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猫と僕と知らない世界  作者: シマタロウ
第一部1章:猫と見習い

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19/27

3-5:猫と初めてのお仕事 依城さんってバトルジャンキーなの?

 黒い武士が顔を上げ、レイスを見る。


 それとタイミングを合わせるかのように、レイスと僕たちの間にあった光の壁が薄れ、そのまま滲むように消えていく。


 頭上のクロが僕のデコをポンポンと叩いた。惚けていてはいけない。ひょっとしたら僕の出番もあるかも知れないのだから。そう考え、念のため強化術式を展開する。

 だけど、依城さんの黒い武士を見てる限りだと・・・出番は無さそうな気がする。


 結界が消えると同時、黒い武士がスルリと歩を進めた。その巨体、しかも鎧と太刀を帯びているにも関わらず何の音もしない。強化された視力で捉えているはずなのに、動きを追いきる事さえ難しい。レイスとの距離は軽く7~8メートルはあったはずなのに、一息で距離を詰め終えていた。


 黒い武士が右手の太刀を大きく振り上げる。剣術的なものを見せてくれるかと思っていたけど、技ではなく力任せで行くようだ。


 その時、レイスが動きを見せた。黒い武士と比べれば実に緩慢な動きで二体が横並びとなり手を太刀の方向に向け掲げた。現れたのはレイスを覆い隠す黄色の光で作られた盾。


「障壁!」


 頭上でクロが驚いている。僕達では障壁なんて張られたら勝ち目なんて無かった。手で触れないと決め手の『略奪の術式』が発動出来ないのだから。それを考えると先のレイス戦については「侮ってくれてありがとう」という感想しか出てこない。


 さて、黒い武士さんはどうするのかなと思っていると、彼?は気にした様子もなく太刀を袈裟懸けに振り切った。障壁は何の障害にもならず一太刀で粉砕。ついでに、壁の後ろにいたはずのレイス達も合わせて粉砕されていた。


 感嘆している間も無く、状況は動く。二体のレイスが砕けると同時、逆側にいたレイス三体の足元から白い光が立ち上る。

「黒い武士にやられた方はおとりか?!」そう判断し飛び掛かろうとしたが、どうにもレイスの様子がおかしい。光の中で苦しんでいる?


 依城さんの方を見やると短剣をその三体の方に向けていた。あと、ついでにドヤ顔だった。詳しくは分からないけど、どうにも何かの魔術を発動している様子。


 黒い武士と魔術師本体の二面攻撃とかえげつない。僕とクロがやられたら速攻で沈むね。

 立ち上る光の中レイスは無事に溶けて行った。こちらもまさに圧倒的。


「あら?全然大した事なかったですね」


 依城さん何故か残念そう。にしても、レイスは残り一体まで数を減らしたけど、このまま眺めてるだけってのも少し心苦しいかも。何も出来ていないのはレイス達だけでなく、僕と猫のコンビも同じなのだから。


 で、その残り一体なのだけど、なんかジワジワ色が濃くなってきているような?よく見ると他のレイスの残骸からフワフワと流れ出る何かが生き残りの一体に吸われているようで。これって・・・


「残り一体になって中ボスがパワーアップしてるみたいね!」


 クロがそう解説してくれた。なんか安直だけどそういう事みたい、昔のゲームみたいだね。ちなみに、心苦しさはともかくとして、気分は観客って感じになってきた。

 強化魔術も切っちゃっていいかな?することないみたいだし。


 そんな感じに少し投げやりな気分で色の濃くなったレイスを眺めていると、黒い武士さんがその前面に躍り出た。さっきと同じように大振りの袈裟切りで行くみたい。


 当然ながら、レイスも先ほどの失敗を反映して、より強固な障壁を展開した。さっきは光の盾のような質感だったけど、今回は色が濃くなりすぎてまるで本当の金属みたい。よく分からないけど硬そうな感じが伝わってくる。


 だが、そんな盾の存在なんて目に入らないかのように、黒い武士はその太刀をそのままの軌跡で盾に叩きつけた。

 先と同じように何の衝突音もしないまま激突は果たされた。だが今回はレイスの障壁に太刀が食い込み、宙に縫い留められている。ちなみに、その盾はレイスの左手側に保持されている。つまり、右手は自由だ。


 レイスの右手に細く長い棒のような光が現れた。まるで槍のようなそれを身体の後ろ側まで大きく引き、勢いをつける。


 だが、レイスの手に槍が現れる少し前から、黒い武士の太刀が鈍く光り始めていた。周囲の光をギラギラと反射するような気味が悪い光り方。


 槍が突き出されるのが先か、それとも黒い武士の刃が障壁を食い破るのが先か。結果は予想通り、太刀が障壁に打ち勝つ方が早かった。恐らくは太刀に付与された強化魔術か何かによる後押しの結果なのだろう。


 黒い武士が太刀を振り切った。レイスは障壁を左手ごと切断され、痛みにのたうつ様にその体を捩っている。右手に現れた槍も痛みの中で、その存在を溶かしてしまったようだ。


 そして、武士は、その太刀を大きく真上に振りかぶり、力任せに振り下ろす。斬撃はレイスの頭から股下へと通り、轟音とともにアスファルトを打ち砕いた。レイスの姿は掻き消され、残る痕跡は壊れた道路だけ。


 凄いな、まさに完全勝利。ところで僕達はなんで付いてきたんですかね?いらない子じゃないですか?


「あちゃあ、やり過ぎましたね。そろそろ人払いの効果も切れちゃいますし、さっさと逃げましょうか。道路の補修の話なんてしたくありませんし」


 依城さんは勝利の余韻を味わうでもなく、既に帰る方に意識が向いている。さすがプロ。切り替えが超速い。いつの間にか黒い武士も消えてるし。


「しかし、それにしても向こうの魔術師はヘボでしたねぇ。もうちょっと楽しめるかと思ったんですけど。あれですかね、レイスしか手駒が無かったんですかね?協会の監視の隙をぬって何かを企むのなら、もう少し頑張ってくれないと」


 依城さんってバトルジャンキーなの?危なげなく勝てたんだから満足しようよ?


「ま、今回ボロ負けしたわけですし、そのうちリベンジしてくるでしょう!それに期待ということで。さぁ、少し疲れましたし、なんかご飯食べて帰りましょう!何がいいですかね?」


 そして、僕たちは帰路についた、いつになく上機嫌な依城さんに少しだけビビりながら。


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