93,箱入り令嬢は少女から日本刀の凄さを知る
「んあ?ねてだが……」
伊達は魔石刀作成で疲弊し、倒れ込むように爆睡してしまっていた。
「おはようございます」
「ん?おめさんのかおがめのまえに……んだこれ?」
令はといえば、少しでも伊達が体力回復できるようにと硬い地面に寝かせるのではなく、自分の膝を貸していた。伊達を膝枕していた。
正座で膝枕、態勢的にも辛いように思ったが伊達は羽のように軽く、頭もそこまで重さを感じない。長時間の正座はちょっと痺れるが。
それも寝顔を観察していると忘れることが出来た。元男性、今は女の子の少し小柄な顔は、洞窟に籠っているせいか先ほど刀作りをしたか分からないが薄汚れている。油汚れに近いのでやはりシャンプーをしてあげたい。それと可愛い寝顔だった。
伊達はよだれが垂れていることに気づき、
「すまね、おらのよだれが」
「気にしないでください」
「しかしなんでまたこんな……おらのことすきになったのか?」
「はい?」
「だってこしているの。すきでなきゃおらのとこではやらねぞっ」
「……そうなんですね。私の時代では疲れている人を介抱する時、このようにすると習いました」
「んなのか……」
伊達は腑に落ちなそうな表情をしている。
令は令で少女漫画で培った少し偏った知識を披露している。
「おめさんの時代っていつのことだ?ふんいぎ、おらの時代とちがうきがする」
「えっと……伊達さんからすると大体400年後の世界です」
「四百!?こらたまげたじゃ……そのじだいってどうなってんだ?徳川はまだぶいぶいいわせてるか?」
「いえ、徳川が時代の先導者ではなくなっています」
「んなのか。それはまだましな時代じゃな……」
伊達は過去を思い出す時、目を細める。それが令にとって印象深く脳裏に残る。
「さて、刀のつづきやらねと。おきるぞ」
「はい、お願いします」
伊達はひょいと令の膝枕から起き、そのまま工房に戻る。
令はその背中を見る。脚は痺れたので崩しながら。
(凄い人だ……)
その背中も今は女性に変わってしまっているので、本来男性だった時よりも小さくなっているのだろうが、それでも背中から語る雰囲気が違う。刀に対する執念が背後からにじみ出ている。すぐにスイッチが切り替わる。
伊達は柄を作るため、材料を取り出している。その目つきも職人の眼差し。少女のような可愛い瞳もスイッチが入ればその言葉は似合わない。かっこいいと言えばいいのか凛々しいと言えばいいのか。
「んだ、おめーさんまたあれをたのむだ」
「バフですね、分かりました」
そんな人にこうして自分の手で少しでもサポート出来る、そのことが令にとって嬉しいことだった。
「完成、ですか?」
「んだ」
柄、刀の持ち手の部分と鞘を作りこれで魔石刀は本当に完成した。柄と鞘は至ってシンプルだ。材料は木材のみ、実用性重視の仕上げだ。
全てのパーツが組み合わさったことにより、刀は本当にかっこ良く令に映る。
それを一度手に取りたいほどに。
「あげねぞ、これはおらのだ」
「そう……そうですよね……」
「んなへこたれたかおすんな。ちからくれたおれいはしっかりするから」
伊達は今日一番、会ってから初めて満面の笑みを披露してくれた。可愛く花が一気に咲くように。
刀が完成したことが何より嬉しいのだろう。
令は見とれる。
「ん?どした?」
「い、いえ、なんでもないです……!」
(これが男性が思う、可愛いというのでしょうか……!)
否、奈央やワンミの時にも可愛いと感じる。きっとそれと同じなのだ。
「そしたらはよこわすべ。しょんべんしてぇ」
「そ、そうですね……」
いざ目の前で可愛い女の子が、しょんべんしたいと言ってきたので令は動揺した。
(元は男性でしたので仕方ないですからね……)
よくよく思い返せば、奈央も最初の頃はお手洗いではなく「おしっこしたいです……」と恥ずかしそうに言っていた。あれはあれで聞いてはいけないものを聞いてしまっているようで恥ずかさと背徳感が令を襲っていた。
といっても令もそこらはぼちぼちきていた。伊達はもっとしたいに違いない。
伊達は少し身震いしたのち、ドワーフが作ったと思われる障壁に向かう。令は後ろをついていく。
「魔石刀、刀で本当に切れるのですか?その……岩を……」
刀を作ったがそもそも壊せなくては意味がない。斬鉄剣なんて言葉はあるがそれは鉄、今回切らなくてはいけないものは岩だ。それにその岩は糸のように細いわけではなく壁を破壊しなくてはならない。
そんなことが刀で出来るのだろうか?
「この刀ならいげる。あと、ちからまたかりてもいいが?」
「それはもちろんです」
伊達は特に困る様子もなく、淡々としている。自信があるように感じる。
「ここの鋼のいいとこだ。これを政宗にやれれば徳川なんて……それに、おめーさんのじだいでなんておそわっているかわからねぇが刀ってのはすげんだぞ」
「凄いことは聞いていますが……」
「んだ……みてろ」
目的地に辿り着き、伊達は鞘を抜く。令は合わせるようにバフをかける。もちろん心の中で掛け声で唱えながら。
伊達はそれを確認すると腰を低くし、構える。目を閉じ集中力を高めていく。
令は周りの空気がピリピリと音がなるような、変わっていく雰囲気を感じ取る。
奈央がドラゴン戦で見せたあの雰囲気、それよりも強い何か。
これから伊達が放つ一撃がえげつなくなること、それだけで分かった。
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