4-1:猫とこれからの話 わたし達には派手さが足りない
「私達には突破力が足りないと思うのよ!!」
日曜の朝からテンション高めなクロのシャウトが我が家に響く。ちなみに、いま僕は朝ごはんの真っ最中。クロは食卓(ちゃぶ台)の真ん中に鎮座してのシャウト。
せめて後数分が待てないのだろうか?・・・まぁ、猫にこらえ性を期待する方がおかしいとは思うけど。
「いきなりどうしたの?」
若干鬱陶しいけど続きを促す。これをしないと我が家の猫は話がどんどこ脱線していくので。
「昨日ナギの戦いを見て思ったのよ!ああいう派手さがわたし達には足りないの!!」
クロは尻尾を真っすぐ立て興奮しながらそう続けた。クロと依城さんって、いつの間に名前で呼び合う関係になったんだろうね?
さて、それはそれとして、なぜ我が家の猫がこんな事を言い出したのか?理由は簡単で依城さんに影響されまくったからだ。
昨夜、プロの魔術師として圧倒的な技能とヤバそうな一面を見せてくれた依城さんだけど、帰路での魔術の解説と感想と自慢が凄かった、帰りのタクシーの中でも、食事の場でも。ちなみにご飯は奢ってくれた、実に良い人。
もちろん、話の相手は僕では無い、何の知識も無い僕では話題に付いて行く事さえ出来ないのだから。ターゲットになったのはクロだ。ほどよく知識があり、説明されたら理解出来てしまい、そして何より自分の無力さを理解してしまった直後。それはまぁ、良く沁みる事、沁みる事。何を聞いても感動するクロと、どうにも語りたくて仕方がなかった依城さん。二人の相乗効果で話は無限に弾んだ。二人とも素面なのに酔っ払いみたいだった。辛かった。正直、辛かった。興味が無いとか、そういう以前に何の話かさえ分からなかったんだもの。帰りたいけど、僕だけ帰るわけにはいかないし。
というわけで、うちのクロは激しく依城オーラに汚染されてしまった。「魔術」という言葉の意味が一夜にして「危険」から「格好いい」に変化してしまった感じ。
「でも僕、強化魔術しか使えないから派手さは難しいよ」
「・・・・それは・・・まぁ、そうね、少しずつやれるとこから始めましょうか。そしたら、そのうちビーム出したり、地面から火柱出したり出来るようになるわよ?」
出ねぇよ、そう返したいがグッと我慢しクロの頭を撫でる。可愛らしい飼い猫の夢を潰すわけにはいけないから。
「ビームは無理でも、せめて障壁は張れるようになりたいわねぇ。かっこいいし」
猫さんは、ぼんやりと妄想に浸っている。
頑張れるなら頑張りたいところだけど正直難しいと思う。こればかりは、たぶんどうしようもない。本来、魔術師というのは、各々の家系に伝わる『術式構成や起動・運用方法』等の秘伝をベースにして活動を始めるそうなのだけど・・・・当然、僕にそんな物は無い。となると、ゼロから自分で構築する必要があるのだけど「普通の人」である僕は魔術の教育を受けたことも無いし、また受ける術もない。強いて言えば依城さんに頼み込むという方法があるかも知れないけど、まだ見ぬ魔術師の探索中に頼むのは、流石にちょっと違う気がする。というか、明らかに違う。
そうなると僕が出来る事は・・・
「といっても結局は強化魔術の使い方を工夫するぐらいしか無いのよねぇ。他にもわたしが伝えられる魔術があれば良かったのに・・・なんで強化魔術だけ?」
「あれじゃない。身を守る術、みたいな扱いだったんじゃない?」
「そんなものなのかしら・・・便利といえば便利なんだけど地味よね、地味」
そう。残念ながらクロが強制インストールみたいなノリで僕に押し込む事が出来たのは強化魔術だけだったのだ。元々「何かあった時に身を守れればいいや」って考えだったから気にしてなかったけど、野良魔術師と敵対してしまった今となっては、正直ちょっとキツイ。それこそ『ビーム打ってくるような相手に殴りかかれ』みたいな事態を想定すると、だいぶキツイ。もちろん、野良の人がビーム打つかどうかは知らないけど。
「まっ、これしか出来ないのは仕方ないわね!!とりあえず手っ取り早い戦力強化として得物を強化する練習でもしましょうか!ズバッと近づいてバットか何かで一発かます!そしたら、大体はどうにかなるでしょ!!」
それ魔術なの?ただの暴力なのでは??
「・・・とりあえず、先に朝ごはん食べるから、ちょっと待ってて」
「いいわよ!休日は有効に使わないとね!テキパキいきましょう!早く鍛えないと何時攻め込まれるか分かったもんじゃないもの!速さよ!わたし達には速さが必要なのよ!!」
一旦クロをヨシヨシしてテンションを下げ朝食を再開した。毎度おなじみの朝食、定番のオールブランを食べながら少し考える。
僕以外はあまり気にしていないようだけど、野良魔術師の人が圧倒的な戦力を持つ協会に隠れて何かしようとしているというのが理解出来ない。遅かれ早かれ発見されてボコられるのは明らかなのに。
たった一人で派遣されてきた人、しかもまだ年若い新人?でさえアレなわけで。敵対の意思を示した瞬間にふるぼっこにするような組織なわけで。というか、手の速さがおかしいよね?どう考えても。一回目の調査なのに普通にやっちゃったし。正直、まともな神経の持ち主なら敵対するような組織とは思えないんよね。むしろ出来る限り関わりたくないって思うのが普通かなって。
・・・よく考えれば、敵対するかどうかも分からない段階で、朝から全力で武装して自宅訪問して来る時点で相当にヤバイ。魔術協会ってのは意に沿わない奴がいたらボコる前提で動く組織なのかなって。
それに依城さんの調査の様子を見ている限り、動機や背景を調べる気が全く感じられない。ただひたすら「探してボコる」それしか考えていないように思える。彼女がちょっとおかしいだけならいいけど・・・いや、あれだけの武力を振るっていたのに「個人的な判断のみで動いてます」って事はないだろうし、協会とやら自体が過激な団体と捉えるべきか。
そう考えると、そんな危険団体の目をかいくぐってまで何かをしようとしている人が、偶然遭遇しただけの協会の魔術師にわざわざ敵対するとは思えない。普通なら難敵を避けて自分の目的達成を優先するはず。でないと、アッと言う間にボコボコなのだから。前回の交戦はよっぽどの理由があった、そう考えるのが自然だろう。
つまり、クロと依城さんには悪いけど「しばらくは安全に過ごせそう」、今時点の僕の結論はそんな感じ。
「さぁ、いつまでもご飯食べてないで、特訓を開始しましょうよ!敵はご飯食べてる間も待ってはくれないのよ!さぁ、鍛えましょう!鍛えないと生き残れないわよ!!」
「うん、分かってるよ。とりあえず、先に洗い物するから待っててね」
なんだかんだで平和な日常。新しい家族と魔術という新規要素は増えたけど、生活としては概ね満足。依城さんの動きは・・・ちょっと不安だけど。
ちなみに、この時の見知らぬ魔術師に対する僕の見立ては概ね正しかった。ただ「魔術に走るような人間の目標が真面な物であるはずがない」という点に思い至らなかったのは、後から考えると残念だった。




