表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
猫と僕と知らない世界  作者: シマタロウ
第一部1章:猫と見習い

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

31/36

5-8:猫と大事件 熟成厚切りロースかつ弁当税込み1,990円

 あの後は大変だった。思いのほか駆け付けてくれた依城さんが取り乱しましてね。自分でも結構驚いたのだけど、全身血塗れだったんよ。

 確かにちょいちょい切られてたし、血もどんどん流れてるとは思っていたけど、そんな大怪我になっているとは露知らず。そら、クロも必死な顔で治療するよね。だって失血死してても、さして不思議じゃないぐらいだったし。


 ちなみに、その大怪我の主な原因は・・・無理な強化魔術の使い過ぎ。つまり、自爆。

 自分でも詳細は分かってないところもあるんだけど、魔術回路から零れ落ちた力が身体の中で悪さをしてたみたい?端的に言えば『睡眠学習の中の人』が無理し過ぎたみたいな?無理しないと惨殺されてた予感がするから、なんとも言えないけど。


 というわけで、現地調査は他の皆さまに任せまして(どうせ何も出来ないという理由もあるけど)、一足先の帰宅でございます。付き添いは現場責任者であるはずの依城さん。偽名コンビが送り出してくれたとの事。恐らくは「こいつ調査には使えねぇよな」との暗黙の了解があったのではないかと。悪いけど、依城さんって無駄に物を壊したりしそうな感じするし。


 そして帰宅してからは座ってウトウトしていた。貸してもらった着替えも洗って返さないといけないけど、なんだか億劫。着替えもせずに、そのままウトウト。疲労なのか血が足りないのか、はたまた魔力とやらの使い過ぎなのか。なんだか眠い。


「あの・・・何か食べたいものとかありますか?」


 いきなり話しかけられて驚いた。我が家まで付き添ってくれ、そしてそのまま所在なさげにちゃぶ台前に座っていた依城さん。そう言えば30分ぶりぐらいに口を開いたんじゃないかな?


「あー、いまは特にお腹は減ってないけど・・・明日の事を考えるとそろそろ晩御飯を考えないとダメだよね、食べないと動けなくなるし。そうだね、いつもは唐揚げかサラダチキンばっか食べてるし、たまにはトンカツとか食べたいかも」


 なんか依城さんにしてはテンション低いし、とりあえず軽い調子で答えておいた。ずっと黙ってたし責任を感じてるのかな?死んだわけでもないし、ケガもクロの魔術と依城さんが処方してくれた謎の液体のおかげで治ってるから、別に気にしなくてもいいのに。

 そんな事を考えながらの適当な返事だったのだけど・・・効果は抜群だった。


「トンカツですね!分かりました!!確かいい感じの宅配業者があったので・・・ちょっと検索します!!すぐに見つかるから大丈夫ですよ!!!」


 おぉ、やる事が見つかると元気になったね。いきなり大声出すから一気に目が覚めちゃった。

 と言うか、あれかな、僕がずっと黙ってたから責められてると勘違いしてたのかな?それで話しかけてみたら普通に返答があったから「許された!」みたいな感じに?


 うん、大丈夫。責めてないよ。普通にしんどかっただけなんだよ。血も凄くたくさん流れ出ちゃったし。実際に、どれぐらいの出血量だったかはよく分からないけど、現場に着て行った服の廃棄と体の洗浄が必要なぐらいには血塗れになってたわけで。ちなみに、脱いだ服は元の色が分からないぐらい、特にTシャツは絞れそうなぐらいにヤバい状況だったそうな。


 そんな状況からでもフラフラしつつも歩けるまでに回復させた「魔術と謎のお薬」の効果には驚くばかり。こういう謎技術が普通の社会にも還元出来ればブレイクスルー起こりまくりのような気も。・・・魔術協会ってエラく金払いが良さそうな雰囲気だけど、案外・・・いや、分からないし、あんま知りたくも無い。うん、そっとしておこう。ヤバいヤバい。僕は何も知りませんよ。


「さぁ、ここです!どうですか!!美味しそうでしょ?!ボリューム満点!なんか良い肉らしいですし!

 ここで頼んじゃいましょう!!どれがいいですか?そうそう、もちろんお金は私が出しますから安心して下さい!遠慮しないで好きな物をどうぞ!!」


 依城さんが自分のノートPCを開いてトンカツ屋のページを猛プッシュしてきた。


 近すぎて見えねぇよ。って、これ朝もしたな?


「おっ、この熟成厚切りロースかつ弁当ってのが美味しそう」


「了解。同じの二つ頼みますね。・・・もしもし宅配をお願いしたいのですが」



 速い。具体的な目標があった時の依城さんの行動の速さはスゲェな。これは見習わないと。


「今から30分ぐらいで到着らしいですよ。美味しかったらいいですね?」


「うん、そうだね。トンカツって食べるの久しぶりだ。コンビニのホットスナックのコーナーにはなんでかチキンカツしか無いし」


「いつもコンビニなんですか?」


「うん。一人でどっか食べに行くのも作るのも、まぁ、なんか面倒で」


「確かに。分かります、それ。なんか一人だとこだわりとか無くなりますよね」


 ・・・・・・・


 あれ?会話が途切れた。と言うか、なんとなく不自然なような?本当は他に話したい事があるのに、なんだか無理してそれ以外のネタを探しているみたいな?


「・・・・・・・・・」


 よく分らない沈黙が落ちる。特に気まずくも無いはずなのに、なんとなく居心地が悪いような?


「・・・・ごめんなさい。私が緩んでいたせいで」


 依城さんがいきなりそう謝った。


「あんな場所で赤松さんを私の傍から離すなんて有り得ない選択でした。もしあなたが奥の手も何も隠していない普通の人だったら・・・きっと、こうやって帰ってくる事は出来ませんでした。ごめんなさい。私が軽率でした」


 そっか。そんなに気にしてたのか。やたら攻撃的な行動や思考が目立って、残念な人かと思ってたけど・・・それだけの人じゃなかったんだね。


「いいんですよ、そこまで気にしなくても。僕も自分で選んで付いて行ったんだから。それに流石に切り札の一つも無い状態で独り歩きなんてしませんって。ケガだってもう残ってないし。大丈夫大丈夫。気にしないで。生きて帰れたんだから問題ないよ。

 それにしても依城さんって、そんなに責任感が強い人だったんだね。もっと、こう・・・・アグレッシブな感じの人かと思ってた」


「アグレッシブ?え?私そんな感じでしたか?自分ではどっちか言うと大人しい感じかと思ってたんですけど」


 いや、それはねぇよ。


「そのうち『汚物は消毒だ!!』みたいな事を言うだろうなって感じ?ほら、今日もビーム打ちながら高笑い上げてたし。きっと見た目に反して中身は世紀末覇者みたいなノリなんだろうなって」


「・・・マジですか、そんな感じでしたか私」


 ひと昔前のアスキーアートのように手を床につき項垂れる依城さん。

「いえ、そんな、違うんです。そんな感じでなく、本当はもっとこう、あれです、落ち着いた感じなんです、本当は。ただ一時のテンションの高まりに身を任せた結果そうなったというか」


「大丈夫。もう分かってますよ。ちょっと分かりにくいけど、本当は責任感もあって優しい人だって事は伝わってますから」


 まだ俯いたままで表情は見えなかったけど「分かってくれているなら・・・いいんです」そう言って依城さんはそそくさとお茶の用意をしにいってしまった。

 もう動けそうな感じだし、僕がやってもいいんだけど、せっかくだし、ここはお世話になっておこう。

 そういやクロがずっと静かだ、そう思って姿を探してみると自分のベッドで丸まって眠っていた。僕にずっと回復術式使ってくれてたし、疲れてるんだろうね。そうか、よく考えると今回の生還の功労者ってクロか。クロがいないと普通に死んでたよね?後でお礼しとかないと。


 にしても今回は色々な人に助けられた。僕一人で出来る事なんて何も無かった。イキる前にちゃんとやる事はやっとかないと。そうでないと、きっと・・・・きっと・・・何だっけ?

 何かやらないといけない事があったような?

 まだ血が足りてないかな?なんだか頭がはっきりしない。自分が何を考えているのか、なんだかはっきりしない。


 そうして日曜の夜は穏やかに過ぎて行った。

 届いたトンカツ弁当に5千円札を出す依城さんにビビったり。そのトンカツの美味しさにビビったり。途中で起きて来たクロにカツを奪われたり。


 なんだかんだで今日も楽しい一日だった。

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ