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読んでいただけると幸いです。
暴力シーンが多いと思われます。
残虐なシーンがあります。
苦手な方にはお勧めできません。
私の母、エルシーはとても美しい人だ。
艶があり、なめらかな薄い桃色の髪に小さな頭、一つ一つのパーツが完璧で、肌は白く透き通るようでシミひとつなかった。
女性にしては少し背が高くそれを気にしていたが、豊かな胸にくびれた腰をゆらゆらさせながら歩くのは、子供の私でも見てはいけないもののような気がした。
その母が私のことを柔らかく抱きしめ『愛しているわ、私の可愛いエリー』と言い、その言葉は私の心を満たした。
母が愛していると私に言うと、父も負けまいと私に『愛しているよ。私の大事なエリー』と言い抱き上げてくれた。
私が三歳になった時、弟が生まれ、ダニエルと名付けられた。
その顔は父にそっくりで、手足が長く、浅黒い肌に男の子らしい顔のパーツ。
大きくなると自信に溢れた男の子になると思えるような子だった。
親の愛が弟に向かった事を肌で感じた私は拗ねていた。
そんな時、母は『なにも変わらずエリーを愛しているわ。エリーも小さな弟を愛してあげて。エリーが愛しただけ、ダニエルも愛してくれるわ』と何時もより強く抱きしめてくれた。
母はダニエルにお乳を与える時以外は、私と居てくれた。
ダニエルが立ち上がり、歩くようになるとダニエルは何時も私と一緒に居てくれた。
仕事が終わると父も参加して四人で床の上で転がり、遊んだ。
私が六歳のある日、父が私に言った。『エリーは本当にエルシーにそっくりだ』と顔を顰めた。
私は嬉しくて笑顔で頷き父に抱きついた。
父方の祖父母は父にそっくりなダニエルをそれは可愛がった。
その代わり、母方の祖父母は私をとても可愛がってくれた。
小さな綻びが出来たのは私が七歳になってしばらくした頃だったと思う。
母方の祖父が病気であっさりと亡くなってしまった。
母と祖母は泣き崩れ、私もダニエルも泣いた。
一年と経たず、祖母が祖父の後に続いた。
奇しくも祖父と同じ病気だった。
失意にくれた母が床から離れられなくなり、父も私達にかまってくれなくなってしまい、私とダニエルは寂しい思いをすることになった。
一日一度のお見舞いに母は笑顔で迎えてくれたが、あの美しかった母はやせ衰え、まるで骸骨のようになっていて、会うのが怖かった。
母を失ってしまうのではないかと恐怖した。
母の体調がなかなか戻らないため、祖父母の滞在が長くなった。
そのせいだったのか、父は家に寄り付かなくなってしまった。
母のお見舞いの時間に父が帰ってこないことを伝えると『お祖父様と性格が似ていて、側によると喧嘩してしまうのよ』と諦めた顔で言った。
母が起き上がれるようになっても父は帰って来てくれなかった。
私が九歳になった頃、今まで何もしなかった祖父母が父を見つけ出し家に連れ帰った。
その時、父の手には生まれたばかりの赤ん坊が抱かれていた。
その日から両親は変わってしまった。
私達の前でこそ言い争いはしなかったが、私達が居ない場所で互いにののしり合う声が聞こえた。
いつ顔を合わせても不機嫌で、口をきかなくなった。
心配した祖母は私達の屋敷に残ったが、祖父は領地に帰っていった。
ある日、私達の前で両親が些細なことで言い争いを起こし、祖母が窘めた。
父も母も不満そうな顔をしていたが、祖母の前では黙った。
私達は子供部屋へ戻されたが、言い争いは長く続いていた。
その数日後、屋敷に赤ん坊と祖母が居なくなった。
祖母が居なくなると、母の顔が赤く腫れる日が度々みられるようになっていた。
最初に頬を腫らした日から、母は誰かと頻りに手紙のやり取りをしていた。
そして私が十歳になった時、母が1人で突然屋敷を出て行ってしまった。
残された私達三人は、火の消えた大きな屋敷で鬱々と暮らした。
父は私に『エルシーにそっくりな顔を見せるな』と怒鳴りつけ、私を遠ざけて、ダニエルを側に置くようになった。
側に置かれたダニエルはずっと怯えていたが私には助けようがなかった。
お酒を飲んでは暴れ、家人達もどうしていいのかわからないようだった。
だが、その時はまだ良かったのだった。




