新学期
冬が明け、春の光と花の香りが窓から入り込む一室で僕は生まれた。
母は僕が幼いころ病に倒れ亡くなり、父はそれを追うようにどこかへといなくなってしまった。
ゆえに、現在は祖母と一緒に狭い家で暮らしてる。裕福ではないため、質素な生活を送っているが、仲間たちと共に楽しく暮らしている。
「ラーニー、おはようございます。今日から新学期ですね。噂では転校生が来る様ですが何かご存知ですか」
ラーニーに話しかけたのは彼の幼馴染、ルイだった。彼らがいつからの友達か、なんていう記憶は彼らにはなかった。しかし、育ち方が違う中でもただ同じ地域の出身で性格などがあいずっと仲良くしていた。
「そうなのか?何も聞いてないけど。」
「はい。私のお父様が言っておりました。新しい子が来るから、その子が早くこの地に馴染める様仲良くしなさいと。どこのクラスにはいるかは知りませんが…」
「ルイのとこの父さん、そーいうの詳しいよな」
「そうですね。神父という仕事がら多くの人と関わりありますし、それ故にか様々な情報が入ってくるみたいです。」
「確かにな」
「しかし、まぁ、そもそもラーニーは周りのことを気にしなさすぎるところがありますからね。周りに無頓着がために、その様な情報も逃しているのではないですか」
「はは。それもそっか」
「それでは、私はここで」
「あー、またあとでな」
ラーニーとルイはいつもようにたわいない会話を続けていたら、気づけば学校に着いていた。
それは幼い彼らにはよくある、ただ何も考えずにその時間を話ながら学園に行く、それだけの風景だった。
彼らの通うルシウス学園には、主に使う魔法によって5つのクラスに分けられた。技術系のオウル、戦闘系のライアン、回復系のスクイラル、特殊能力系のフォックス、そして無分類のノクラだ。
ノクラは主に初等部低〜中学年の生徒が在籍している。まだ十分な魔法は使えず4つの分類に分けることが難しい子たちだ。
ルイは育ちの影響か、幼い頃から魔法を学んでおり入学時よりオウルに分けられていた。
「きゃははは…。」
生徒達の笑い声や話声で賑やかな教室。いつものながらの景色がノクラのクラスに流れている。
(新しい子、か…。ルイは「クラスはわからない」とか、なんとか言ってたけど、どうせ初めはこのクラスだろ)
「みんな、おはよう。今日は新しい子を紹介するよ。アルセル、入っておいで」
ずんずんずん…。
教師が紹介すると、いかにもやんちゃざかりな子がその賑やかな教室へと入ってきた。
「ニノ・アルセルだ。この学園で最強になってやる!!!」
その威勢に、先程まで騒がしかった教室内が一気に静まりかえった。
(うわ。なんかキャラ濃いの来たな…)
「……、そしたらアルセル、空いてる席に座って」
(…ふっ、先生も戸惑ってるじゃん。まぁ転入生がこれなら無理もないか。
ん…。てか、あいつこっちに来てないか?気のせいであれ…!頼む…!!!)
いつもは無口で表情の変化に乏しいラーニーだか、この時ばかりは少しばかり焦っていた。皆が持ったであろうその子の第一印象からもだが、ラーニーは他の何かを感じとっていた。こいつはやばいと。だが、そこに何かの根拠がある訳ではなく、それは何となく感じ取るオーラに近いもののようだった。しかし、その時のラーニーにはオーラを感じ取っている意識はなく、ただルイ以外の友達は面倒だからいらない、そんな些細な感情からくる少しばかりの嫌悪感の様なものでしか、その認識はなかった。
どすん。
(はぁー。よりにもよって俺の横かよ。できればルイ以外とはあまり関わりたくないのに)
そんなこんなでラーニーにとっての最悪な1日が始まったのである。