91,箱入り令嬢は方言娘と採掘
令と伊達は強力な魔石を探すため、さらに深い洞窟に入っていた。
お互い色々話したい、特に令が伊達について聞きたいことがたくさんあるのだが、とにかく今は脱出をしなくてはならない。
この洞窟は伊達自ら作ったお手製掘削洞窟なので道は狭く、真っ直ぐではない。
 
「ここはどわーふだがにもしられてねぇひみづのばしょだ」
 
伊達は令が施した髪型をお気に入りのように触りながら得意げに話す。
伊達のぼさぼさだった髪は令の手によって随分と様変わりした。特に伊達が後ろ髪を気にしていたので肩にかからないように髪留め櫛で上げた。この櫛も令のお手製、自分で使うか分からなかったがなんとなく持っていたことが役に立った。
せっかくなので編みこむように上げたのでかなり可愛らしく仕上がっている。あとはつやつやにするためにシャンプーをしてあげたい。
 
「ただおらのちからじゃなかなかすすまねぇんだ」
「それなら……」
 
(ちからを……!)
 
令は集中し、伊達にバフをかける。
 
「ん?!なんだべ!まえみたいにちからがはいるじゃ!おめーさんすごいな!」
 
どうやら伊達は男性だった時の筋力に戻ったらしく、勢いよく掘り進めていく。
令はそれを後ろから支える、バフで。
周りの壁にくっついている魔石はどんどん大きく、そして色が濃くなっている。
それに触ると熱を帯びるように令に返ってくる。
 
(これが魔石の本当の力……!)
 
伊達は気にせず進んでいく、令は後をついていく。本当は一緒に協力したいところだが道が狭く足場もガタガタ。これでは掘削に不慣れの令は足手まといになると思ったので素直に伊達に任せている。今はとにかく早く薫たちと合流しなければ。
 
「ふう、ひさしぶりにたくさんほった」
「疲れていないですか?」
「ああ、だいじょうぶだ」
 
バフによって力を取り戻したことが嬉しいのか、伊達は令に対し少年のような笑顔で答える。伊達は今は少女なので素直に可愛らしい。
伊達の工房からどれくらい掘ったのだろうか、かなり進んだ。
 
「あとちょっとだ」
「まだ掘るんですか?」
「んだ。まだいしがやわい。それにいうほどほってねぇからな」
 
そうだろうか、令は後ろを振り返る。伊達の工房の明かりが本当に微かに見える。
令は試しに自身にもバフをかけて魔石を採取する。
緑色がこれでもかと輝く魔石だった。王に見せてもらってものとはこの時点ではかなりの格差がすでにある。
魔石はずっしり重く、中が良くつまっている。
 
(これでもなんですか?)
 
「すまねぇ、さっきのたのむ」
「さっきの……あ!すみません!」
 
令自身にバフをかけたせいで伊達にかけたバフは消えてしまっていた。令は急いでかけ直す。もちろん掛け声は忘れずに。
 
(いけないですね……やっぱり)
 
令のバフ魔法は強力だ。しかしどうしても断続的に集中しなければならず、予期せぬことをするとそれが切れやすい。
その課題がもろに出てしまった。
 
「いやぁ、ほんとうにたすかるだ。こんなにうごけるの!」
 
伊達は気にせず進み続ける。
 
 
それからさらにしばらく進むと伊達は止まった。
 
「ここらへんだな」
「魔石がですか?」
「んだ」
「おめもさがしてけろ、よさそうなのみつけたらおらにみせで」
「分かりました」
 
魔石の良いものがあったら伊達に報告、令は早速捜索を始める。
どこもかしこくもに魔石があるわけではない。大きな個体で強力なもはなおさら。
令は伊達が掘った道をくまなく探していく。
 
(細かなものはあるけど)
 
さっき取った風の魔石が良質と思えるほど、魔石はすぐには見つからない。その他にあるとすれば石炭思わしきものと魔石とはまた違った色の硬い石、鉄だろうか。
自分に魔石を検知できる魔法があれば。しかしそんな魔法を使ってしまえば、また伊達につけているバフがはがれてしまうだろう。
令は壁をなぞるように見ていると、
 
「伊達さ……刀治さん!これはどうですか!?」
「ん?あっだが?」
 
濃い青に輝く石、水魔法用に違いない。これまでそこらにあった魔石とは雰囲気から違っていた。
伊達はとことことやってくる。
 
「んだ。これならいける。あんがと」
 
伊達は特に喜ぶわけでもなく、水の魔石を壊さないように慎重に採掘していく。
取った魔石は両手の手のひらにギリギリ収まるような大きさ。
 
「ん、おおきさももんだいねぇ。けぇるぞ」
「はい」
 
そうして伊達と令は元来た場所に引き返す。
 
「特に驚かされないのですね」
「ん?いちいちおどろいてたらつかれるじゃ。わらすのころははしゃいでたけどな」
 
わらす、子供の頃。どうやら伊達は転生前はだいぶ大人だったなような喋りだ。
 
「それよりも刀ができたほうがうれしい。まさかこうしてまたつくれるとはおもわねかったからな」
「作れなかったのですか?」
「んだ。じだいのながれさにはかてねぇ」
 
伊達の懐かしむ目。少し細くなり遠くを見るような目。
まだ伊達から詳しいいきさつは聞けていないが、戦国時代からの転生者、きっと令には想像できなような出来事がたくさんあったのだろう。
 
(聞けるだろうか……聞いてみたいな……)
 
そう思っている間に伊達の工房に戻ってきた。
 
「んじゃつくるからまってけろ」
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