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楽しんでいただけたら幸いです。
声は出ないまま、私は十五歳になり目に見える傷は癒えていたが心の傷は簡単には癒えなかった。
祖母は過保護になったと思う。
私に残された物を少しでも多く残そうと尽力してくれている。
なのに・・・。
私に残された負の財産が今、六歳になって私の目の前に立っていた。
あの時、父が連れてきた赤ん坊だった。
「この子は貴方の異母妹よ。ニコルというの。母親は生まれた時に亡くなっていて、頼れるのは私達だけなの」
嫌だと首を横にブンブン振る。
『妹ではありません』と紙に書く。
「貴方の気持ちはわかるわ。けれど血の繋がりのあるこの子を放り出すようなことは出来ないの」
今まで放っておいたのだからそのまま放っておけばいいと私は思っていた。
『ダニエルが死んだのに!!!』
唇を噛み締めても、涙は次から次に溢れて落ちた。
そんな私の姿を見ても祖母はこの家で面倒を見ると言う。
『今まで何処に?そこに戻して!』
「預けていた方が亡くなってしまったのです。この子ももう、行くところはないのですよ」
『嫌、絶対嫌!!』
私がどんなに嫌がっても祖母は聞き入れてくれなかった。
考えてみれば祖母にとっては私もニコルも同じ孫なのだ。
離れていた分、余計に愛情が傾いているのかもしれない。
喋れない私なんかより・・・。
屋敷の中で私は自由に振る舞っていたが、ニコルは私から隠れるように生活していた。
目に入らなければ気にならなかったのでそれでいいとその時は思っていた。
紹介された日から会わなかったから。
十五歳になると学園に通うことになるのだが、声の出せない私をどうするのか祖母と学園の間で何度も話し合いが行われた。
話せないと社交が出来ないのだから学園に来ても意味がないという学園側と、心因性失声だから何がきっかけになって声が出るようになるかわからないし、声が戻った時に社交が出来ないようでは困るからと祖母は学園を説き伏せた。
祖母はなんとしても私を学園に行かせたがった。
やはり喋れない私は邪魔なのかな?
祖母とニコルを二人にするのが嫌だったが、祖母の屋敷は学校から遠く、通えない距離で寮生活をすることになった。
『休みには帰って来ます。元気で』
「こちらのことは気にしなくていいわよ。学校を楽しんでいらっしゃい」
『行ってきます』
家人達にも、祖母のことをしっかり頼み、何かあったら必ず連絡するように頼んだ。
学校は楽しかった。声を出せない事で色んな問題が起きたし、陰口もたたかれた。それでも自由な気がして楽しかった。
友達も少ないけれど出来た。
楽しいと思った時、ダニエルに申し訳ないと思い心が沈んだ。
授業の中にお茶会を開催するという時間がある、
お茶会室を押さえ、料理人達にどんなお菓子を作らせるか決め、お客さんを招待し、話題を選ぶ。
私は準備が出来ても実際にお茶会を開くことは出来なかった。
話題をえらべても話せないためその場を仕切ることが出来ないからだった。
友達だと思っていた子は私とでは成績にならないからごめんねと言って離れていった。




