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85,箱入り令嬢と友情

「あら、つかさちゃん。眠れないの?」


 冬の夜中、雪が降って周りの音が静かな中ゆっくりと薫は令のところにやってきた。

 普段ならすでに寝ている時間、


「薫さん。飛行練習をしていました」

「そうだったの。本当に頑張り屋さんよね。どれぐらい出来るようになったか、見せてもらってもいいかしら?」

「はい!」


 そう言って令は勢いよく立ち上がる。

 集中力を高め、イメージする。


「飛ぶ魔法!」


(奈央さんのように)


 奈央に間近で手本を見せてもらってから飛びやすさが変わった。動きやすくなった、イメージがしやすくなった。

 それを実践していく。

 身体を前に倒し前進、起こして後退する。今度は前斜めに身体を倒し曲がる、そして横に円を描くように一周する。

 奈央のように縦回転での一回転は流石にまだ難しいが、横回転なら今の令には出来る。


「そんなに出来るようになったのね!凄い!」


 薫は地上で感嘆としていた。

 令は身体の疲労が溜まってきたので、地上に戻る。


「ありがとうね、見せてもらって。ワタシなんてそんなに器用に飛べる事出来ないのよ?」


 今度は薫が飛行魔法を行う。

 薫の場合はスピードが出る。それは奈央に以上に、直線番長だ。

 薫は急ブレーキで止まる。あれから止まり方を会得したようだ。

 今度は前進、一瞬でどこへ吹き飛んでいき、勢いよく帰ってくる。

 そしてゼーゼーと息を切らしながら令のいる地上に戻った。


「つ、疲れるわ……」

「薫さんも相当練習されてみたいですね。進歩しています」


 薫は寝っ転がりながら、


「そんなんでもないわよ。つかさちゃんみたいに器用に出来る方が絶対いいわ。ワタシは性格上こんなもんだしね。努力するつかさちゃんは素敵だわ」

「……」

「この移動期間も毎日やっていたんでしょう?奈央ちゃんたちからも聞いているわ、ワタシもチラッと見たし。ひたむきにやれるって本当に凄いことよ」


 出来ないのが悔しくて練習していた、なんて言えば子供っぽいと微笑ましく思われるだろうか。令は考えていた。


「ワタシは割り切ることしか出来ないからね~。できそうなやる、無理だと思ったらやらない。それで変に迷惑をかけることは目に見えるからね」

「そうして割り切れること、羨ましく思います」


 自分もそういう性格だったら。令のやらなければいけないことは他にもある。それを飛行練習に割いてしまった。何故か、出来ないのが嫌だったから。

 早々に諦め、料理の研究や裁縫の技術向上をしていたらどうだっただろうか。


「ワタシ、憧れの人がいるんです」


 薫の話を聞いて思い出す。


「お父さん、じゃなくて?」

「はい、別の人です。生き方がいいなって……」


 サバサバしていて、不平不満はすぐに吐き捨て自分を上手くコントロールしている人。


「SNSの人なので、お顔を拝見したことはありませんが、真っ直ぐな方で自分が良いと思ったら褒め、好ましくないと思ったらそのように呟く。それで度々炎上のような形になっていましたが……それでも周りの環境に流されずに生きていけるのはいいなって」

「へー。結構有名な人だったの?」

「はい。アカウント名はカヲルっていう女性の方です」

「あら奇遇ね、ワタシと同じ名前のひとじゃない!」

「そうですね。薫のおの部分が、わ行のをになっている方でした」

「本当に一緒ね……」

「世間の評判はあまりいいとはいえない方ですが、周りに流されずに自分の考えがあって……よく女性関連とご自身の身の回りのことについて呟かれていました」

「うん!もしかしなくとも自分な気がするわ!」


 最後に呟いたのは、アイコンはなんだったか本人に教える。ご本人は顔を青ざめながら首を縦に降っていた。


「それは!何という偶然!有名人と一緒に転生しただなんて!」

「……有名人だなんて、あんまり褒められたものではないわ……特に転生して、ましてや男になって思う……厄介な人間だったって」

「確かに周りの人はそう見るかもしれませんが、少なくとも私は芯があって素敵だと思います。それに……」


 薫にどれだけ助けられたことだろうか。

 令は何でもやってしまう性分、任された仕事を何でも出来るようにやる性分。だからこそ流されやすい。それが時にマイナスに働くことも分かっていた。

 現にもし薫がいなければ、今頃はどうなっていただろう。今こそこうしてある程度自由にやらせてもらっているが、あのまま流されていればこの世界の外側を見ることができただろうか。

 同様に奈央もだ。彼女の慎重な性格、今はワンミと出会い随分伸び伸びしているが、いなければ、自分一人であれば分からない。それにいい目標、ライバルだ。魔法の先生でありライバル。燃える展開は男になってから特に好きだ。


「薫さんがいたから、こうして我々は4人で冒険できているのですよ」

「いやいや、ワタシは何もしていないわよ……」

「いえいえ……」


 こうしてしばらく口論が続く。


(薫さんは自分のことになると急に弱気になるというか……)


「はぁはぁ……まいったわ……降参よ」

「薫さんはもっと自信をもっていいのですよ」

「分かっているんだけど、どうにもね~……」


 分かっている。


(そうだ自分も分かっている……)


 どうすれば物事が進んで、どうすれば苦戦するのか、令も本当は分かっている。

 令は手先は器用だが、身体全体を使う動作があまり得意ではない。

 それは分かっている。

 でも抗ってしまう、人間。


「不思議ですよね、私も魔法の得意不得意は分かっているのですが、ついつい諦めずに挑戦してしまいます」

「それは諦めたくないからでしょ?いいことよ、全員がそうやって懲りずにできるわけじゃない。それは自信をもっていいことよ。でも本当に身体が危なくなったら少しは考えてね?」

「はい」


 令は薫の手を取り、起こしてあげる。

 そして2人で笑いあう。


 それが友情だと、性別が変わった2人が知るのはもうちょっと後だ。

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