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「ノースキル」の烙印を押された侯爵令嬢、実は世界の管理者(アドミニストレーター)でした  作者: 柊ユキヤ
覚醒編

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第24話 追跡調査

 翌朝、三人は書庫に集まった。テーブルの上には王都の詳細な地図が広げられている。


「さて、作戦会議よ。『彷徨う鎧』は王都中心部に出没しているらしいわ。まずは出没地点と目撃日を整理しましょう」


 エミリアがペンを取ると、ラウルが地図を見つめた。


「でも、どうやって情報を集めるんだ? 騎士団が既に調査しているのに」

「だからこそよ。騎士団は〝取り締まる側〟として聞き込みをする。でも私たちは違う。例えば……アンナは市場や街の洗濯場。ラウルはギルドや魔導具屋。私は貴族のサロン。三人それぞれの視点で聞き込みしましょう。騎士団が見逃した情報が集まるかもしれないわ」


「なるほど」二人はうなずいた。


「じゃあ、さっそく作戦開始よ!」


 三人は街へ繰り出した。




 アンナは市場にいた。

 市場は活況だった。実はエミリアが市場で起こした騒動以来、「市場には凄腕の魔導剣士が目を光らせている」との噂が一人歩きし、治安が改善されつつあったのだ。行き来う人々の表情も心なしか明るい。

 しかし、耳が早い露天の商人たちは、最近の得体のしれない事件を受け、どことなく緊張の色が滲みでていた。


「ねえねえ、『彷徨う鎧』って見た人いる?」


 アンナは魚屋の女将に気さくに話しかけた。


「ああ、あれかい。うちの亭主が三日前に見たって言ってたよ。夜中にゴミを捨てに行ったら、全身鎧の何かがスーッと通り過ぎたって」

「どこで?」

「東の橋の近くさ。でもね、追いかけようとしたら、ぱっと消えちまったんだって。まるで幽霊みたいにさ」


 隣の肉屋の大将が割って入った。


「俺も見たぜ。一週間くらい前かな。市場の端の方でな。それと、向かいの小間物問屋の若旦那はいきなり斬りつけられたってよ。幸いかすり傷だったらしいが。お嬢ちゃんも気をつけな」

「ありがとう! で、それっていつの話?」

「二日前だったかな。飲みに行った帰りだったらしいからな。向こうの街区じゃないかな」


 アンナは手帳にメモを取った。

 一週間前、市場の端。

 三日前、東の橋。

 二日前、市場の隣の街区──


 ラウルは魔導士ギルドを訪ねていた。ギルドでも、やはり『彷徨う鎧』の件は噂になっていた。


「ラウル、瞬間移動の魔法なんて理論上不可能だよ。おまえも知ってるだろ」


 知り合いの魔導士が首を振った。


「でも、目撃者は『煙のように消えた』と証言しているんです」

「だとしたら、それは魔法じゃない。何か別の原理だ。古代の技術か……それとも、俺たちが知らない何かだな」

「おまえも気をつけるんだぞ。ギルドでも一人危ない目にあっているからな」

「そうなんですか?」

「ああ、いきなり襲われたらしい。威嚇で『ライトニングアロー』を足元に放ったら、そいつは逃げたらしいぞ。もっとも、夜とはいえ街中でライトニングアローなんか使ったもんだから、ギルド長から大目玉くらったらしいがな」


(魔法を嫌がった? ……もしかして、弱点なのか?)


 ラウルは手帳に書き込んだ。

 魔法ではない可能性。

 魔法が弱点の可能性──


 エミリアは、知り合いの貴族のサロンにいた。


「ええ、聞きましたわよ、例の噂」


 顔見知りの令嬢が、ひそひそと耳打ちした。


「半月ほど前から出没しているらしいですわ。最初は北の広場、次は南の大通り……まさに神出鬼没なんですって」

「半月前……」


 エミリアは手帳に書き込んだ。

 半月前から、北の広場、南の大通りに出没──




 夕暮れ時、三人は書庫に戻ってきた。それぞれが集めた情報を持ち寄り、大きな王都の地図に書き込んでいく。


 半月前、北の広場。

 一週間前、南の大通り。

 一週間前、市場の端。

 五日前、西の市場。

 三日前、東の橋。

 二日前、市場の隣の街区──


 次々と印がつけられていく。合計で十二か所の目撃地点が浮かび上がった。ろうそくの灯りが、書き込まれた印を照らし出している。


「出没地点はバラバラね……」

「法則性が見えないな。ランダムに移動しているのか?」

「でも、何か共通点があるはずですよ」


 三人は黙って地図を見つめた。書庫に沈黙が流れる。


 やがて、エミリアがハッとした表情を見せた。


「待って……これ全部、川か水路の側じゃない?」


 ラウルとアンナが地図を凝視する。


「本当だ! 北の広場の裏には運河が……」

「東の橋はもちろん川の上だし」

「南の大通りも、地下に水路が通ってます!」


 エミリアが印を指でなぞる。


「もしかして……地下水路を通っているんじゃないかしら?」

「なるほど、地下水路か!」


 ラウルがポンと手を打つ。


「そうよ。ラウル、あなた言ってたじゃない。王都の地下には古い時代の水路が網の目のように張り巡らされているって。それだったら人目につかずに移動できるし、〝煙のように消える〟のも、地下に潜り込んでいるだけなら説明がつくわ」


 エミリアは目を輝かせ、まくしたてた。


「でも、地下水路の入口は鉄格子がはまっているはずだぞ。あの隙間を人が通り抜けるのは不可能だ。それに、さすがに騎士団も調べてるんじゃないか?」

「とにかく、明日実際に見に行きましょうよ。きっと何か手がかりがあるはずよ」




 翌日の午後、三人は最も目撃情報が多かった東の橋へ向かった。

 橋の下は薄暗く、湿った空気が漂っている。石積みの壁沿いに、鉄格子に覆われた地下水路の入口はあった。


「これね……」


 エミリアが近づいて鉄格子を調べる。


 格子は頑丈で、錆びついているが壊れてはいない。普通に考えれば人が通り抜けるのは不可能だ。


「やっぱり無理だな。この隙間じゃ、子どもでも通れやしない」


 ラウルが格子を揺すってみたが、びくともしなかった。


 しかし、エミリアはしゃがみ込んで、格子をじっと見つめた。そこには微かな擦れ跡があった。


「ねえ、これを見て」


 ラウルとアンナも身を屈める。


「何かが擦れたような跡ですね……でも、こんな狭い隙間を?」


 アンナが首をかしげる。


「そんな馬鹿な。この隙間だぞ。人が通れるわけない」


 ラウルも信じられないという表情だ。


 しかし、エミリアの脳裏には、ある記憶が蘇っていた。マチルダの屋敷での『幽霊騒動』。あの時、書斎の扉の鍵穴には細かい傷があった。そして、小型ゴーレムの脚は、まるで鍵の形に変形できるかのようだった──


「ねえ、二人とも……もしかしたら──」


 エミリアが立ち上がり、二人を見つめた。


「『彷徨う鎧』って……人じゃないのかもしれないわ」

「人じゃない? どういう意味だ?」


 ラウルは眉をひそめた。


「マチルダの屋敷で見た、あの小型ゴーレムを覚えてる? あれも、不思議な素材でできていて、形を変えられるような気がしたの。もしかしたら、この『彷徨う鎧』も同じような……古代の何かなんじゃないかしら」


 アンナが息を呑む。


「古代の……鎧?」

「ええ。そうよ」


(マチルダの屋敷で見つけた小型ゴーレムと、もし同じような存在なら……)


 エミリアは鉄格子の向こうの暗闇を見つめた。そこには、何か得体の知れないものが潜んでいる気がした。


「明日、地下水路を調べてみない? 兄上たち騎士団が動く前に」


 エミリアの提案に、ラウルは困ったような顔をした。


「エミリア、それは無理だ」

「でも、このままじゃ真実は分からないわ。それに……」


 エミリアは拳を握りしめた。


「私には何か分かる気がするの。あの聖石の時も、鉄巨人の時も、幽霊騒動の時も……私が触れると何かが反応した。もしかしたら、この『彷徨う鎧』も私なら何か分かるかもしれない」


「いや、それは分かるけど……鉄格子には鍵がかかってて入れない。無理だよ」

「ああ、そのことね。大丈夫。私に考えがあるわ。明日、まずは管理局に行くわよ」


 ラウルとアンナは顔を見合わせた。


「……分かった。でも、たとえ入れても、絶対に無理はしないこと。危険だと思ったら、すぐに引き返す。いいね?」


 ラウルが真剣な表情で念を押す。


「ええ、約束するわ」


(半月前から出没……何かのきっかけで目覚めたのかしら。聖石、鉄巨人、幽霊騒動……すべてが繋がっている気がする)


 エミリアの脳裏にあの夢の光景が浮かぶ。白銀の部屋、光の文様、そして『管理者』という言葉──


(私に起きている現象と、この『彷徨う鎧』には、絶対に関係がある。地下水路に手がかりがあるに違いないわ)


 鉄格子の向こうに続く暗闇を、エミリアはじっと見つめた。

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