90,箱入り令嬢と方言な少女
彼女、伊達刀治は転生者だった。
あれからまずお互いのことを説明した。令は転生者以外特に語ることはないので主に伊達の成り立ちについて聞いたが。
伊達は転生者、王が言っていた逃げた先輩転生者でおそらく間違いない。
なぜ逃げたのか、自分のやりたいことができないから。そのため王宮内でたまたま聞いたこのビルコン山脈を目指し籠っていたという。
そして彼女の話を聞く限り、噓は言っていない、ついているように思えない真っ直ぐさと方言。それゆえあの伊達政宗に関わる仕事をしていたのは本当なのかもしれない。直接見ていないので断言はできないが。
だが、判断材料の刀はホンモノ。伊達が作っていた魔石を練った剣、魔剣は美術館で見たような綺麗な日本刀で明らかに出来が良かった。令たちが自作した剣が可愛く思えるほど。
しかし、伊達はこれで満足していないらしい。なんでも腕が鈍っているらしく、
 
「それど、もっといいいしがほし」
「ここにある魔石ではいけないのですか?」
「たりねぇ。いろいろ」
 
伊達はぼさぼさ頭を掻きながら、魔石を整理していく。
魔石、令はついつい見入ってしまう。ちょっと前薫が言っていた通り本当に宝石の様で美しく思える。しかし伊達はそれでも多分純度が、魔力が足りないのだろう。
 
「ごごのはてつもある。すなもある。ただ、いしがよわい。あれじゃこわせるけんはつくれねぇ」
「なるほど……」
 
伊達はもっと強力な魔石を探している。
それよりも令はずっと気になっている、うずうずする。障壁を破壊するよるよりも気になること、気になってしまったこと。
 
「伊達さん、ちょっといいですか?!」
「なによ」
「座ってもらっていいですか?」
「なしてよ」
「お願いします!」
 
伊達は令の圧に負け、渋々椅子に座る。石で作られた冷たい椅子だ。
そこに令は後ろから近づき、
 
「髪、直させてください!」
「かみ?じゃまじゃねぇからきにしね」
「せっかくの可愛いらしい姿がもったいないです!」
「ん~?おらが?」
 
令はポケットから櫛を取り出し、問答無用で伊達の髪にあてていく。
嫌がられたらどうしようかと思ったが、素直に受け入れてくれた。
令はずっと気になっていた。
女性時代、令は髪にとにかく気を使っていた。皆に褒められるが嬉しかったから。髪質は父親譲りの少し硬めだが指がすいていく上質な黒髪。体躯を少し気にしていた令にとって髪は数少ない武器だった。
転生後も変わらず続けている。こうしてすぐ取り出せる所に櫛があるように。
今、令の身体の髪質は最高だ。硬すぎずほどよくとにかくサラサラしてくれる。青という前の世界では有り得ない髪色に変わったことは驚いたが。
伊達のぼさぼさしている水色の髪をすいていく。最初はしっかり洗っていないためゴワゴワしている。ここから出たらシャンプーをしてあげたい。
とりあえず応急処置、櫛で力をいれず少しずつ解いていく。髪がこれ以上痛まないように。
そうするとだんだん伊達の髪は柔らかさを取り戻していく。
 
「……くすぐって……おらがかわいいってどういうことだ?」
「そのままの意味ですよ。可愛い女の子だなって」
「……?なにいってんだ、おらはおとこだ」
「……?女の子ですよね?」
「……は?」
「……え?」
 
伊達は振り返り令を見つめる。良くなってきた髪は綺麗に揺れた。まだ完全に処置できていないので少しウェーブがかかったような髪型になっている。それと洗っていないので汗の匂いがする。
それよりもだ。伊達は固まっていた。
伊達は見るからに少女だ。体つき、胸囲は転生前令は敗北している。悔しい。それ以外にもはたから一目で女性だと思った。
 
(まさか俗に言っていた、オトコの娘?!)
 
確かに今は洞窟の中、外の世界よりも明るさは確保出来ず幾分薄暗い。しかし、天井についている火球ライトで十分照明の役割は果たしている。
見間違い、果たしてそうだろうか。それとも実物を見ないといけないのだろうか。
 
「だってそもそもおらは伊達刀治っていうおどごのなまえだ」
 
それで令は確信する。この世界で転生すると性別は逆転する。何故か分からないが。
(もしかして気づいていない?!)
 
「あのー……その……」
 
令は手っ取り早く、ついていないことを確認させようと思ったがどう伝えたらいいか分からず、
 
「なんだべきゅうに。やっぱりおらはおどごだろ?」
「えっと……伊達さんて自分のお身体をしっかり見たことはありますか?」
「伊達だとまぎわらす、刀治でいい。なしてじぶんのからだみねばなんねぇの?」
「刀治さん、女性に変っています……」
「……はぁ?」
 
ここで流石に不思議に思ったのか、伊達は立ち上がり自分の身体をチェックし始める。令は手鏡を取り出しかざす。
すると、
 
「なんだべ!おらこんなかっこうさしでだの?!」
 
すぐに驚き、
 
「え?え?むねあるし!は?!」
 
そして伊達はやっと気づいてくれた、ない事に。どうして気付かなかったのかそれが不思議なくらいに。
令は頬をかきながら、
 
「今までどうされて生活してたんですか?」
「いやぁ、おどろいだ!からだなんてどうでもよぐで、ずっと刀のことかんがえてたから……でもそっか……せがちぢんだきがしたし、てさきがほそくかんじたし、ちからはいらねぇのはそういうことか」
 
伊達はやっと納得したようだ。
確かに言われるまで気づかないことも納得がいく。令たちは鏡を見て気づいた。伊達の場合は洞窟の中で籠っている、気づかなくても、
 
「やたらしょんべんすーすーしたのはそういうことが!」
「……。そういうことです」
 
そんなやっと性別が逆転したと気づいた伊達と脱出を企てるのである。
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