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【第3部更新中】「ノースキル」の烙印を押された侯爵令嬢、実は世界の管理者(アドミニストレーター)でした  作者: 柊ユキヤ
王宮編

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第51話 杖を求めて

 二人は光に導かれるまま教会の中を走る。光の筋は教会の奥へと続いていた。最奥には──聖遺物保管庫がある。リハーサル後に杖を保管した場所だ。だが、あの後には誰も近寄っていないし、そもそも封鎖されていたはず──それでも、今はこの光を信じるしかない。

 教会内部は薄暗く、松明の灯りだけが石壁を照らしていた。


「エミリア、どこへ!?」


 ラウルが息を切らしながら叫ぶ。


「本当に場所が分かるのか!?」

「分かるわ……こっちよ!」


 エミリアは振り返らず答えた。


「信じて、ラウル!」


 二人は聖堂を抜け、曲がりくねった廊下を駆け抜けた。松明の灯りが揺れ、壁に二人の影が踊る。石造りの床に足音が響き渡る。


(急がないと……! 殿下が偽物の杖を使ってしまう!)


 エミリアの胸に焦燥が募る。


 今、まさに広場では儀式が進行中だ。神官がソフィアに杖を渡そうとしているかもしれない。一刻の猶予もない。

 やがて、重厚な木製の扉が見えてきた。聖遺物保管庫だ。だが──


「誰だっ!」


 扉の前に、二人の神官が立ちはだかった。白い法衣をまとい、手には警備用の杖を握っている。


「この奥は許可なく立ち入ることまかりならん!」


 神官たちが鋭い声で誰何する。エミリアとラウルは立ち止まった。


(説得している時間はない──)


 エミリアはラウルと視線を交わし、小さくうなずいた。ラウルも決意を込めてうなずく。


「ごめんなさい!」


 ラウルが両手を構えた。


レディアントコイル(輝く輪)!」


 ラウルの両手から黄金の光がほとばしる。光は空中で二本の光の縄に変化し、まるで意思を持つかのように神官たちに飛びかかった。


「うぐっ……!」

「な、何を……!」


 光の縄が神官たちの身体に絡みつき、動きを封じた。二人はバランスを崩し、その場に倒れ込む。


「あんたたちにかまってる暇はないんだ!」


 ラウルが倒れた神官の腰から鍵束を取り、エミリアに手渡した。エミリアは震える手で鍵を受け取り、扉に差し込む。重い扉がきしみながら開いた。


「ラウル、中へ!」

「分かった!」


 二人は保管庫へ飛び込んだ。




 保管庫の中は、ひんやりとした空気に満ちていた。大小様々な箱が整然と並び、それぞれに法王国の印が施されている。

 光は、神託の杖が収められた箱が置かれていた場所の、隣の箱を示していた。


《対象……特定ユニット「神託の杖」》


 無機質な声が脳内に響く。


(あの箱ね……)


「ラウル、この箱の中よ。本物は持ち出されてなかったわ」

「何でここに置いてたんだろうな?」

「さあ。もしかしたら、儀式が終わった後、また本物と入れ替えるつもりだったのかも。ほら、儀式が終わったら、またここに一晩保管するから」

「他の場所では戻す時にバレるからってことか?」

「そうかもね」


 エミリアは箱の蓋を開けると──そこには、神託の杖があった。

 白銀の杖身。先端に埋め込まれた透明な宝珠。エミリアが見つめると、頭の中に《ステータス確認……特定ユニット》という、あの声が響いた──本物だ。


「本物よ!」エミリアは杖を手に取った。

「よし!」とラウルも拳を握りしめる。


 その時、向こうから複数の足音が響いてきた。


「侵入者だ!」

「こっちだ!」


 怒号が廊下に響く。松明の明かりが壁に映り、こちらへ近づいてくる。


「来た道は戻れない……!」


 二人は保管庫を出ると、来た方向とは逆に走った。


「いたぞっ!」

「待てぇ!」

「逃がすな!」


 背後から追手の声が響く。足音が近づいてくる。二人は全力で廊下を駆けた。石造りの廊下が続く。曲がり角を曲がり、また真っ直ぐ走る。息が切れる。足が重い。それでも止まるわけにはいかない。


 追手の足音がすぐ後ろまで迫っていた。


「スモークシールド!」


 ラウルが振り返り、両手を後方に向けて叫ぶように詠唱した。白い霧の障壁が廊下に展開される。視界を完全に遮る濃密な煙幕の魔法だ。


「うわっ!」

「見えない!」

「くそっ、霧か!」


 追手の混乱した声が聞こえる。二人はその隙に距離を稼いだ。


(出口は……どこ!?)


 エミリアの胸に焦りが募る。


 だが、廊下の先に光が見えた──聖堂だ。


「聖堂よ!」エミリアが叫んだ。

「出口だ!」ラウルが指差す。


 聖堂の向こう側に、正面の大扉が見える。


 二人は聖堂に飛び出した。ステンドグラスから月明かりが差し込み、床に幻想的な光の模様を描いている。聖堂の中央を横切り、祭壇の脇を抜ける。


(あと少し……! 広場に戻れば、殿下に)


 希望が見えた。エミリアの足が速まる。


 だが──


「そこまでだ!」


 低い声が聖堂に響いた。

 二人は立ち止まった。


 正面扉の前に、デルナムが立っていた。左右には黒服の部下たちが五人。彼らの手には抜き身の剣が握られ、月光を受けて鈍く輝いていた。


「デルナム卿……!」


 エミリアは息を呑んだ。


「エミリア、下がって!」


 ラウルがエミリアの前に立ち、両手を構えた。


「今まで少々のことには目をつぶっていたが、これは見過ごせんな」


 デルナムが冷笑を浮かべた。


「さあ、杖を渡してもらおうか」


 その視線がエミリアの抱える杖に注がれる。


「嫌よ!」エミリアは杖を胸に抱きしめた。


「この杖はソフィア妃殿下のものよ!」


 声が震えそうになるのを必死に抑える。


「あなたたちの好きにはさせない!」


「もう一度言う。その杖を置いて立ち去れ」


 デルナムが一歩前に出た。


「そうすれば、今回のことは不問としよう。それも聞けないようなら……力ずくで──」


「エミリアには触れさせない!」


 デルナムの言葉を遮るように、ラウルが叫んだ。ラウルの指先に黄金の光が集まり始め、魔法陣が浮かび上がる。


(ラウル一人に戦わせるわけにはいかないわ)


 エミリアは聖堂の壁際を見回した。長い燭台が立てかけてあるのが目に入った。彼女はさっと駆け寄り、燭台を掴み取った。端を握り、剣のように燭台を構える。


「なるほど、剣の真似事か」デルナムが苦笑した。

「面白い」デルナムは部下たちに視線を送る。

「しょせん子どもだ。さっさと片付けろ」


 指示とともに五人の部下たちが扇状に広がり、じりじりと間合いを詰めてくる。月明かりが聖堂の床に長い影を落とす。


「やれ!」デルナムが手を突き出した。


 黒服の男たちが一斉に飛びかかった──

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