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猫と僕と知らない世界  作者: シマタロウ
第一部1章:猫と見習い

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幕間2:とある偽OLの定常業務

 私は事務仕事が苦手です。報告書を作るのも苦手です。書類を整理するのも、清算すべき経費のレシートを丁寧にスキャンしていくのも、提出用の書類を定型のフォーマットで作成するのも苦手です。

 ・・・大嫌いです。


 ましてや現場から上がってきた調査報告の要点を書き起こしたり、今後の動きの想定についてまとめたりするのなんて大嫌いのど真ん中です。


 ・・・私は事務仕事が苦手で大嫌いです。


 自分の魔術を活かせる現場に立てれば、それで満足なのに。それ以外の事なんてやりたくないのに・・・

 とはいえ、私も社会人。そんな事ばかり言ってもいられないので、工房をおさえてから一週間程、ずっと調査と書類仕事ばかりしています。調査については、支部から専門の人員を送ってもらっているので、私がするのは現場からの報告を受ける事と罠っぽいものがあったらぶっ壊すだけ。

 でも残念ながら赤松さんが引っ掛かったような強烈なトラップは他にはありませんでした。つまり、私の出番もあまりありませんでした。

 形だけの現場監督みたいな?あるいは出番の無かったボディーガードみたいな?・・・魔術の特訓をしている赤松さん&クロちゃんコンビに混ざりたい。私も未知の術式の探求に参加したい。まぁ、仕事なんでやりますけどね。


 逃げたい。


 というか、実際問題ですよ、工房にはほとんど何の痕跡も残ってなかったし、そこまで報告に労力をかける価値は無いと私は思うわけです。本当ですよ?言い訳とかじゃないですよ?魔術的な痕跡も残ってないし、物証だって丁寧に竜牙兵に壊させてたみたいで、ろくな物が無かったし。本当に見事な逃げっぷりだったんです。

 ホントこれだけ調査の手が入ってるのに未だに身元すら割れていないとか凄いですよ。ここまで徹底して情報を隠せている事を考えると、SNSに竜牙兵が流出したのもわざとやったって事かも知れませんし。


 というわけで、課長への報告がマジでピンチです。肝心の調査結果が『収穫した魔力を何かに注ぎ込むための設備があったみたいです』って事ぐらいしか無いんです・・・そんなの調査する前から分かってますよね。集めたら何かに溜めたりしないと、そりゃ困りますもの。

 無駄だったんじゃないかな?この調査って無駄だったんじゃないかなぁ?!

 って気分です。


 やれって言ったの私ですけど。


 そんなわけで、私の調査報告は『目標は既に逃亡済みで発見の見込み無し。調査中に現地協力員が負傷。現在は回復済みで問題無し』ぐらいの内容にしか成りません。

 どう考えても『無駄な経費を使いまくりで怪我人まで出ましたが成果はありませんでした。ごめんさい』って事実を言い換えただけの報告書が完成するわけです。


 ヤバいですよねぇ。自分から現地調査を希望して見す見す逃がしたってわけで。


 ・・・私、こんな時にどう言い訳したら良いか分からないの。責任回避のための素敵メソッドが分からないの。もっと事務仕事が得意な人なら、ここからでも華麗なる責任回避が出来るのでしょうか?

 誰か相談出来る人が近くにいたりしませんでしょうか?

 魔術の話をしても問題無くて相談も出来そうな人って赤松さんしか思い浮かばないんで・・・どうしようもないですね。彼もこういうのはダメそうだし、クロちゃんは何も考えてないし。というか猫だし。


 よし、晩御飯にしましょう。ずっと籠り切りで事務仕事してたから疲れました。気分転換をしましょう!


 報告書の作成は早々に切り上げ、一人でご飯を食べるのもつまらないって事で赤松さん家に訪問してみました。時間はもう八時。仕事も終わって特訓タイムの最中のはず。

 チャイムを押してみます。

 ・・・反応がありません。

 ノックしてみます。


「もしもーし、依城ですけど御在宅ですかー?」


 と言いながらも魔力を探ると部屋の中から反応はあります。となると居留守?

 まぁ、開けたら分かりますか。赤松さんに内緒で作った合い鍵で部屋に侵入。


 赤松さんは部屋の真ん中で猫的に言えば『ごめん寝』、人間的に言えば土下座スタイルで寝ていました。いや、これは寝ているのではなく・・・


 赤松さんの頭の辺りから薄い光の粒子が立ち上り、そこからクロちゃんが滲み出るようにして現れました。そして、そのまま躊躇なく赤松さんの後頭部に座り込む。


「こんばんは、ナギ!どうしたの?」


 尻尾を大きく左右に振りながらクロちゃんが挨拶してくれた。可愛らしいですけど飼い主の後頭部を足蹴?にするのはいいのでしょうか?赤松さんなんか唸ってますし。


「こんばんは。今日も一緒にご飯食べようかと思って・・・・えと、赤松さん・・・どうしたんですか?」


「マスターなら演算領域拡張の限界時間チャレンジをやり過ぎただけだから気にしないで!すぐに復活してくるから!!」


 いいのでしょうか?まったく動かないですけど。


「・・・・・・ちょっと・・・待ってて・・・・いま動け・・・なくて」


「あっ、はい、了解です。いきなりたずねたわけですし、お気になさらず」


 案外、クロちゃんもスパルタですね。大丈夫なのかな、これ?


「にしても、ナギもよく来るわねぇ。二日に一回ぐらい来てない?」


「あはは、ちょっと仕事が行き詰ってて気晴らしにと思って」


「そうなんだ。何も見つからなかったのに、まだ何か調査してるの?」


「いえ、今はその見つからなかった事の報告書に難儀してて」


「大変ねぇ。マスターの回復はもうちょっとかかると思うから、お茶でも飲んでたら?キットカットもあるわよ?」


「どうぞー」と床に伏したままの赤松さんからも了承の声が聞こえてきたので遠慮苦なくお茶を頂いて待つことにする(勿論、セルフサービスです)


 部屋の真ん中は赤松さんがごめん寝しているので、端っこの方に足を崩して座る。

 それから丁度10分程度で赤松さんは復活しました。なんだかんだで妙にタフですね。


「お待たせして申し訳ない。どうにもあの特訓は失敗した時のダメージが大きくて。さぁ、今日はどこに行きましょうか?」


「近所に肉バルってのが出来てるみたいなんですけど行ってみません?熟成肉が美味しいらしいですよ?」


「へぇ、そんな店が。サラダチキンばっかりの人だから知らなかった」


「わたしもカニカマばっかりの猫だから知らなかった」


 クロちゃんが知らないのは当たり前として赤松さんは普段どういう生活を送っているのでしょうか?というか、復活して即食事の話に入れるとか切り替え早いですね?凄く丈夫。


 そんなわけで今日もみんなで晩御飯を食べに行きました。楽しかった。赤松さんは、実は二回目の晩御飯だったそうなのですけど喜んで食べてくれました。個室があったのでクロちゃんも人目を気にせず色々食べていました。私も楽しくて、たらふく食べた後に珍しくお酒も飲んでみたり。


 その結果、翌朝は慣れ親しんだ赤松邸の布団で目が覚め(赤松さんはクロちゃんと一緒に部屋の隅っこで寝てました)、そして書きかけの報告書は課長にメールで提出されていました。


 記憶は薄っすらとしか無いのですけど

「正直が一番すっよ!ダメならダメって正直に言っちゃいましょうよ!」

 という赤松さんの言葉にいたく感銘を受けたような記憶があります。


 相談する相手って大事ですよね。ちゃんと人を選ばないと。

 


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