会談
そこは、絢爛豪華な装飾が施された大広間であった。
赤いカーペットと金色の装飾は、王宮の一室を思い起こさせる。
『どうぞ、お掛けになってください。』
ケネスはアテナの首長に促され、着席する。
当然のことながら、周りに見知った顔は1人もいない。
これまで様々な場面を経験してきたケネスにも、緊張の色が見える。
だが、ケネスはそれを極力出さぬように心がけた。
あくまでも平静。
そして、怖気づかない事。
たとえ相手に敵対意識がなくとも、下手に出てはいけないのは外交の基本である。
『それでは、会談を始めさせていただきます。』
「よろしくお願いいたします。」
ケネスは対面に座った首長と、今一度握手を交わした。
『私はこの惑星の長を務めます、マレニア・オーグメントと申します。』
「地球連合総裁、ケネス・グアナフォージャーです。」
お互いの自己紹介を皮切りに、二つの惑星…その運命が動き出す。
「なんて複雑な構造をしているんだ…東アジアの地下でもこれほどまでではないぞ…」
小型戦闘機の操縦桿を握るガラン。
地下に突入後に現れた空間は、彼が未だ見た事のない景色であった。
この地下都市の構造は、主となる円柱状の空洞からアリの巣状に細い路地が広がった形をしている。
その分岐路の数は、数万ではきかないだろう。
「総当たりは不可能だな…」
ガランの視界には、ケネスの存在は確認できない。
「かなり面倒にはなるが…これしかできることはないな。」
ガランはマップ端末に、ケネスの個人用端末IDを打ち込む。
これで、X軸とY軸の座標が反映される。
高さ以外の位置情報が、ガランのマップに反映された。
「…かなり奥深くまで進んでいるぞ…」
円柱の半径は、直径2キロほど。
その外端から、更に5キロほど進んだ場所に、端末の反応があった。
穴の方角から、ケネスが居るであろう路地を割り出す。
「…私の腕でも、この路地を戦闘機で進むのは不可能だ。」
穴の直径は、およそ10メートル。
戦闘機をこの小さな径に収めたまま飛行するのは、至難の業である。
ガランは戦闘機をホバリングさせ、身を乗り出す。
翼に足をつけ、思い切り踏ん張る。
穴の横ギリギリにつけた戦闘機から、路地に向かって飛び込んだ。
「…よし。先を急ごう。」
手には護身用のリボルバーを一丁だけ持ち、暗い穴の奥へと消えていった。
「息子は私よりも優秀ですよ。我々の星を任せられるだけの器と技量を持ち合わせています。」
『それは素晴らしいですね。いつかご令息様ともお話をしてみたいものです。』
会談の空気は、想像よりもずっと和やかであった。
雑談にも華が開いている。
『私の両親はずっと前に亡くなりましたが…ここにいるヴァレルが、親代わりに私のことを育ててくれています。』
マレニアが手を向けたのは、隣に座る初老の男。
綺麗に染まった白髪、そして右目には黒い眼帯をしている。
『ご紹介にあずかった、ヴァレル・ケムカランにございます。』
年季の入った渋い声ではあるものの、生気を感じる風格があった。
『私がこの星の長となってからは、この星に関するほとんどのことはヴァレルと二人で取り決めております。』
ケネスは若干、その発言に引っかかるところがあった。
このレベルの文明を持った星が独裁国家として切り盛りしているというのは、少々考えづらい。
そして、あまりにも少なすぎる人口。
ケネスの脳内に、1つの可能性が浮かび上がる。
この星は、ただの前線基地である可能性。
「では、そろそろ本題に入りませんか。」
空気がピリついたのを感じる。
「なぜ、あなた方は我々とコンタクトを取ろうとしたのでしょうか。」
なぜ、あの場所で。
なぜ、このタイミングで。
地球の人類がようやく手にした安寧。
そのタイミングを見計らったように、我々の目の前へと現れた『The Athena』。
理由を探るのに、余計な配意はいらない。
『なぜ…ですか。』
マレニアの口から、笑みが消える。
ケネスは、そのマレニアの一動作に恐怖を感じた。
それと同時に、途方もない『嫌な予感』も。
『最初からお話ししましょう。』
マレニアはテーブルの上に置いていた手を体へ引き寄せ、掌をこちらに向ける。
『私たちがこの地に居を構えたのは、5000年ほど前の話でした。』