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猫と僕と知らない世界  作者: シマタロウ
第一部1章:猫と見習い

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4-3:猫とこれからの話 どう足掻いてもビームはねぇな

「うまくいかないものねぇ」


 クロは溜息交じりにそう言った。


 場所は、いつも通りにお部屋のちゃぶ台の上。お行儀よく座りながらも、その黒くて細い尻尾があっちにフラフラ、こっちにフラフラ。可愛らしいけど、ちょっと不機嫌?


 僕達は今週に入って毎晩「強化魔術を物に付与する特訓」をしている。身体の強化は出来るけども、いざという時に備えて得物の用意も出来るようになっておきたい、そう考えたわけで。で、その結果だけど・・・


「だいたい10秒ぐらいかしらねぇ。それ以上続けると壊れちゃう。でも途中でやめても壊れちゃう。つまり、持続時間極小で一回だけ強化出来る魔術、みたいな感じね。うん、あんま使いどころ無いわね」


 愛しの黒猫からもわりと散々な評価。今のところは毎日100均で買ってきた様々なものを破壊するだけの簡単なお仕事です。・・・うん、向いてないな!


「あれだ!細かい作業は分からん!諦めよう!!!僕には無理だ!!」


「珍しく元気が良いと思ったら、実に潔く諦めたわね。まだ日曜から始めて4日目じゃないの」


「でもー、だってー、なんの取っ掛かりも無いしー、体を強化してる時はもっと上達していく感じあったしー。今回は自分が何やってるかもサッパリ分からないしー」


「そこはかとなくムカつくしゃべり方ね。でも、まぁ、一理あるわね」


 一理は無いんじゃないかな?!思いつきでしゃべっただけだし!


「たぶん、構造がイメージ出来てないから魔力がうまく流れないのよ。案外、簡単な作りの物ならうまく行くかも?」


 作りが簡単?・・・棒きれ?・・・いや木は難しい。道管とか師管とかあるし。刃物も当然難しい。なんか硬さの違う金属とかの組み合わせなんでしょう?あんま知らないけど・・・100均の包丁なら既に試したけどダメだったし。


 ちなみに包丁を含め実験に使った色々な物は、魔力を通した後、例外無く黒くてグズグズした謎の物体になりましたとさ。一体何が起こってるんでしょう?僕には何も分かりません。


「そうねぇ・・・金属パイプとかどうかしら?合金とはいえ比較的単純な素材だし、中身は空洞だから、構造の理解もクソもないし、きっといけるわよ!」


 そんなんでいいの?本当に目指すべき魔術師像ってそんなんでいいの?強化鉄パイプを振り回せるようになっても、絶対その延長線上にビームとかはねぇぞ?


「うん、そうだね。アマゾンで見てみようか、パイプ」


「ホームセンターとかで売ってない?」


「・・・そだね。明日の帰りに買ってくるよ」


「よろしく!明日が楽しみね!うまく行ったらナギにも教えてあげなくちゃ。きっと驚くわよ!」


 そら、強化鉄パイプの生成に成功しました!とか報告したら驚くよ、普通は。意味不明だもの。

 ちなみに、今週に入ってから、クロは日中ずっと依城さんと行動を共にしている。類まれなる探索能力に期待されての事だ。前回調査の実績もあるからね、採用される事に何の不思議も無い。

 ・・・僕?僕はいつも通り工場で働いてますよ。特に出来る事も無いし、生活もしていかなきゃならんからね。クロのカニカマ代ぐらいは稼いでくるよ。


「んで、探索はどうなん?手がかりとか見つかった?」


「今のところ何もないわね。ナギの後に付いて行って、時々探査魔術使って、お話してご飯食べて帰ってくるだけよ」


 勤務状況が楽しそうで羨ましいが、これは専門技能の勝利という事なのだろう。そして、僕の予想通り、相手さんはこちらを避けて行動してくれているようだ。正直、もう出会う事が無ければいいなって感じ。お互いにその方が幸せよね?たぶん。


「そっかぁ・・・ご飯は美味しいかい?」


「毎食『ほぼカニ』貰ってるの!ナギが鞄にいれて持ってきてくれてるから!いい人よ!マスターも今度貰うと良いわよ!!」


「うん、良かったねぇ」


 どうにもカニカマ代すら稼がなくて良いようだ。僕の存在価値がヤバい。


「じゃあ、そろそろ寝る用意しましょうか!明日が楽しみね!きっとうまく行くわ!」


 クロが楽しそうにそう言ってくれた。うまく行ってない現状を責めたりしないとても良い子です。


「そだね。明日は頑張ろう」


 そうやって、平穏な一日が終わった。



 


 ふと夜中に目が覚めた。


 ここ最近は毎日夜中に目が覚める。そして、いつも同じような夢を見ている。

 始まりはクロに初めてあった日。

 その日から毎日同じような夢を見ては、同じように夜中に目を覚ます。


 暗い部屋の中、いつものようにクロを探す。

 今日は枕元においた猫用ベッドで丸まって寝ていた。

 そっと背中をさするようにして撫でた。クロは眠ったままググっと伸びをし、手で顔を隠すような仕草をする。まるで猫そのもののような動きで実に可愛らしい。


 そんなクロを眺めながら僕はボンヤリと時間を潰す。

 夢から覚めると眠りにつくまでは少し時間がかかる。目がさえている、というか頭が疲れているような感じがあるから。

 夢の中で僕は魔術の使い方について学んでいるか、実践しているか、よく分からないけど何かそんなような事をしているらしい。だから、いつもこうやって夜中に目覚めた時、知らなかったはずの知識や感覚を『知っている』


 たぶん最初にクロが使い方を突っ込んでくれたのがジワジワと定着している・・・とか、そんな事なのだとは思う。

 最初は単純に術式自体の使い方や体を動かす感覚の強制インストールという感じだった。ちなみに、これが依城さんもビックリの三週間での強化魔術の力量向上の正体。なんて事は無い。僕自身が頑張ったとか才能があるとかではなく、実際は単なる魔術式睡眠学習の効果だったってわけ。どうにもクロ自身もその効果の程は分かっていなかったようだけど。


 僕自身は楽に実力を伸ばせるって事で、最初は単純に喜んでいたけど、最近ではちょっと事情が変わってきた。使い方を習得し終わっても、まだ夢は続いていたから。

 いまや術式の使い方を超え、強化魔術を使用した『具体的な戦い方』にまで、その内容は進んでしまっている。こんなのは、この国で普通に生きていれば一生経験出来るような事で無いのは明らか。

 その過激さから考えて、この辺りで止めてもらうのも手なのだろう。だけど、いま探している魔術師に『不幸にも』遭遇してしまう可能性を考えると・・・今の間に知識と経験を詰め込んでおく事が正解なのかも知れない。


 でも、少し気になるのは、自分がいとも簡単に『普通の人間では受け入れがたい暴力的な手段』を選択肢として考えてしまっている事。毎日の『夢』という形で僕の中に放り込まれ続けている知識や経験が、僕の『有り様』自体にも影響しているのではないか?正直、そんな疑念を消す事が出来ない。

 今まで生きてきた中で『暴力』が当たり前のように選択肢に残る事なんて無かったはずなのに。・・・たぶん、無かったはずなのに。

 経験という形で誰かの考えや思想が僕自身に織り込まれて行っているのではないか?どうしても、そんな思いを抱いてしまう。


 でも、家族を、クロを、守るために必要な可能性があるのならば、少々の疑念程度なら呑み込んでしかるべきだろう。


 たとえ、それ自体が植え付けられた経験に誘導された思考であったとしても、今の僕は確かにそう思っている。

 


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