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猫と僕と知らない世界  作者: シマタロウ
第一部1章:猫と見習い

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5-4:猫と大事件 気持ちはよく分かるよ、僕もやられたから。

 現場は車と徒歩で二時間弱の場所だった。


 同じ市内の山の中。昔、この街が景気の良かった頃に別荘が建てられていた区画。今は朽ち果て忘れられている区画。そこが件の竜牙兵が目撃された場所だった。

 未だ姿を見せぬ魔術師さんも、肝だめしで山の中をうろつく馬鹿がいる事や、そこで撮られた写真をネットにアップされる事なんて想定外だったらしい。


 気持ちはよく分かるよ、僕もやられたから。辛いよね?


 で、切っ掛けはどうあれ、一度片鱗を掴んだプロの動きは早かった。僕たちが現場に到着した時には既に応援要員の鈴木さん(仮)と田中さん(仮)は、現場の情報をかなりの精度でおさえた後だった。

 というか二人とも名前は偽名らしい。この業界マジ怖い。偽名とか使わんでしょ、普通は。二人はともにスーツ姿の中年男性だったのだけど、そのスーツは魔術が施された品らしく防弾・防刃性能が普通の装備品の比ではないぐらいに高いそうだ。・・・Tシャツ・ジーパン・頭部に猫をセットした防御力ゼロの阿呆がいるんですけど上着だけでも貸してくれないものでしょうか?


 ちなみに、僕の立ち位置は協会が連れてきた現地協力者(即戦力)という感じらしい。鈴木さん(仮)が「前衛は頼むぞ」って肩をポンとしながら渋く声をかけてくれました。Tシャツ・Gパンの兄ちゃんでも侮らないところにプロ根性を見たけど、せめて武器だけでも貸してくれると嬉しかったです。


 それはそれとして目標となる魔術師の拠点(工房というらしい)は、二人の手により特定が完了していた。竜牙兵が目撃されたすぐ近く、もう潰れてしまった会社が所有していた保養施設、そこが目標の工房という事だ。


 周囲の森も含めた広大な土地面積を誇り、宿泊に使う施設も洋館風の大きな建物と、それはもう立派ではあるのだけど、それ故に買い手が付かず、表向きには絶賛廃墟中との事。

 周囲の他の建物は個人用の小さな物ばかりで、とても工房に使えるような広さは無い。それを踏まえて、怪しさ抜群のそこを昨夜から調査の対象にしていたとの事。


 そして現場に入る前に見せて貰ったのは、その建物の空撮写真。建物の入り口で歩哨をしている骸骨君の姿がばっちり映っていた。ちなみに僕が何より驚いたのは、普通にドローンで撮影された写真だった事。魔術の世界だからフクロウとか使わないの?ねぇ?みたいな。

 あと他の情報として何処から入手したのか見取り図もあった。依城さん曰く「地下室が超怪しい」との事。

 まぁ、イメージそんな感じよね。「魔術師=地下」みたいな?幽霊とか骨とか使ってるし。

 そんなわけで、骸骨写真の発見からおよそ半日で拠点の特定が完了していた。なんかご愁傷様って感じ。

 怖いよねSNS。気を付けよう!情報流出!!


 というわけで、現場に到着した僕は一人(と一匹)で目標の正面玄関が見える場所に身を潜めている。歩哨に立っている竜牙兵が遠目に見える絶好のポジション。別に囮になるとか、そういうのではない。今から始めるのは前哨戦であり、他のメンバーに対して僕がどれぐらい使えるかの説明作業。


 付いて来てしまった以上、僕も自分の便利さをアピールしておきたい。そして、どうせなのでお手当もガッツリ頂きたい。もちろん、偵察から即武力行使の判断を下す依城さんに思うところが無いわけでも無いけど、それはそれ、これはこれ。やらねばならぬなら、出来る限りの事をやりましょう。

 そもそも彼女がいやに好戦的なのは最初から織り込み済み。分かって付いて来てるのだから自分なりに用意だってしている。


「ねぇ、マスター。本当に大丈夫なの?武器も結局そんなのだし。無理して一人でやらなくても」


 毎度おなじみ頭に張り付いているクロが心配そうな声を上げる。


「うん、大丈夫。流石にこれぐらいは出来ないとね。任せときなって。失敗しても逃げたらいいんだしさ。大丈夫大丈夫。気楽に行こう」


 そう言いながら僕は強化魔術を展開する。

 既に熟練の域に達した魔術が意識する事さえなく、自然に体に浸透していく。無駄なく十分な強度で、そして、外に漏れる魔力を最小限に。それこそ傍から見れば魔術を使っているかどうかさえ分からないぐらいに力を体内だけで循環させる。


 感覚器を魔術的なものに頼っているレイスや竜牙兵にとってみれば、今の僕の有り様は天敵と言えるだろう。だからこそ、ここは華麗にスマートに決めていきたいところ。


 建物の入口で歩哨をしている竜牙兵は2体。SNSに晒されたせいか建物から離れたところに配備はされていないようだ。

 ここからでは建物の中にどれぐらいの警備がいるかまでは分からない。

 これは、正直、少し辛い。


 今からの流れは、まず僕が先制で入口を押さえ、その後、一気に依城さんが建物一階を制圧する・・・という粗くて雑な作戦と言えないような手筈になっている。つまり、テスト的意味合いが強いとはいえ、僕の働きは重要だ。

 最初の動きで場を押さえきっておく必要がある。こちらは少人数。敵に反撃の機会を与えるわけにはいかない。必要なのは速さと確実性。


 一本だけ武器を抜き右手で握り込む。そして予備が入った武器袋を左肩に背負いなおす。


 目標は玄関前の2体。3メートル程度の間隔でボサッと突っ立っている。

 僕が隠れている植え込みから、相手までの距離は150メートル程度。

 外に漏れる魔力を抑えている僕に気付いている様子は無い。つまり、楽勝だ。何の問題も無い。


 まずは右側の骸骨目掛け全力で突撃する。

 精度が上がった強化魔術はバカみたいな加速を一歩目から簡単に実現した。地面を抉り込むように蹴り込むように数メートルの歩幅で駆けて行く。


 瞬く間に距離が詰まり、骸骨が二体ともこちらの存在に気が付く。


 だが遅い。


 骸骨が右手に持った大きな刃物を構えるより早く、こちらは必殺の間合いに入っている。

 相手の左肩から袈裟切りの形で武器を振り下ろす。

 インパクトの瞬間、風船が破裂するような軽い音が響き、それと合わせて骸骨の身体が崩れ始める。狙い通りの一撃必殺。

 勢いのまま骸骨の身体があった位置を斜めに通り過ぎ『武器』を振りぬく。


 武器は・・・まだ崩壊していない。このまま予定通り使える。そう判断し、もう一体の骸骨に斬りかかろうとするも、相手はこちらに向けデカい刃を振り下ろしている最中だった。

 僕の武器に攻撃を受け止めるだけの強度は無い。


 なので、いつぞやと同じ方法を取る。

 骸骨の斜め後ろに向け、大ステップ。


 謎の骸骨とは言え人体を模した構造を取っている以上、手が届かない場所への対応にはワンアクション必要になる。その間にこちらの一撃を入れるだけ。


 武器を左手に持ち替え、裏拳を放つような姿勢で振り抜いた。ちょうど背中の真ん中に一撃が入り、その瞬間、軽い破裂音とともにバラバラと骨が崩れていく。


 瞬く間に初戦は完了。想定通りの結果で終える事が出来て一安心。

 そして、やはり手に持った武器は流し込まれた魔力に耐えかね形を崩していく。十秒程度しか保たないのは改善出来なかったけど、十分働いてくれたので問題は無い。


 急速に黒ずんできた武器だったモノは、なんとなく汚い感じなので足元に投げ捨てた。まだ沢山あるし使い捨てても惜しくは無い。


「流石、協会の用意された方は格が違いますね。ここまで圧倒的とは思いませんでしたよ。ところで、さっき振るっていた武装は一体何なのでしょうか?あの威力の物を使い捨てにしてしまっても良いのでしょうか?」


 ナイスミドル(鈴木仮)が話しかけてきた。たぶん「使い捨てに出来るぐらいの物で高威力なら自分達も使いたい」って事なんでしょうが、そうじゃないんだなぁ、これが。


「相手に魔力を叩きこむ媒体に使ってるだけなんで、実は得物は何でもいいんですよ。ほら、ただの塩ビパイプですもん、これ」


 左肩に下げている袋の中身を見せてあげた。3本900円×3セットの、持ち手も何もない塩ビのパイプが入っているだけの中身を。


「この戦闘方法自体も、相手が魔術生物って言うんですかね、ああいうのじゃないと有効に使えないんで、あまりお勧め出来るものでも無いですよ」


 説明はしてみたけど、鈴木(仮)さんは呆気にとられた顔をして、たぶん聞いていない。

 ちなみに、揺れる尻尾の感触が伝わってくる事からクロはきっとドヤ顔をしている事だろうと思う。霊体化解かなきゃ他の人には見えないけどね。


 とりあえず、僕のデビュー戦は無事成功で終わったようで良かった良かった。

 


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