第49話 黒ずくめの人物
――トントン。
不意に、部屋の扉が軽く叩かれた。
「おっ、誰だ?」
レッドが気軽な調子で立ち上がり、そのまま扉を開ける。
「はいよ。ちょいと、お邪魔するでえ」
入ってきたのは、見たところレッドと同年代ほどの若い男だった。人懐っこい笑みを浮かべながら、まるで昔からの知り合いのような気安さで部屋に足を踏み入れてくる。
「まずは自己紹介やな。わいはザース共和国軍所属、ユート・スコルっちゅうもんや。このデガロ監獄の副館長を任されとる。今後とも、よろしゅう頼むわ」
軽く頭を下げるユートに、俺とレッドもそれぞれ名乗り返した。
「おう、よろしくな」
「よろしくお願いします」
「はいよ、お二人さん。よろしゅうな」
気さくに笑うその態度は、監獄の副館長という肩書きからは少し意外に思える。
「さて、ほんなら……レッドはん。監視者の仕事について説明するで」
「おう、頼む」
ユートは指を一本立て、順を追って話し始めた。
「一つ目は、このデガロ監獄全体の巡回や。艦長を除いた監視者三人で、交代制で回ることになる」
さらにもう一本。
「二つ目は、囚人のダンジョン攻略に付き添うこと」
そして三本目。
「三つ目は、脱獄者が出た場合の対処や。速やかに捕らえるか――場合によっては、始末する」
最後の言葉だけ、わずかに重みを帯びていた。
……なるほど。思っていたよりも、ずいぶん物騒な仕事だ。
「ああ、解った」
レッドは短く頷く。
「ほな、さっそく――」
「ちょっと待ってくれ」
レッドが言葉を挟んだ。
「ん? 何や?」
「少し、訊きたいことがある」
「ええで。何でも訊いてや」
ユートは気軽に肩をすくめる。
「黒竜石について、何か知ってるか?」
「ああ、報告にあったあれか……。すまんな、そっちはまだ何も解っとらん」
「……そうか」
やはり簡単には掴めないか。
レッドは少し考え込んだ後、もう一つ問いを投げた。
「じゃあ、ゼヒドが脱獄した時、この中で何か変わったことはなかったか?」
「変わったこと、か……」
ユートは顎に手を当て、しばし思案する。そして――ぽん、と手を打った。
「ああ、そういや一つあったな。あの時、中央のダンジョン内でな。フードを深く被った、黒ずくめの怪しい奴を見たっちゅう報告が上がっとった」
――やはり、いたか。
その特徴は、リリーナを攫った人物と酷似している。偶然とは思えない。
「その男は捕まえたのか?」
「いや、それがな。どこ探してもおらへんかったんや」
「いなかった? まさか……消えたのか?」
「そうとしか言えへんな」
「……そうか」
胸の奥に、ざらりとした不安が広がる。
ゼヒドには、確かに協力者がいた。そしてそいつは――今もどこかに潜んでいる可能性が高い。
「質問はそれで終わりかいな?」
「ああ、助かった」
「ほな、レッドはん。さっそく仕事やで」
「了解」
軽く手を振るユート。
「フェリスはんは、自分の部屋でゆっくりしとってな」
「はい」
そう言い残し、二人は部屋を出ていった。
静けさが戻る。
……やはり、レインの推測は正しかった。
だが、その協力者はどこへ消えたのか。
考えれば考えるほど、答えは遠ざかっていく。
首を傾げながら、俺は自室へと足を向けた。




