第30話 こんな状況で
「何だ……その結界は!? 俺の攻撃が……まるで効いてないだと!?」
ゼヒドが傷一つ負っていない俺達の姿を見て、驚愕している。ゼヒド、お前の気持ちはよく分かる。レインの結界は……。
凄すぎるだろ! しかも、多重に張れるって! もう、どんな攻撃も効かないって事ですよね!
「ちくしょう! ちくしょう! ちくしょう! 何なんだよ、お前は! 何なんだよ、お前はよ!」
ゼヒドは自分の思い通りにならない事に、相当頭に来ているのだろう。
「俺は、元Sランク冒険者なんだぞ! しかも、あいつらに黒竜石を貰い、力だって何倍も跳ね上がってるんだぞ! なのに、何でだ……。何故、お前は死なない? どうして生きてやがる!?」
ゼヒドの怒声が、部屋全体に響く。
ん? あいつ、今、黒竜石って言ったよな? あの石って、もしかすると……。黒竜王に関係している?
「フェリス」
いつの間にか、レインが俺の目の前に立っていた。レインはその場でしゃがみ、俺と目線の高さを合わせる。
「どうしたの? お兄ちゃん」
この緊迫した状況で、どうしたっていうんだ? もしかして、レインもさっきのゼヒドが口にした、黒竜石の事に気が付いたのか?
「キス……。しても、いいか?」
そっちかい!
「え? 今、ここで?」
「今じゃなきゃ、駄目なんだ」
いやいやいやいやいや、この状況でキスは無さすぎるだろ! レイン、あなたね! どんだけ俺とキスしたいんだよ!
「頼む、フェリス」
そんな真剣な目で、お願いされたら……。
って! 出来る訳ねえだろうが! リリーナは眠ってるからいいとしても、ゼヒドが上からこっちを見てるんだよ! 分かって言ってるのレインさんよ!?
「周りなら、気にしなくてもいい。俺は、どんな状況だろうと平気だから」
レインが平気でも、俺は平気じゃねんだよ!
「でも……。この状況で……なんて」
「フェリス、いいかい?」
レインが俺の両肩を、がっしりと掴んだ。
また、このパターンかよ!
レインがゆっくりと、俺に顔を近づける。
そして……。
「ん……」
レインと俺の唇が、重なった。




