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猫と僕と知らない世界  作者: シマタロウ
第一部1章:猫と見習い

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3-3:猫と初めてのお仕事 師匠的ポジションなの?猫なのに??

「依城さんは僕がミスった時に備えて、少し離れて付いてきてくれますか?」


 赤松さんの言葉を聞いて、私は『彼の実力を測る良い機会だ』と、そう思った。正直、あんなレイスの一体ならなんとでもなります。プチっと潰せば、それで終了。でも、なんとでもなるからこそ、当て馬にするのが一番有効な使い道かなって。

 倒れている人もいますが、一旦それは横に置いておきましょう。心に棚を作りましょうってやつです。いきなり降って湧いて来たチャンスを逃すわけにはいけませんから。


 さぁ、彼はどんな風に攻めるのか、そう考えていた矢先、赤松さんが強化魔術を展開し、前傾姿勢で身体が沈み込み、消えた。


「は?!」


 戸惑いつつも魔力を追って視線を移すと、レイスが赤い靄に包まれようとしているところでした。そして瞬く間に包み終わると同時、赤い靄とレイスの姿は消え、いつの間にやら赤松さんがこちらに背を向け立っている。

 はい、さっぱり何も分かりませんでした。推し量るとか、そういう話ではなく何が起こっているかさえ分かりませんでした。いえ、起こった事自体は分かりますよ。赤松さんの強化魔術が思っていたより凄すぎて動きを目で追えなかっただけの話ですので。

 確かに魔術師の中には極稀に自分の肉体自体を武器に闘う変人がいる、と聞いた事があります。彼と彼の使い魔はコンビでそのスタイルを実現しているのでしょう。しかし、それにしても、これは・・・この練度は・・・


「素晴らしいじゃないですか?!いつの間に、こんな」


 赤松さんは、振り返ってくれましたけど


「大丈夫ですか?!」


 私の方ではなく、倒れていた男性に駆け寄った。あぁ、人、倒れてましたものね。


「大丈夫。たぶん、生気を吸われてるぐらいのものだと思いますよ?ちょっと見てみますね」

 武闘派の赤松さんに任せても仕方が無いので私が見る。簡単に体の状態を精査してみますがが・・・たぶん大丈夫そうですね。さっき言った通りに生気をチューチューされたぐらいのものでしょう。


「うん、問題無いですね。夏場ですし、このまま2時間も寝かしておけば自力で起きられると思いますよ」


「それは良かった・・・というか良いのかな?路上に寝かせておくとか酷くない?」


「酔っ払いみたいですし、それぐらいは良いんじゃないです?救急車を呼んだところで説明するのも面倒ですし。んじゃ、人が来てもなんですし場所を変えましょうか」


 簡易な人払いはしてあるものの誰か来ないとも限らない。サポートしてくれる人員もいないので、ここは逃げの一手です。

 そそくさとトランクケースを引きながら路地を出て歩き出す。最後に少し振り返ってみるとアスファルトに赤松さんが突貫した際の靴跡が綺麗に残っていました。たぶん、靴底が溶けたんでしょうね。


「それにしても凄い強化魔術でした。あんな強度のものを使ってる人なんて初めて見ましたよ。動き追えなかったですもの」


「そうよ、凄いでしょう!わたしがみっちり仕込んだんだから当然だけどね!!」


 なぜか頭の上のクロちゃんがドヤ顔をしている。

 師匠的ポジションなの?使い魔なのに?猫なのに??


「三週間頑張ったからねぇ。今回はうまく行って良かったよ。前回はアレを使った後は身体がボロボロで起きられなかったし」


「あの時は大変だったわねぇ。ほんと特訓して良かったわ!えらいわよ、マスター!」


 仲良しなのは結構だが、やっぱりゼロからここまで、たったの三週間。どう考えても普通ではありえない、そんな短期間で素人が魔術を使いこなせるようになるなんて・・・それこそ何処かで強化魔術の使い手が行方不明になっていないか照会をかけた方が現実的。

 赤松さんが『記憶操作か洗脳か何かで自分は一般人だと思わせられている魔術師』である可能性が捨てきれない。あんなの一朝一夕でどうにかなる技術じゃない。あれは幾年も研鑽を続けた魔術師が行きつけるかどうかの水準。・・・あれ?でも、そう言えば


「さっき靴の底が溶けた跡が残ってましたけど、靴は強化しなかったんですか?」


 素朴な疑問。普通魔術師なら自分の使う道具も強化しますよね?


「実は自分の身体以外にうまく魔力を通せないというか、どうしても『物に魔力が通る』って感覚が分からなくて。無理やりやると壊れちゃうし」


「あそこまで体の強化は出来るのに。なんかアンバランスですね」


「クロにもらった知識にも何故か身体強化の方法しか無かったんよ。一から練習しているから時間がかかってるのだとは思うんだけど」


「大丈夫ですって。普通はそんな短期間で魔術なんて使えるようにならないんですから。普通ですよ、普通。出来なくて当たり前です」


 そんな私の言葉に『そうなんだ。やったね!』と、猫と飼い主が戯れている。出来ない事を肯定されて喜ぶのも、よく考えると変な話なのに。

 まぁ、でも今日はなんだか疲れたし、お腹も減って来たし、詳しい話はまた今度って事で。というか、よく考えると二回連続で準備はしたものの、結局は私なにもしてないような?

 ・・・・・

 ・・・

 いえ、別に現場で動くだけが仕事じゃないですし?私の仕事はまだまだあるはずですし?

 ええ、大丈夫です、大丈夫。今日はもう終わりですけど、明日からまた頑張ればいいんです、明日から。

 それにしても、さっきから暗いし人もいないし、ご飯食べるお店開いてるんですかね?3年の都会暮らしで忘れてましたけど、地方ってこんな感じでしたっけ?


 そんな事を考えながらプラプラ歩いていると、いつの間にか猫と遊ぶのをやめた赤松さんが話しかけてきた。


「ねぇ、あのレイスってさ、誰かの指示を受けて動いてたんだよね?それにしては行動が雑というか、意思を感じなかったというか、まるで虫を見てるような、というか、ちょっと違和感があって?」


 そうですね。確かにその通りです。雑って言う表現は言い得て妙だと私も思います。私の人払いにも気づかず呑気に生気チュルチュルの実行を継続。赤松さんに対して迎撃の意思もなし(これは速攻が決まりすぎただけかも)。この二点から考えても、あのレイスは恐らく単純な命令を与えられて生気集めに勤しんでいただけなのでしょう。でも、普通の人の生気なんて集めても使い魔の燃料ぐらいにしか使い道は無い。普通の人から回収出来る『力の量』なんて、たかが知れているのだから。

 なら一体そんなのを集めてどうするのか?集めるという事は当然何かに使いたいわけで。にも関わらず、回収元はちょっとしか力を持っていない普通の人間。

 たぶん人海戦術?複数のレイスの同時使役による回収作戦。並列稼働させてるから単純な命令しか与えられなかった?


「あっ、これ不味いかもしれません」


 遅まきながら、やっと思い至った。そういえば、さっきからやけに暗いし、人もいない。つまり、人払いは完了済みって事?レイス一体が片づいただけで、私は何を安心していたのでしょうか。

 周囲の状況を確認する。まだ距離は有るが何かの気配がする。今いる場所は二車線の国道と路地道の合流地点。あまりに見渡しが悪い。


「付いて来て下さい!」


 取り急ぎ、場所を変えるためにトランクケースを引っ張りながら全力で走る。ある程度の広ささえあれば何処でも良い。

 少し走ると、路線バスが旋回するための小さな広場が見つかりました。私はそこで迎え撃つ事を決め、迫り来る気配の方を睨みつつ息を整えます。


「なんかヤバい感じ?」


 赤松さんが全く息を乱した様子も無く私に問い掛けます。さすが体力系魔術師ですね。


「えぇ、敵ですよ」


 そう応えた私は、自分でも理由は分からないのですけど、何故か微笑んでいました。

 


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