無いので失言の自覚はある模様。ならもういいや。猫だしね。そんな事もあるさ?

 本当は依城さんに聞きたい事が何個かあるんだけど、まぁ、今すぐ聞かなくてもいいかな。そっとしておこう。


 そして工場を出てから20分ほど車にゆられ到着したのは、思い出深いあの海岸の近くの駅前だった。非常にテンションの低い依城さんに導かれるまま車を降り、近くのマンションに誘導される。

 ツナギの人も僕の後をフラフラと付いてきた。大丈夫かな?この人。なんというか、このメンツ、不安定感が高すぎる気がする。


 それはそれとして、到着したマンションは古そうな感じがするものの、とてもしっかりした作りの建物だった。全体的に白っぽくて、ベランダの手すりのところはガラスで出来ていて、一階のエントランスはまるでホテルみたい・・・クソ、ブルジョワ共め。


 そんな事を思っているうちに依城さんが淡々と入口のロックを開け中に入っていく。

 勝手に入っていいの?誰かに会うのかな??そろそろ説明が欲しくなってきたよ???

 流石にクロも目を覚まして、僕の頭の上で尻尾をぶんぶん振って緊張している様子。僕の家は普通に骨董品のアパートだからね。高そうなマンションは緊張するよね?ごめんよ、クロ。甲斐性の無い飼い主でごめんよ。


 そして、そのまま目的の部屋に到着。4階一番奥の部屋だった。表札も無いので誰の部屋かも分からない。

 依城さんがカギを取り出し部屋に入って行く。


「お邪魔します」


「・・します」


 おぉ、ツナギの人がボソッと続いてくれたよ!しゃべらない系の人だと思ってたから驚いちゃった!

 さて誰がいるのかなと思ったら、応接ソファーしかないサッパリしたリビングに依城さんがいるだけだった。あれ?誰かに会いに来たわけじゃなかったんだ?


「お二人には御足労をおかけして申し訳ありませんでした。ここは極東支部で用意しているセーフハウス、隠れ家のうちの一つです。お二人は残念ですが危険な魔術師に狙われている可能性があります。申し訳ないですが、今後の方針について私から説明させて頂きますので、是非ご協力をよろしくお願いします」


 依城さんは今までに無いレベルの硬さでそう語り、僕達に頭を下げた。


 そして、これが僕とクロが初めて遭遇した大事件の幕開けだった。

 


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