表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/44

「なんてことない合意条件でしたね、父さん。」


「ああ、おまえと離れ離れになった時は少しひやりとしたがね。」


ケネスはそう言って笑う。


アテナとの首脳会談は、ケネスの提案により『アテナの住民を移民として受け入れる』という形で幕を閉じた。


まずは最初のひと月に10万人から。

人口が増えてきたとはいえ、まだまだ地球に空席はある。


月や火星の開発計画も徐々にではあるものの進んでいる。

当面の暮らしは問題ないだろう。


地球の中の問題は、まだまだ残っている。

宇宙の深淵に目を向けるのは、もっと先になりそうだ。


でも、これだけの大きな仕事をした後だ。

休暇を取って、どこかに旅行でもしたいところである。


「タイラー、お前はどう思う?どこに行きたい?」


地球への帰り道、ガランは珍しく職務中に無線で雑談を持ちかけた。

第一艦隊のすぐ後ろ。

そこにはアテナに保護されていた第二艦隊がついて来ている。


『僕は坊ちゃんの行きたいところならどこへでも、ですね。』


その返答に、思わずガランの顔にも笑みがこぼれる。


「…そうか。じゃあ色んな所へ行こう。アテナの人々にも、地球の素晴らしい場所を紹介したい。」


光速での飛行が可能になった今でも、行ったことがない場所なんて山ほどある。

この小さな地球という星の中だけでも、である。

我々の素晴らしい地球という星を、くまなく見て回りたくなった。


『残り2.5天文単位で、地球圏に到達します。』


「了解。減速を開始してくれ。」


反物質ブースターを停止。

およそ秒速30万キロを維持していた全艦隊の速度が、ゆっくりと落ちていく。

遠く、遠くでキラキラと光っていた青い光が、徐々に近づいてくるのが分かる。


「秒速7.9キロまで減速。地球圏を3周してから大気圏に突入する。」


『Yes, sir.』


我々の故郷の、青い星。

この地を発ってから一日と経っていないはずなのに、やけに懐かしく感じる。


「減速最大、大気圏突入。」


ガランのその声で、全艦隊が地球へ吸い込まれていく。

艦の周囲は赤い炎に包まれるが、何の問題もない。

もちろんこの艦は、大気圏突入時の高熱にも耐えられるように作られている。


「父さんも、お忙しいでしょうが休暇が取れたら連絡をしてください。いつでもお付き合いしますので。」


『そうですよー!僕もケネスさんと話すの好きですから!』


ガランの言葉に、タイラーが相槌を打つ。

三人は古くからの付き合いであるということは、ご承知いただけているであろう。


「自分で言うのもなんだが…私も、もう充分働いたと思っている。このアテナに関する仕事が終わったら、引退するつもりだ。」


「それはそうです。父さんは戦時中から働き過ぎです。」


景色は雲を突き破り、真っ青な海が待ち受ける。

ガランは笑みを浮かべながら、また艦隊員に指示を出す。


「スピードメーターを秒速から時速へ変更。時速300キロまで落として宇宙港へ入る。」


姿勢制御と減速、そのための逆噴射ロケットが音を立てる。

着陸態勢が整った。


第一・第二艦隊は港へ入っていく。






「私は艦隊員の点呼やらなんやら、手続きがまだ残っていますので…父さんは先に帰っていただいてもよろしいのですよ?」


「いやいや、せっかくだから一緒に帰ろうじゃないか。タイラー君も家は近いし、仕事が全て終わったら連れてくるといい。」


ガランはその言葉が、とても大切なものであるように感じた。

仕事を手際よく終わらせ、ケネス、タイラーと共に帰路につく。


「こうして三人で話すのも、なんだか久しぶりですよね。」


かなりの大荷物を背負っているタイラー。

それは恐らく、暇を勝ち取った証だろう。


「すまんなぁ、私も仕事でキミたちに寂しい思いをさせてしまったかもしれない。」


二人の子供が歩く一歩後ろを、大きな歩幅で見守るケネス。

年長者の余裕、威厳、そして責任。

いつまで経っても、子供は子供なのである。


「僕にとってもケネスさんは第二の父です。いつも良くしてくれましたから…」


「そう言ってくれると、嬉しいねぇ。」


二人は笑い合いながら話し続ける。

そしてその様子を、ガランも微笑みながら見守っていた。


「では、僕はこっちなので。また会いましょうガラン坊ちゃん、ケネスさん!」


住宅街の分かれ道、その反対方向にタイラーは消えていった。


「我が家ももうすぐだな。」


見慣れた道を、ただ歩く。

ガランとケネスの歩幅は違えど、その歩くスピードは自然に合っていた。

そして到着したグアナフォージャー家。

ケネスが鍵を開け、ガランに入るように促す。


リビングヘ向かう廊下。

そこで、ガランは玄関の扉が閉まった音を聞いた。




振り返ると、そこには誰もいない。


ガランは、リビングの机に置かれたマグカップを見て思い出す。







あの悪夢は、夢ではなかったのだと。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
あぁ、こういうルートを私も夢見ていました! タイラーさんも無事で、交渉が上手くいって……どうしてこうならなかったのか、……ヴァレルさんのせい……( º言º)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ