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アンノウン

西暦2677年1月14日、地球標準時16時43分。

冥王星公転軌道付近、エッジワース・カイパーベルト。


地球連合宇宙軍、第一主力艦隊現着。

艦隊は同日10時丁度に地球を出発。

およそ六時間で目標地点へ到達した。


「どうして今になって太陽系の中なんか調べるんですかね、ガラン坊ちゃん」


人類が光速で移動できるようになってから、半世紀が過ぎようとしている。


「今の私は第一主力艦隊長だ。それに見合った言葉遣いをしなさい、タイラー副艦隊長」


実質的な星間飛行が可能となった今、新たな恒星へ目を向けたくなる気持ちも分からなくもないだろう。

隣の恒星までは4年で行ける、そんな時代だ。


かつて光速の一万分の一ばかりの速度を惑星の重力を借りて、精一杯の力を振り絞って出していた…そんな時代もあった。


その当時、地球から今いるエッジワース・カイパーベルトにまで到達するには9年を要していたのだ。

それに比べてみれば随分とまあお手軽になったものである。

そんな中、地球連合は軍に太陽系内冥王星以遠領域の調査を指令した。


「統一戦争が終わり、世界がひとつにまとまったんだ。これで人類はようやく、本腰を入れて宇宙を見上げることができる。」


昨年、地球全土で10年にわたって行われていた統一戦争が終結した。

地球は一つの国家として、新たなスタートを切ったのだ。


新たな国家としての地球連合。


その総裁には投票の結果、先の戦争で戦勝国の首相を務めていたケネス・グアナフォージャーが就任。

彼はその敏腕で戦後の処理を恐ろしくスムーズにこなした。


その中で、戦後10年の間は内乱防止のため、陸・海・空・宙の各軍隊を配備することが決定した。


宙、すなわち宇宙軍は平常時、太陽系内の探査を主な任務として当たっている。

宇宙軍の実質的なリーダーとなる第一主力艦隊長は、ケネスの息子であるガラン・グアナフォージャーが任を受けた。


「本当にこういうところはお堅いですね、坊ちゃんは」


「艦隊長、な。」


副艦隊長タイラー・ハイケンベルクは、真顔のまま表情を変えないガランを茶化すように笑う。


この任務はそこまで張り詰めた雰囲気で行うべきものでもない。

タイラーの空気感が丁度いいくらいなのであるが…。


ガランは仕事となれば、素を見せることは一切ない。


彼の部隊に居た者なら昔から誰もが知っている、常識的なものである。

二人の周りにいる乗員たちも、『いつものことだ』と微笑ましく見守っている。


宇宙戦艦の艦橋は、外観よりも狭く感じる。

勿論、宇宙空間にて使用される物であるため装甲は堅く、ちょっとやそっとのデブリでは傷もつかない。

分厚い壁、そこかしこに表示されているデータ類やスイッチ。


様々な機械がひしめき合っていて、実際に人が乗るスペースはかなり狭くなっている。


ガランの乗る一番艦の全長は約1キロ。


洋上戦艦の5倍ほどの大きさを持っていながら、乗員数は3000で洋上戦艦と大差ない。

これは動力や主砲副砲、魚雷などの装備が大きなスペースを取ってしまっているからである。

特に光速で移動するための動力源はかなり大きく、全長は200メートルを超える。


半世紀前、人類は光速に到達するため必要になる莫大な『負の質量』を、反物質の安定化によって実現した。


21世紀後半には既に反物質を生成する方法は確立していたものの、長らくの間安定して大量に作り出すには至っていなかった。


19世紀最大の発明が『蒸気機関』、20世紀が『核兵器』であったように、後に21世紀最大の発明は『反物質の生成』と呼ばれるようになる。


それだけ、この物質は大きな意味を持っていた。


あらゆる発明品は、『発明』、『安定』、『小型化・効率化』の順を追って我々の生活に馴染んでいく。

人類にとって光速移動はまだ第二段階に到達したばかりなのだ。


『ガラン艦隊長、レーダーに反応アリです。10時の方向、距離1.6天文単位。』


戦闘指揮所の乗組員から無線が入った。

ガランはすぐに返答を行う。


「識別番号を確認しろ。…資材採集の民間船か…?」


近年は海王星公転軌道付近までであれば、民間船が頻繁に行き来している。

だが、冥王星以遠のこの領域でのレーダー反応はガランにとっても初めてのことだった。


『…該当なし。アンノウンです。』


船内に緊張が走る。


「不法に設計された民間船…あるいは軍艦の可能性がある。アンノウンと交信を行う。」


ガランの指示で、タイラーが無線を握る。


超遠距離での交信は、光速の『遅さ』がネックとなる。

今回の1.6天文単位の距離では、無線が相手方に到達するまで片道およそ13分の時間がかかる。


返答を受け取るまで、最短26分の待ち時間が発生する…はずだった。

こちらが電波を発した13分後、すなわち相手に無線が届いた瞬間。


『アンノウンが動きました!!!距離0.2天文単位、真正面です!!!』


おかしい。

この一言で済ませてはいけないと思うが、おかしい。

どう考えても相手方は光速を超えてきている。


レーダーにラグがあったのか?

否、出発前にチェックをしたはずだ。


ガランの頬に、冷や汗が流れる。

明らかに相手方が高性能すぎる。


今のレーダーにも映らない移動速度、光速移動どころの騒ぎではない。


瞬間移動をしている。


レーダーに映ったのは一艦のみ。


しかし、このまま戦闘になったら第一艦隊を全滅させられかねない。

どうする…。


「艦隊長。…撃ちましょう。ここにいる、全ての人を守るためです。」


そう呟いたのはタイラーだった。

当たらなくてもいい。

威嚇射撃だって、やらないよりはマシだ。


「待て。流石にこちらから先制攻撃を仕掛けるというのは…。」


渋るガランに、タイラーは続ける。


「ヤツの性能は、明らかに我々がどうにかできる範疇を超えています。結果的に先制攻撃することになってしまっても、宇宙軍の第一艦隊である我々が知らない超高性能艦なんて存在していいはずがありません。」


軍の最前線、ありとあらゆる国家機密を知っているガランが知らない艦。

内乱軍のものか、あるいは…。

…想像しただけで恐ろしくなってきた。

タイラーの言葉を受け、ガランは船員に戦闘の準備を開始させる。


『アンノウンから高エネルギー反応!!!攻撃の兆候アリです!!!』


タイラーが正しかった。

アンノウンは、やはりこちらへの攻撃を開始しようとしている。

だが、この場は必ず無傷で帰らねばならない。

覚悟を決めろ。


「レーダー妨害用煙幕を焚け!!!」


船員が慌ただしく動き始める。

そして。


「二番・三番艦、対宙魚雷発射用意…!!!」


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― 新着の感想 ―
読書配信へのお申し込みありがとうございます! 人類の技術を遥かに超えた技術(通信・移動)をもっている未知の存在! できれば平和的な接触ができたら良かったんだろうけど、攻撃してきちゃいましたね(。>_<…
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