ミサイル
「こちら一号機グアナフォージャー、出撃準備完了。」
「二号機ハイケンベルク、いつでもいけます…!」
戦艦内部外端、戦闘機格納庫。
ヘルメットや通信機器を身につけたパイロット達が、指令室の指示を待つ。
『各機の出撃準備完了を確認。格納庫ハッチを開く。』
ゴウンゴウンという重低音が格納庫内に響く。
「「クリアド・フォー・テイクオフ…!」」
光のない暗い艦内から、光はあれど暗い宇宙へ。
戦闘機部隊は、自由を手にした。
「タイラー!あまり引っ付くな!戦いづらい!!!」
「訓練の時もこうしてたじゃないですか!今更戦法は変えられませんよ!!!」
二機の機体が、番いの蝶のように舞い踊る。
敵艦隊も戦闘機部隊を使用。
そして、戦艦の副砲および魚雷での攻撃も始まっている。
「魚雷が戦艦の動力源に当たれば、即沈むものと考えろ!最優先で撃ち落とせ!!!」
「僕が艦隊長なら、戦闘機より前に魚雷を使うんですがね!!!」
「同感だ!!!」
現職の艦隊長の考えとしては、未知数な攻撃効率の魚雷よりも機動性に優れ、勝手が分かっている戦闘機を使うというものだった。
お互いに当たれば沈むかもしれない危険な武器を使うよりは、まだ軽いダメージで済む。
世の中に核兵器が登場してすぐのころ、各国はそれを保有していたものの使われることは殆どなかった。
それと似たような状況ではある。
だが、敵艦隊はその暗黙の了解をぶち破ってきた。
艦隊長の早急な判断が求められる中、ガランたちは敵の魚雷や戦闘機を撃ち落とし続ける。
「そろそろ敵艦隊も弾が切れるはずだ!もう少し、耐えろ!!!」
部隊長・ガランの声で味方軍の士気が上がる。
戦闘機部隊の奮闘もあり、戦局は優勢であった。
ガランが敵戦闘機部隊最後の一機を撃墜した、その時。
「…!坊ちゃん、あれを見てください!!!」
敵戦艦の艦首部分がぱっくり開き、中に白い何かが見える。
「あれは…反物質ブースター…!?」
通常、艦を光速にまで加速させるために利用される反物質ブースター。
全長200メートル、円柱型のそれには翼が生えているように見えた。
そう、まるで巡航ミサイルのように。
「あえてブースターを暴走させて質量による攻撃をするつもりか…!?」
追い詰められた敵方の最終奥義。
何かに当たりさえすれば、近隣領域が全て吹っ飛びかねない。
即座に、ガランは指示を出す。
「撃つな。全機、艦隊に戻る準備をしろ。」
「ですが、アレを撃たれては艦隊もただでは済みませんよ!!!」
「…私に考えがある。」
タイラー以外の部隊員は、既に反転し戦艦へ戻ろうとしている。
「タイラー、母艦に着いたら真っ先に艦隊長へ『面舵一杯』とだけ伝えろ。」
「…!…やりたいことは分かりましたよ…」
タイラーは機体を反転させると、遠くに見える母艦の方へと消えていく。
その去り際。
「帰ったら、もう一回朝食に付き合ってくださいね。」
「ああ、私も腹が減ってるんだ。…さあ、行け!!!」
敵艦隊と対峙するのは、ガラン・グアナフォージャーただ一人。
敵一番艦は、反物質ブースターを通常の200%の動力で稼働させる。
白かったその姿は徐々に赤みがかり、熱を帯びているのが伝わってくる。
「状況から見て発射までは残り10秒程度…。」
ガランは敵艦近くまで接近したのち、エンジンを逆噴射して反転。
「5…4…3…2…。」
その目線にはタイラーの指示で右、ガランから見ると左に舵を取りつつある艦隊が映る。
「Go…!」
反物質ミサイルの発射と同時に、同じ方向へ出力100%で加速する。
「加速は同等…これならやれる…!!!」
並走するミサイルと戦闘機。
スピードメーターは時速から秒速へとその表示を切り替えた。
秒速数キロの速度で、ガランは自機の翼とミサイルの羽をピタリ同じ場所へ揃える。
ガランの翼が下、ミサイルの羽が上で重ね合わさった形。
「…さぁ、お前の進行方向はそっちだ…!」
ガランは左に舵を切る。
ミサイルのそれと重なり合った右の翼が、徐々に持ち上がっていく。
ギャリギャリと響かない音を立てながら、ミサイルの姿勢が向かって右へと傾いていく。
「艦隊の位置は…タイラーめ、仕事が遅いぞ…。だが、これなら問題ない。」
『面舵一杯』の指示で右に進路を取っていた味方艦隊は、ミサイルの進路から徐々に逸れていく。
艦隊から見て左端ギリギリのところを、傾いた姿勢のミサイルとガランが通過。
ガランは艦隊横を無事に通過したことを確認すると、そのままミサイルから離れて母艦へと戻るのだった。
この戦闘において味方軍は敵戦闘機部隊を全滅。
損失は限りなくゼロに近い。
翌2667年からの、宇宙空間における覇権を絶対的なものにしたのである。




