95,箱入り令嬢のスッキリしたあと
「ふ~、やっとすっきりしたじゃ」
「うう……」
ドワーフのトラップ障壁を壊し、洞窟から抜け出し用を足した伊達と令。
伊達はよほどため込んでいたかなりスッキリした面持ち。周りは吹雪いているが気持ち良さそうに身体を伸ばしている。
対する令はスッキリしていない。尿意自体はなくなったのだが、伊達に用をガッツリ見られるという辱めを受けてしまったからだ。
(誰かに見られるなんて向こうでもなかったのに!)
というか基本ない。あったとすれば小さい頃に親におしめを取り換える時やトイレに慣れるまでの期間だけだろう。まさかこんなに成長してから転生して性転換してから見られるとは思ってもみなかった。
「きにすんなって。そとでだれかにみられるなんておらのじだいじゃふつうだ」
「それでもですね……」
「んだこだいったって。おらのしょんべんみたかったのか?」
「!それはないですよ!」
「まぁおどごならむりねぇか。おらおなごになったんだもんな」
そう言って伊達は服と魔石刀を揺らしながらクルクルと回る。自分の姿を確認しているようだ。
「刀、おもでぇな……ちょうしのって作りすぎだ……」
「バフいりますか?」
「いや、いい。そこまでじゃね。でも戦のときはほしい」
「それはもちろん」
「たすかるだ」
伊達は魔石刀に手を添えながら令にはにかむ。
吹雪ながらも外に出たことで伊達の容姿がより鮮明に確認できた。服装は和服、じんべえだ。伊達は自信を男性だと思っていたのでその格好をチョイスしていた、服も材料から調達し作ったのだろう。じんべいだが華やかさがあった。奈央より少し大きい身長、スタイルはじんべいを着ているので正確な所は分からないが、良さそうだ。というより少し瘦せているようにも思える。令があげた髪留めもあってかなり可愛らしい見た目だった。
そんな少女が長めの日本刀を持っているギャップが令にとって新鮮に見えた。
「ん?だっと?じーっとおらのことみて」
「このような長い日本刀を実際に持っている方をお目にするのは初めてだったので」
「んなのか。まぁ戦でないかぎり刀はもたねぇもんな」
「格好いいです」
「ん、あんがと。それよりおめーさんおなかまはいいのか?」
「あ!そうでした!」
(どうやって合流を……念話は通じるでしょうか?)
令は伊達に促された通り、薫たちと合流するために念話を試みる。吹雪の中、身体が刺すように寒さで痛みを覚えてきたが今は関係ない。
(念話!)
魔法、呪文、念話のイメージ。見えないけれど知っている人に声が届くように。
『薫さん!奈央さん!ワンミさん!』
『ん?!これってつかさちゃん?!待ってね!まだドワーフと戦っているから!』
『大丈夫ですか!?』
『大丈夫よ!』
それから通話はぶちっと切れる、感覚。よっぽど切羽詰まっているのだろう、本当に大丈夫だろうか。
ドワーフの素性がわからない、どのような生態なのかこちらも直接見ていないのでそれが不安を加速させる。
「おめーさん、なにがしだが?」
「伊達さん、念話っていう魔法を使っていました」
「んなのか。どうりでちびすけたちがこっちにきてるわけだ」
「わかるのですか?!」
「かぜでちびすけたちのにおいがながれてきてる。おめーさん、ちからくれるか?」
「わ、分かりました!」
令は状況が全くわかっていないがとりあえず伊達にバフをあげる。
伊達はそのまま鞘から魔石刀を抜く。
「ちびすけや、御免!」
瞬間、伊達は地面蹴る。
一瞬で令の前から吹雪の世界に消える。
ますます令は状況が分からなくなるがそれでもバフを続ける。
伊達は木の影に隠れているドワーフに一直線で加速する。
「!」
ドワーフは伊達の存在に気づくも、
(おそい)
伊達は木ごとドワーフを真っ二つに割いた。加速はそのまま続け、その後方に潜んでいるドワーフたちをさらに割いていく。
ドワーフは伊達の存在に気づきはするも、洗練された太刀筋と速さに勝てない。
(御免)
伊達は加速を止め、魔石刀を右からの左に振り下ろし、左からの右に振り下ろす。伊達の癖だ。洞窟内ではその癖が出来ずもどかしかった。
服から布を取り出し、魔石刀をついた血を拭き取る。それから鞘にしまった。
(どうなったのでしょうか……?)
吹雪は以前止む気配なく続く。周りの音は風のみで寂しさが真っ先にこみ上げる。
そこへ伊達がこちらにとことこと歩いて戻ってくる。
「もうちからはいいぞ。あんがと」
「大丈夫なんですか?!」
「ん?ちびすけたちはもうやったぞ」
「本当……」
本当か聞こうとした際、伊達の服が目に留まる。どうしてとまったか、それは伊達があまりにも血まみれだったから。
「……本当に殺してしまったのですね……」
「なにそんなにおどろいてる?しゃあねべ、やらねばこっちが殺されるんだぞ」
「……」
伊達の言う事は間違っていない。もし伊達が言うように対処してくれなければ殺されていたのは令の方かもしれない。
自分たちはこの地に進んで足を踏み入れた。いわば侵略者と変わらない。もちろん令にそのつもりは全くないのだが、向こうからすればそ捉えられてもおかしくはない。逆もまた然り、令のお家にそのように土足で踏み込まれたらたまったものではない。
ドワーフは警戒して令や薫を攻撃した。分かっている。
しかし令は初めて目にするかなりの返り血を前に動揺するしかなかった。
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