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【第3部更新中】「ノースキル」の烙印を押された侯爵令嬢、実は世界の管理者(アドミニストレーター)でした  作者: 柊ユキヤ
王宮編

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<閑話5> 闇の中の陰謀

 深夜、王都の中心にほど近いデルナム侯爵邸。書斎の壁一面を埋める書棚。蝋燭の灯が揺らめく中、革張りの椅子に二つの影があった。

 今夜、デルナム侯爵邸を訪れていた人物は、顎髭を蓄え黒い法衣を身にまとった枢機卿──ロイデンだった。


「……ベルナードめ。娘を王妃付きの侍女に出仕させるとはな。上手く逃げおったわ」


 デルナムが、手にしたグラスの中で揺れる葡萄酒を見つめながら苦々しく吐き捨てた。その声には計算が狂ったことへの苛立ちが滲んでいる。


「あの男、普段は『騎士上がりだから』と言って政治とは一線を引いているくせに、火の粉を払うとなると急に小賢しい真似をしおって」

「たしかに、いきなり〝王妃殿下付き〟とは、なかなかの剛腕」

「まったく、いつの間に王室に手を回したのやら」

「エミリア嬢が王宮に入ったことで、我々の計画も練り直しですな」


 ロイデンが老獪な笑みを浮かべて応じた。その目だけが闇の中で鋭く光っている。


「もはや、神託祭でソフィア妃が巫女役を務めるのは確定だ。王太子の地位は盤石となり、我らの出る幕はなくなる」


 デルナムは独り言のようにつぶやくと、グラスを乱暴に机に置いた。カタリ、と硬質な音が響く。


「そうなっては困りますな」


 ロイデンはこともなげに言った。


「いっそ、王太子殿下と妃殿下を毒か何かで弑し奉る方が手っ取り早いのでは?」


 ロイデンは、まるで祈祷の詞を唱えるように淡々と告げた。低く沈んだ声には慈悲の響きすら混じり、それがかえって異様だった。だがデルナムは鼻で笑い、椅子の背に身を預けた。


「それは下策です、猊下。あまりに芸がない」


 彼は明確に否定すると、指を組み、諭すように続けた。


「毒殺など、誰が利を得るか考えれば犯人はすぐに割れます。我ら反王太子派は恰好の粛清対象となるだけですよ。粛清に理由など必要ない。そうなれば、我らの悲願も水泡に帰します。それに、王太子や王太子妃が亡くなると王国に混乱を招きます。我々の目的は安定した権力の拡大であって、混乱の中での簒奪ではありません」

「では、どうなさるおつもりで?」

「……いっそ、ソフィア妃が神託祭で失敗してくれればよいのですが……」


 デルナムは叶わぬ願望を口にするようにボヤいた。だが、その瞳の奥には狡猾な光が宿っていた。


「もしそうなれば好都合だ。『血脈が弱い妃だから神に選ばれなかったのだ』と、世論を誘導してやればいい。民衆とは分かりやすい物語を好むものですからな」


 ロイデンはうなずきながら聞いている。


「王太子の権威は失墜し、民の不安は増大する。そこへ第二王子ジュリアン殿下を立てるのです。そして……」


 デルナムの口元が歪んだ笑みに吊り上がった。


「ジュリアン殿下の妃には、〝二つ持ち〟の血脈を持つエミリア嬢を迎える。家格も十分だ。これ以上の正統性がありましょうか? 我が派閥、そして法王国の影響力は、この国で盤石のものとなりましょう」


 ロイデンは、ほう、と感嘆の息を漏らした。


「なるほど……力ずくで奪うのではなく、民意を味方につけて、あくまで合法的に転覆させると。たしかにその方が自然で確実ですな」


「しかし……」とロイデンは続けた。


「テルネーゼ侯はご息女を侍女にして、巻き込まれるのを避けたのでは?」


 デルナムはニヤリと口角を上げた。


「なあに、結局は時間稼ぎにすぎません。いずれは逃げられなくなりますよ。それに……なにも候補はエミリア嬢だけではありません」


「ほう……」ロイデンの眉が上がった。


「ルーエン卿にもイルダというご息女がおられます。彼は派閥争いには消極的ですが、血脈信奉という点では我々の同志。イルダ嬢はジュリアン殿下を慕っているという話ですから、話を持ちかければ娘可愛さに乗ってくるでしょう。彼も、伯爵そして騎士団副団長と家格は十分。まあ現時点では、エミリア嬢の方が社交界に名が売れていて賛同を集めやすい、ということですな」


 デルナムは葡萄酒を一口飲んだ。


「それにエミリア嬢自身、なかなか優秀だ。社交界での評価は単なる〝二つ持ち〟だからというわけではないようです。このまま育てば、やはり第二王子妃として申し分ない。ジュリアン殿下もエミリア嬢には何度か接触しておられるご様子。何かしらの関心はお持ちかと」


 ロイデンが小さくうなずいた。


「殿下はまだお若い。お考えも流動的でしょう。過信は禁物ですな」


「……おっしゃる通りです」


 デルナムは認めつつも不敵に笑った。


 デルナムの笑みにつられるように、ロイデンも満足そうにうなずき、不敵に笑った。その顔には獲物を見つけた狩人のような獰猛さが浮かんでいる。


「なるほど、よく分かりました。ちなみに儀式の件ですが、良い案がありますぞ、デルナム卿」


 ロイデンは身を乗り出し、声を潜めた。


「まずは、神託祭で巫女が使うという〝杖〟を見せていただきましょうか」

「杖、ですか……?」

「ええ。『神託の杖』は、本国が貴国へ特別に管理許可を与えている聖遺物のひとつではありますが、なに、理由はどうとでもなります」

「杖に何かなさるおつもりで?」

「いやいや、それではさすがに足がつきます。まだ半年近くあります。間に合いますよ」


 ロイデンは顎髭をさすり、口角を上げた。


 蝋燭の炎が揺れた。書斎の闇が、まるで二人の密談を隠すために、さらに深くなったかのようだった。

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