第21話 フラグかも?
豪炎を纏う死神――ゼヒド・スクワローの脱獄。その報せは、まるで冬の風のように静かに、しかし確実に俺たちの心を冷やした。生徒たちの安全を最優先にと、今日の授業はいつもより早く切り上げられることになった。
教会の重い扉を押し開けたとき、外の空気は妙に澄んでいて、かえって不安を際立たせていた。
俺とリリーナは並んで歩き出し、石畳の道を帰路へと進む。
「豪炎の死神ゼヒド・スクワロー……だって。なんだか、すごく怖いね」
リリーナが肩をすくめるようにして呟く。
その声は冗談めかしているのに、指先はわずかに震えていた。
「心配する必要はないと思うよ」
俺は努めて軽く言った。
「フェリス、どうして?」
「この村にはSランク冒険者のレッドさんがいるでしょ。それに――お兄ちゃんだっているし」
言葉にすれば、不思議と現実味が増す。
そうだ。あの二人がいる限り、この村に危険が及ぶことなんて――。
「でもね、もし……もしだよ?」
リリーナが足を止め、こちらを見上げる。
「家のお兄とレインさんが、この村にいなかったらどうするの?」
その一言が、胸の奥に小さな棘のように刺さった。
あの二人が、ここにいない時――。
万が一、その隙を突くように奴が現れたら……この村は。
嫌な想像が、頭の中でじわりと広がる。
「ねえ、リリーナ」
「なになに?」
「レッドさんって、今どこにいるんだっけ?」
「お兄はね、王都に行ってるよ。なんか偉い人に呼ばれたんだって」
「そう……なんだ」
思考が、一瞬だけ空白になる。
――待てよ。
今、レインも探索者の仕事で村を離れているはずだ。
つまり――守りの要が、二人とも不在。
胸の奥で、嫌な音がした。
おい……これ、まさか。
静かだったはずの村の景色が、急に不穏な影を帯びて見える。
「フェリス? どうしたの? なんか、不安そうな顔してるよ」
「え? あ、うん……大丈夫。なんでもない」
無理やり笑ってみせるが、自分でも解る。声が少し上ずっている。
「ほんとに?」
「うん。心配いらないって」
そう言いながらも、胸のざわめきは消えない。
王都へ向かったレッドが、すぐ戻れるはずはない。
レインも、今日は帰れないと言っていた。
――守る者がいない村。
……これ、普通にヤバくないか?
夕暮れの空が、やけに赤く見えた。




