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エンター・トゥ・アテナ

宇宙港の周辺には、青々とした草原が広がっていた。

見た目通り、生身で外に出ても息苦しくはない。


それどころか、地球よりも空気は澄んでいるようにすら感じる。

人工惑星であるはずのこの地だが、地球よりも自然がいきいきしている。


穏やかな暖かさと、心地よい風。

違和感を感じるまでの居心地の良さに、ガランは思わず身震いをした。


そして、肝心なのは…。


「人の気配が…ない。」


宇宙港とは言っても、草原の中に巨大なヘリポートがポツンとあるような形である。

着陸した第一艦隊一番艦と、『The Athena』以外にはテクノロジーを感じさせる物体が一切ないのだ。


『お待ちしておりました。』


ガラン達の脳内に、声が響く。

それと同時に、Athenaのハッチが開いた。


『『地球』の、皆様方。』


軍隊と思わしき兵たちが左右にズラリと並ぶ。

ハッチの奥から出てきたのは、長髪赤毛の女だった。


地球の人間と大差ない…ほとんど同じに見える容姿。

地球ではあまり見ない、だが品があるワンピースタイプの服を着ている。


そして最も特筆すべき点として、顔の上半分を隠す仮面を被っていた。


ケネスは船を降り、女の方へ歩いていく。


「あなたがこの惑星の首長、という認識でよろしいでしょうか?」


片腕を前に出し、握手を求める。


『はい。お間違いありません。』


アテナの首長は、握手に応じてニコリと微笑んだ。

その声はやはり、耳から入ってくるものではなく脳に直接届く。

本来地球とは違う言語を使用しているが、何らかの形で翻訳をして会話を可能にしていると考えて良いだろう。


「それにしても、素晴らしい景観ですね。」


『ありがとうございます。ですが、『オリジナル』には敵いませんよ。』


その言葉に若干引っかかりながらも、ケネスは会話を続ける。


「この星にも、人は居るのでしょう?」


『はい、おります。ですが、ごく少数です』


その声は、船のハッチ付近で警戒を続けるガランにも届いていた。

…それが、人の気配が極端に少ない理由か…?

だが、それではこれほどの大掛かりなコロニーを作った理由が分からない。


「周りに建物が見当たりませんが、どこで会談をするおつもりで?」


ケネスのその言葉を聞いた首長の女は、側近らしい初老の男に耳打ちする。


『それでは準備が整ったようですので、移動しましょうか。』


何らかの確認が取れた様子であった。

それから数秒が経過すると、辺りに地鳴りのような轟音が響きだす。

狼狽えるケネスに、首長の女は言う。


『安心してください。これより、地下へ移動します。』


その言葉通り、ケネスとその周辺の地面が沈下していく。

10秒もすると、ケネスやアテナの人々の姿は完全に見えなくなった。


取り残された形となったのは、ガラン達第一艦隊一番艦の面々である。

所定の位置で立ち尽くしていたガランだったが、地面にぽっかりと開いた穴を見て正気に戻る。


その穴はかなり大きく、直径10メートルほどに見える。


「ガラン艦隊長、我々はどうしますか!」


艦隊員の任務は、ケネスの護衛。

あろうことか、ケネスを単身でアテナに引き渡してしまった。

それも仕方のない事である。


人間が一度に処理できる情報量は限られている。

ものの数分で、色々なことが起こりすぎた。


「個人用小型戦闘機を出せ。私がケネス総裁を追跡する。」


「ですが艦隊長、アテナ側に攻撃だと誤認され撃墜される恐れがあります!」


「私の腕を舐めてもらっては困る。」


ガランはヘルメットを装着、小型戦闘機に乗り込んで開いた穴に飛び込んだ。

ケネスが姿を消してから、10分後のことであった。








アテナの地表から地下1000メートルにかけてのエリアは、アリの巣のように入り組んだ空洞が無数に広がっていた。

一つ一つは確認していられないが、航空機や自動車らしきものの姿や、時には住宅街のようなものも見受けられた。


アテナの住民には、地下で生活をしている者が多く存在するのかもしれない。


右、左、右、右、左。

入り組んだ路地を、迷いなく進む。


10分遅れでこの場所を通ることになるガランは、迷わずに追跡することは困難だろう。

まるで一つの穴が一つの建物のように多機能であることが、ケネスのような素人から見ても一目瞭然であった。


2677年、今日に至るまで地球でも地下都市化計画は幾度となく提唱されてきた。

何故それが実現されてこなかったかと言えば、地下水の流出や地盤の硬さなどの自然的な要因が邪魔をしていたからである。


反面、このアテナではどうだろう。

人工惑星という特性上、自分たちの用途に合わせて惑星を作ることができる。


地下都市も容易に創造することができるわけである。

しかし、自らの力で太陽まで作ってしまうような種族が、あえて地上を捨てたというのはいささか不自然にも感じる。


疑問が疑問を呼ぶが、ケネスはそれらの疑問を一度全てシャットアウトすることとした。

これから臨むのは『首脳会談』である。


どれだけ自分たちに優位な形で話し合いを終えるか。

それはケネス自らの手腕に託されている。

今考えるべきこととそうでないことを取捨選択し、思考を整理する。


『…もうすぐです。』


首長がその言葉を発し、数十秒後。

ケネス達を乗せた地面は、とある一室にたどり着いた。


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― 新着の感想 ―
女性が言う『オリジナル』というのはもしかしたら地球のことなのではないかと(;´・ω・) 地下に拡がるアリの巣のような構造もとても面白い! 首脳会談ではいったいどんなことを持ちかけられるのか……!!
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