5-2:猫と大事件 うちの稼ぎ頭は猫です。
初めての調査でレイス達と遭遇した翌日、依城さんと打ち合わせを行う事になった、何故か分からないけど僕の自宅で。
まぁ、打ち合わせ場所なんて些細な問題だ。別に何処だっていい。そう、それより大事なのは、いま目の前にある予期していなかった物の方!
「おぉ、マジっすか!!本当にこんなに貰っていいんですか?!ありがとうございます!
・・・・えと、振り返ってみると大してお役に立てて無かったと思うのですが、本当によろしいので?」
「そりゃ、いいですけど・・・何でいきなり敬語?」
「え?雇い主だから?」
「いいですよ、そんなの気にしなくて。それに雇ったというより手伝って貰ったって感じなんですし」
「はぁ、そんなもんすっか。あざっす」
とりあえず貰えるものは貰っとくのがいいよね。家族(猫)も増えたばっかりだし。
さて、僕が依城さんに貰ったのは昨日のレイス×6(+1)に遭遇した際の危険手当と調査協力費という奴らしい。つまり、お賃金でございます。事件翌日の日曜夕方に現金手渡しで報酬がもらえるとか、このスピード感いいね!!
・・・いや単なる日雇い労働か?まぁ、いいや。なにせ金額が金額だし。
なんと!夕方から夜までで、実働は3時間にも満たないのに!
なんと!
一晩で!!
3万5千円!!
時給1万オーバー!!
こんな貰える仕事って他にある?いや無い!ありがとう!依城さん!!これからも付いていきます!!!
「本当は戦闘になったんだし、もっと渡したかったんですけど、上司からストップかかりまして。『お前がいたんだからレイス相手なんて戦闘とは呼べんだろ』ですって。だから申し訳ないですけど、今回はこれだけって事で勘弁して下さい」
え?これ少ないの?時給1万以上で??
・・・・やっぱ安易に付いていくのは止めた方がいいかも。たくさん貰えるけど危険もいっぱいな職場です。実に怖いですね。
うん。そうだね。金額に騙されてはいけない。お金に流されてはいけない。落ち着こう。そうだ。冷静に冷静に。何事も命あっての物種。
ご安全に!!
「それで明日以降の調査ですけど、こちらも協力費という形で報酬はお支払いします。とはいえ赤松さんもお仕事がありますし、ひとまず対象の居場所に目途がつくまで、クロちゃんを貸して頂ければと思うのですが、よろしいでしょうか?
正直、私の探査魔術よりクロちゃんの物の方がだいぶ範囲が広いみたいなので頼りにさせて頂きたいところなんです」
依城さん謎の上目使いでのお願い。あら可愛らしい。でも・・・
「調査に協力したいのはやまやまだけど、飼い猫を危険に晒すような事には少し抵抗があって」
「いやいや、猫じゃないわよ?!」
お金の入った封筒を叩きまわしていたクロが抗議の声を上げ、僕の二の腕をペシペシと叩きだす。猫じゃん。完全に猫仕草してるじゃん?
「忘れてるかも知れないけど、わたしはれっきとした使い魔なんだから、調査とか凄く得意な分野なの!
それにナギと一緒なら危ない事なんて無いから心配しなくても大丈夫よ!むしろ何が危険なのか知りたいぐらいだわ!」
尻尾を立てながらそう主張する飼い猫。うちの猫はいつも主張が強いなぁ、おい。
でも、よく考えたら、それはその通り。依城さんという魔術界隈ではスゲェ強い感じの人が傍にいるならクロは安全な気がする。
もし先方がこっちに報復を試みた場合、僕とクロだけの時を狙われたら勝ち目なんて万が一にも無い。僕とクロだけなら近距離戦じゃないとどうしようもないしね。それこそビームとか出て来たら目も当てられねぇ。でも、そこに依城さんがいれば返り討ち確定なわけで。
というか、よく考えたら何で魔術なのにビーム?飛び道具は、そりゃ怖いもんだけど。
とりあえず、ちょっと興奮している感じのクロの頭を撫でてお返事タイム。
「そうだね。依城さんが一緒にいてくれるなら滅多なことも無いだろうしお願いします。
クロ、頑張っておいで。分からない事があったら依城先生に聞くんだよ」
「先生・・・という程の人ではないですけど、ありがとうございます。クロちゃんと一緒にサクッと見つけちゃいますから」
依城さんは良い感じの笑顔でそう言った。今日は怖い笑顔ではなかった。いつもこんな感じなら付き合いやすいのに。
そして早速、その日の晩から二人は調査に向かった。ちなみに、クロの日給は僕の普段の仕事の2倍程だった。なんか、ちょっと・・・ちょっとだけ、辛い。
というわけで、その日から依城さん&クロという謎のコンビによる調査活動が始まった。平日は出勤前にクロを預けて、夜になったら家にクロが送り届けられるという生活パターン。
一応、魔術の特訓も自習という形で行ってはいるけど正直成果は芳しくない。武器で戦力強化計画はどうにも限界があるみたい。あくまで僕が使える強化魔術は自身の肉体に限るって事なのだろうか?正直、自分の事ながら、そこはまだよく分らない。
で、調査の方だけど、こっちはすんなり終わるかと思っていたのだけど、意外と手こずっているそうな。クロは毎日楽しそうにしているけど、毎晩クロを届けてくれる依城さんの表情が少しずつ沈んでいくのが可哀そう。
恐らく件の魔術師さんは「恐ろしい黒い武士を引き連れた協会の魔術師」から逃亡する事を選んだのだろう。
そりゃ、普通そうするよね。めっちゃ怖かったし、あの黒いの。あんなのに立ち向かう奴がいたら、それだけで十分正気を疑える。というか正気なら無理。
ちなみにだけど、正直なところ、僕個人としては今の状態にそこそこ満足している。相手が見つからないから危険も無いし、クロが出稼ぎに行ってるおかげでお金にも余裕があるし。依城さんが気の毒な状況にある事さえ忘れれば実に良い状況。
もし相手の魔術師が見つかれば穏当に物事が進むとは思えない。出来ればそんな場にクロはいて欲しくない。もちろん、本当は依城さんにも平和に過ごしてもらいたいけど、それはきっと無理だろう。流石にそれは贅沢な話。
だから、このまま何も見つからず、何も起こらないまま、出来る限り早く調査が終わって欲しい。
些末な話かも知れないけど、仕事に一人で行くのも、一人で誰もいない家に帰ってくるのも、なんだか寂しく感じるようになってしまった。いつも頭の上で寝たりしゃべったりしているクロがいないだけで、今まで当たり前のようにしていた毎日の生活がとてもつまらない。
誰もいない家に帰って一人で食べる食事が実に味気ない。別に美味しくないサラダチキンが更に美味しくない感じ。
軟弱な事ではあるけど、早く調査を終えてクロを開放して欲しいと思ってしまう。大事な仕事をしている、ってのは分かるんだけどね、頭では。
そんなこんなで依城さんとクロのコンビは探索に、僕は仕事と魔術の自主特訓という淡々とした日々がおよそ2週間ほど続くことになった。若干の不満はあるが平和で穏やかで実に素晴らしい毎日だった。




