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猫と僕と知らない世界  作者: シマタロウ
第一部1章:猫と見習い

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閑話:彼の事情

「なんなんだよアイツら!六体だぞ!六体全部ぶっ壊しやがった!どんだけ時間をかけて用意したと思ってるんだ!クソがっ!!」


 閑静な住宅街、その一軒で男性がわめき声を上げている。彼がいる家は日中だというのにカーテンを閉め切り薄暗いまま。まるで時間の経過など気にせず、夜が明けたことにも気が付いていないかのよう。


 薄暗い家の中、無意味にわめき声だけが響き渡り続ける。

 だが唐突にわめき声がおさまった。そして次に聞こえてくるのは嗚咽。彼は左手を押さえながら床に蹲っていた。


「ちくしょう・・・また痛み出しやがった・・・・マジ何なんだよ、あいつら。

 俺が何したっていうんだよ・・・・クソ・・・・いてぇ・・・いてぇよ・・・」


 これは使い魔の左手が切断された事が、その痛み・衝撃までもフィードバックという形で術者に戻って来た結果。実際には肉体の損傷は一切ない。ただ意識が『左手を切断された』と認識してしまっているだけ。

 強い精神力で押し殺す事は出来ただろう。あるいは、影響を押し留める手法もあっただろう。

 だが、残念な事に、彼はそのどちらの方法も取る事は出来なかった、彼自身の経験の無さ故に。

 だから一人孤独に仮想の苦しみで蹲っている。ただ無為に独りで苦痛を甘受している。


「・・・早く・・・早く用意を進めないと・・・こんなところで止まってたら間に合わない・・・どうにかしないと、早くどうにかしないと・・・」


 彼は痛みに溺れるだけでなく、先の事にも思考を向けだした。

 彼には目的があるのだから。そして、敵が現れたのだから。

 目的の完遂と敵の排除、あるいは回避。これからの行動を決めなければならない。

 でなければ、あの二人に狩りだされ、目的も果たせず、ただ裁かれる事になるのだろうから。


「どうやって嗅ぎつけたんだ・・・いきなり協会の奴らが来るなんておかしいだろ」


 独り怨嗟を吐いたところで聞いてくれる者も、代わりに考えてくれる者もいない。

 独りでどうにかするしかない。自分でどうにかするしかない。


「早く工房に行かないと。あそこなら、まだ・・・きっと・・・バレていない。準備を進めないと。

 数で進めるのはもうダメだ。集中させて・・・奴らに見つからないように・・・進めないと」


 敵対者の排除より少しでも早く目的に近づく事を彼は選んだ。

 だって、彼は『目的』を果たすためにこそ魔術の道を歩んでいるのだから。

 そして、その目的の達成には明確な時間制限がある。協会の人間なんかに時間を費やしている場合ではない。ただでさえ自分の手足として使っていたレイスの過半が破壊されてしまったのだ。もう一刻の余裕もない。早く動き出す必要がある。次の策を、次の方法を考え出す必要がある。


「・・・そうだ。こんなところで時間を潰してる場合じゃない。行かないと」


 目的意識が彼になけなしの精神力を振り絞らせる。痛みをこらえ、ゆっくりと立ち上がり部屋から出た。


 まずは工房に向かう。後のことはそれから考えれば十分だ。正直なところ、間に合うかどうかは分からない。だが何もせず諦めるわけにはいかない。

 俺には目的があるんだ。どうしても達成したい、目的が。そのために出来る事は、きっと何だってやるべきだ。


 信念を曲げてはいけない。目的を忘れてはいけない。

 彼はそう思い、再び行動を開始した。

 


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