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94,箱入り令嬢は用を足します

 薄暗い洞窟、火球ライト魔法で僅かに明かりがついている閉所。

 伊達は魔力を刀に溜める。

 令はバフを伊達に分けながらその光景を眺める。

 伊達の作った魔力刀、その本領を今披露する。魔石刀を中心に魔力が集中していく、これはあくまで可視化はできないので雰囲気でしか感じられないが、空気がどんどん変わる。

 魔石刀はかなり明るく発光している。その明るさはどんどん増していく。

 そして次の瞬間、魔石刀に水がまとわり始める。流れるように、しなやかに、したたりは集まり雫、それもやがて波のように増えていく。


(すごい……!)


「水平切りっ!」


 伊達が言葉を発した瞬間、目をばっと開け刀を振り抜く。

 水面みなもがドワーフの作った障壁に激突する。怒号が響き渡り、砂煙が舞う。


(衝撃が!)


 令は顔を覆う。砂煙で前方が確認できない。壊せただのろうか。

 少しずつ視界が落ち着いて、


(壁は……?)


 斬撃の衝撃で明かりが消えてしまっているので令は火球ライトを灯す。

 すると、さきほどあった障壁はもうなくなっていた。崩れ落ちていた。


「これでいつでもでられるべ」


 そう言って伊達は服についた埃を払いながら、刀を鞘にしまった。



 剣術および武術、このような異世界であれば必須のスキルだろう。

 令はファンタジーはわからないので薫の入れ知恵になるが、普通魔力以外にも様々な戦い方があるらしい。

 剣術、剣や槍などの武器を用いた戦闘スタイル。武術、主に素手を用いた武器を使わない戦闘。体術なんても言われる。

 そう言われると令はスポーツの剣道や柔道を思い浮かべる。それが異世界になると実際に戦闘で使われるようになるのか。

 だが、この世界はその剣術、武術はそのように術と言えるまで発展していなかった。魔法がひとり歩きし過ぎていた。

 王都ラマットン、ここ100年あまりで急激に発展している異世界の都市。魔法という便利な術が使えるようになり人々の生活が急激に変化していった。

 それ以前はどうしていたのか、原始的な生活に近かったらしいと王宮の者から説明を受けている。王都の街並みが今のように発展し続けているのは現王レベリヤンが即位してからだった。それまで魔法が発見される前はいびつな木の家を建てて、雑に研いだ石で食料を切り、粗末な服を着ていて生活していたという伝え。令は実際に見ていないのでわからないが。

 動物やモンスターからの襲来は何度もあったいう。まだ小さい頃の王都は人口も全然いないのでそれを撃退するのに精一杯。細々と人間は暮らしていたのだ。今の王都は人口も爆発的に増え続け、外壁で動物やモンスターが中に入って来ないように、今では何百km先の海を目指して開拓を続けている。

 そのため、剣術も武術もこの世界にはまだない。ついでに娯楽もまださっぱり存在しない。発展途上、その先駆けに令たちはいる。

 伊達が披露した剣術はこの世界には存在しない未知の術。それを令は目の前で見たのだ。現代にはもう残っていない術を。



「さ、はやくしょんべんするべ」


 伊達は洞窟の出口に一直線でかけていく。

 令は追いかけながら、


「ちょっと待ってください!ドワーフは大丈夫なのですか?!」

「やつらはもういね。おめーさんのつれがつれてっだ」

「気配を感じないということですか?」

「んだ。ちびすけだぢのにおいがしねぇ」

「におい?ですか?」

「んだ、きづかねのか?におうんだよ」

「は、はぁ……」


 令は気にして洞窟内のにおいを嗅ぐ。しかし行きとの違いがわからない。洞窟特有の土臭いようなこもっている臭いは感じるが。


「おめーさんもあせくさいな。作りをちかくでみてたからしかたねぇか」

「!?申し訳ありません……」

「きにすんな。そんぐらいのほうがおどごらしくていい」


 伊達は噓なく微笑んだ。


(でも……)


 男の汗臭さは酷いととんでもないことになってしまうことを令はすでに知っている。それで体調を壊す程度に。

 そうこう話している間に出口が見えてくる。トイレに行きたい力は偉大だ。行きはあんなに時間がかかったのに帰りは一瞬だ。

 令たちは洞窟を抜ける。

 外の空気を久しぶりに吸う。冷たい空気が令の肺を満たしていく。

 天気は吹雪いており、視界は最悪で体温は一気に冷めていく。


(寒い!)


 令は身震いする。そして先ほどまではあまり感じていなかった尿意がこれでもかと押し寄せてきた。


「さぶ。しょんべんするからあっちむいててけろ。こっちみんなよ?」

「わ、私もしたいので見ている余裕はありませんから……」


 こうして各々用を済ませる。吹雪いているせいでトイレも一苦労だ。風下になるように向きを変えようと思ったが、


(これ、伊達さんに見られませんか!?)


 当然伊達も服にかからないようにかがみながら風下を向いているはずだ。そうすれば必然的に令は視界に捉えることになる。

 令は急いで遠くに行こうとしたが、


「こんなふぶきでどこいくだ?さがせなくなるぞ」

「でも……!」

「なーにきにすんな!おどごのはなれてるから」


 伊達のその声色は少し笑みが含まれているような気がしたが、今は確認できない。


(うう……)


 こうして令は泣く泣く伊達に用をガッツリ見られながら尿意をゼロにした。恥ずかしいとかのレベルでは無かった。

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