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不穏への序章です。

 話が動き出すと早くて、私とレイモンドはすぐに婚約することになり、私の卒業と共に結婚することになった。

 

 レイモンドに父は母を愛してはいなかった事をくどい程話、私を愛していないなら結婚はしないでと何度も言った。

 その度に返答は「心から愛しているよ」と私が納得するまで囁いてくれた。


 私は十八歳になり学園を卒業した。


 私は小さな式で十分だと言ったのだが、一生に一度のことだからと私の想定よりも大きな結婚式がとりおこなわれた。

 祖母が満足そうにしていたので、レイモンドとご両親に感謝した。


 レイモンドは約束通り、お祖母様の屋敷に来てくれた。

 祖母は起き上がれる日の方が少なくなっていた。

 

 レイモンドは来て早々から祖母の仕事を肩代わりしていった。

 レイモンドの疲れた顔と、寝付く祖母を見て気が塞いだが私だけでも元気で居なければと奮い立たせた。

 けれど私も体調の悪い日が続き、逆にレイモンドと祖母に心配をかけてしまっていた。


 ある日、アニーが「お子が出来たのではないでしょうか」と言った。

 そう言えばと心当たりがあったためお医者様に見ていただいたところ、妊娠四ヶ月だと言われた。

 レイモンドも祖母もとても喜び、生まれてくる子を心待ちにした。



 私は男の子を産んだ。

 私は死んだ弟の名、ダニエルと名付けた。


「世界で一番愛しているわ」とダニエルにキスしながらレイモンドと笑い合う。

 ふとこんな光景を小さい頃にも見たことがあったような気がした。



 その翌年に女の子を生み、祖母がダイアナと名付けた。

 ダイアナの顔を見た後、お祖母様が「幸せになるのよ」と言って息を引き取った。


 祖母の遺言通り小さな葬式と祖父とダニエルの間に墓標を建てた。

 ダニエルと祖父に『お祖母様がそちらに逝きました。私は未だそちらに逝けませんがいずれそちらに向かいます。私は今幸せです』と伝えた。


  

 一枚の書類をレイモンドが私に見せた。 

 それはニコルが修道院に入れられたときの書類だった。

「このニコルってお茶会の時の子だろう?何時まで修道院へ入れておくんだい?」

『祖母は出してはいけないと』

「あの日のことしか知らないけど、どういう子なんだい?」

 私が殺されかけたこと、理由は、想像の範囲でしかないけれど赤ん坊の頃に他所(よそ)に預けられていて、多分その事で恨まれているのだと筆談した。

「ニコルは長く修道院に入っているみたいだし、恨みが和らいでいるといいね」

『だったらいいと思います』




 私の声は出ないままだけれど、レイモンドに支えられ、幸せに暮らしている。

 三十六歳のレイモンドは格好いいお父様になっている。

 お義父様とお義母様は度々遊びに来てくれる。


 ダニエルは立派な青年になり、来年は学園に入学する。

 ダイアナは女の子らしい小生意気さがあり、とても可愛い。

 毎日が小さな幸せでいっぱいだった。





 私の目の前に剣を片手にレイモンドを片足で踏みつけ、にたりと笑った女が立っていた。

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