92,箱入り令嬢が出会った可愛い少女は日本刀屋
「んじゃ、つくるからまってけろ」
伊達は工房に入るなり、作業着だろうか今着ている質素な服の上に被る。
作業着はいつ作っただろうか、かなり使い込まれているような汚れが各所についていた。
伊達は髪を振り払いながら、ちゃくちゃくと準備していく。
「あの!作る所、見ていていてもいいですか?」
「ん?いいけどおもろしくねぇぞ?」
「大丈夫です。お願いします」
戦国時代の造りをこの目で見ることができる。それだけで令にとっては嬉しく楽しいこと。
「ちけぇとあぶねぇからな」
「気をつけます」
伊達の目つきが変わっていくのが分かる。職人の目。
雰囲気も変わっていくのが分かる。この状態で話しかけることは不可能だろう。
「んだ、思いだした。おめーさんまたあのちからほしいんだ」
「え?あ、バフのことですね。分かりました」
「ん、これで良いのが作れる……」
(ちからのバフ!)
令は伊達にバフ魔法をかける。伊達はその力を確かめると再び集中していく。
伊達は鉄を取り出す、丸い鉄。
令は思い出す。確か刀を作る時は玉鋼と呼ばれる砂鉄が凝縮されている鋼。
そして伊達は先ほど取ってきた水魔石を隣に置く。
玉鋼を取り出し特別な窯に入れていく。その上に木炭だろうか、くべていく。そして火魔法を注いだ。
(木炭……?)
このあたりに木炭、木はあっただろうか。
あった、少し背の低い木。寒さで見ているこっちが凍えるように耐えていたあの木々だろう。
木炭は火にあぶられ、割れる際に甲高い音を発している。木炭の状態も最上級に作り上げているようだ。こんな上質な炭、おそらく手作りだろう。木炭自体は王都にも存在するがこんな美しい炭を見たことがない。
部屋の温度が暑くなっていく。しかし伊達は顔色一つ変えない。
それから少しすると玉鋼を取り出した。そのまま台に乗せ、金槌で叩きつけていく。金槌はふり抜くのではなく、力を調整しているようだ。
玉鋼がゆっくりと伸びていく。
ある程度伸ばすと再び窯に戻す。再び温度を上げるためだ。
伊達はその時が来るのを表情変えずに待っている。令は汗が滴り落ちる。
そして再び取り出し、叩きつけていく。
その工程を繰り返していく。伊達手作りの木炭を加えながら。
何回やっただろうか、令は忘れた頃に伊達は玉鋼を水を溜めていた桶のように石で作られた場所に入れていく。
シューと激しい音、鋼が一気に冷まされていく。
それを取り出す。伊達は打ち砕いていく。バラバラに。
(たしか……)
こうすることで不純物を取り除くことができる。
伊達はバラバラになった玉鋼を集め、一回寄せる。
今度は水魔石を窯に入れていく。同じように何回も窯から出しては伸ばし、叩く。そしてそれが終わると水で冷やし、打ち砕いていく。
(そういえば王から魔石は鍛錬できるのか聞いていませんでしたね……)
ただ伊達は迷いなく、行程を進めていく。おそらく大丈夫なのだろう。
先ほど寄せた玉鋼と水魔石をパズルを組むように延べている棒に並べていく。隙間なく慎重に。
それを和紙を取り出し、包んでいく。
(和紙も手作りですか……)
和紙なんて久しぶりに見る。少なくともこの世界には存在しない、作っている人を知らない。おそらく伊達は木から、いちから作ったのだろう。
日本刀に対する執念がこういうところから窺えた。
和紙に水の隣にあるこれも溜めていた泥水をすくい、かけていき藁の灰を付ける。この藁の灰はおそらく木の葉を灰して作ったものだろう。どこまでも抜かりない。
窯に入れていく。木炭を足し、火魔法を威力を上げている。
何分くらいだろうか、長く窯に入れていたタネを取り出し、伊達は叩きつけていく。長方形になるように調整しながら力いっぱい叩いている。
それを10回だろうか、20回近くだろうか、伊達は繰り返ししていきタネの中央を刃物を使って折っていく。
藁をつけ、泥水をかけ何回もその工程を繰り返していく。
(暑い……)
それなのに伊達は汗をかかずに黙々とやっている。違う、汗は蒸発している。令がいるところよりも伊達のいる場所は火のすぐそば、それだけ暑いのにも関わらず疲れてもおかしくない行程を何回もしているのに伊達は休むことなく続けていく。
時計もない、この洞窟で何時間経っただろう。やっと伊達は魔石と混ざった鋼を延ばし始める。いよいよ刀になる。
その工程も一気にやるのではなく、慎重にゆっくり確実に延ばす。
50cm以上、70cmくらいだろうか、それぐらい延ばすと伊達は別の場所に移動し、やすりがけを始めた。
粗いものからだんだん肌理を細かくしていく。
これでも十分美しいのだがまだ完成ではない。伊達は刀に土をつけていく。この工程は日本刀がより美しくそして頑丈にするための大事な工程。
土の中には細かな魔石が入っているのか、青いキラキラが輝やいている。
何種類かの土を刀につけ、再び窯に焼き入れていく。
ある程度焼きいれ取り出し、水で冷やす。そして周りの汚れを取っていく。また焼き入れて土がしっかりついたか軽く叩き確かめていく。
(刀が……)
少しずつでき上がっていく。伊達はまた別の場所に移り、今度は砥石を取り出し研いでいく。
伊達は汗が滴りながらも瞬きを忘れるくらいに集中しながら、研ぐ。
きっとこの砥石たちも自分で作ったものだろう。本当に凄い人だ。
そうしてようやく完成した。
「ふぅ……」
「お疲れ様です」
「まだ、鍔とかつけてないけどな」
「綺麗です」
完成した刀、魔石刀とでも呼べばいいのだろうか、その刀は初めて見る美しさがあった。
魔石の方色合いの主張が強く、藍色になりながらも刀らしい鮮やかさがある。日本刀特有の僅かに沿っている曲がり方もかろやかに感じる。
「とりあえずやすませてくれ、づかれだ」
「はいゆっくり休んでください」
令はフラフラになっている伊達を抱き留めた




