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静謐な小部屋で合図を待つ。
モニター上では常に識別信号が点滅している。
ザッ――――。
「管制室より、軌道周回上に敵影を検知。本作戦は迎撃任務になります」
作戦時間は――――。
【出撃するor出撃しない】
「・・・」
『マキナ、聞いているか?』
「なに?」
「今回の作戦、本来なら俺が出るべきなんだろうが……」
「別にいいよ。わたし、強いから――――!」
発艦許可が下りる。
世代更新を果たした最新型で、唯一マキナだけが適性数値を示した機体『Ex-マグア』。
エンジンの出力は比肩する物が存在せず、ハッチが開いた瞬間には周回軌道に到達し、敵影らしき機体を目視していた。
当然マキナは重力で気を失わないよう、過酷な訓練を死なない程度に何度も実施していた。強いと豪語するのも納得できる訓練内容なのだ。トラウマで気が狂いそうになるのも、テスト操縦の報酬だけで耐えたのだ。今回の作戦だって、待機しているだけでも良かったし、撃墜時の実戦データを送り付けるだけで
半年は豪遊できる。
「全機撃墜で、いくら稼げるかな……」
照準を合わせる。補正も自動でやってくれるのだから、こんな楽な仕事はない。訓練通り終わらせて、貯金額を見て、豪遊する。人生なんて幸せなだけでいいんだ。
【撃つor撃たない】
「これで仕留める」
高出力レーザーによる、各機の誘爆狙い。
機体の強みであるブースターの出力を40%使用して、撃った。
軌道によって歪みながらも着弾を確認したが――――。
「一機は運が良かったね。まぁ殺すけど」
1つ前の世代機を圧倒する速度で、撃墜に向かう。
速すぎて近接戦闘が出来ない欠点を良く知っているからこそ、この選択しかなかった。
「あれ?」
異様な空間だった。
この宇宙の闇で、何が変かと言われると言語化できないけれど。
「敵機の信号は――あるけど、下!?」
プラズマの光がモニターを埋め尽くす。
「ま、不味い。武装壊しちゃった」
回避行動として武装を捨てるしかなかった。パージした際の反動と合わせて、ブースターを焚いたのだ。
宙に浮かぶ残骸が溶け、口座の残高と一緒に溶けるイメージと重なる。
別モニターのアラームを確認しながら、その場を離れる。
「まさか、最初のレーザー、避けたんじゃ?――――」
機体のエネルギー残量には余裕があった。
ブースターで狙いを逸らすように動いているが、問題はない。
「味方は――おっそい!!!なんで私がこんな目にt」
先行し過ぎた。
いや――――。
照準を合わされているアラーム音が鳴りっぱなしである。
トラウマが刺激される。
胃が縮み上がり、吐き気を催す。
痛みから唾液を異常な程、唾液を分泌している。
ヘルメットを取って、口呼吸で落ち着かせる。
敵機を、このタイミングで目視できた。
「見たことない機体?……ッ!?」
近接武装による衝突が発生する。
「速い!味方は!?まだ!?」
新型と思われる敵機は、こちらが対応できない遠距離攻撃を織り交ぜながら、間一髪の場面を何度も作り出す。
「死ぬ死ぬ死んじゃうってぇ!!」
ザッ――――。
『戦闘空域から離れるな』
通信が入る。味方だ。
「援護してよっ!味方でしょ!」
『本作戦はテスト戦闘と聞いている』
「は――――?」
『空域から外れた際、情報の漏洩を防ぐ為に、貴官を撃墜するよう指示も出ている』
なん、で。
『本作戦は、プロトタイプのデータを基に作成された汎用機との実戦である』
『対象の機体は、貴官の戦闘データを基に――――AIによる――――』
『以上だ。』
プラズマ砲が飛んできた。通信はところどころ聴こえなかったが、勝ち目がなさそうな事だけは良く分かった。
「(はぁー。私が一人戦闘してるだけって、何それ……)」
AIの癖を見るにしても、エネルギー残量から消耗戦になる事だけは理解できる。
「何か、悪いことした?……」
「私何か悪いことしたかな……」
空域から釣り出すように誘う。
エネルギーの回復を待っている時間はない。
敵機も、それを理解して接近を図ってくる。
空域を離れた事による罰則が降ってくる。
艦砲による撃墜。
後続で来ていた味方機からの一斉射撃。
宇宙空間で二機分の爆発が起こった。
私は――――。
負けイベには慈悲がある。