82,箱入り令嬢の決意と冒険昼食
ワンミが立ち上がり、テントに戻ろうとした。
(そういえば……)
令は思い出し、
「ワンミさん!」
「?どうしました?」
「ワンミさんは飛行魔法はどうしているのですか?」
そういえば、ワンミと魔法の進捗の話を全然していないと令も立ち上がる。
「飛行魔法ですか。自分はまだ練習していないです。火魔法を実践で使えるようにと奈央とずっと練習していました」
「そうだったんですね」
「飛行魔法まで練習すると魔力の消費が激しくて体力がもたないと奈央に言われたので。だからみんな凄いなって。飛行魔法凄く難しいと思いますが諦めずに練習しているので。みんなの魔力、雰囲気もどんどん強くなっているので」
「……そう言っていただけると嬉しいです」
「令さんは、料理もそうですが本当に色んなところで努力されていて凄いです。令さんがいるから奈央ともこうして仲良くできているのは、ありますから……」
(ワンミさんはしっかり見ているのですね)
彼女の生い立ちがそうしているのかもしれないが、人をしっかり見ている。
令はそれが嬉しかった。
努力、決して表に現れにくいもの。表に表すには難しいもの。わざとやっても気を使わせてしまう。宿題のように、コツコツそれは伸ばしていくもの。
ワンミはそういうところを見ている。きっと彼女も努力家なのだろう。
「そ、その自分が言うのはおこがましいことなのかもしれないですけど……令さんは凄く頑張っています!だから焦らずとも大丈夫ですよ!奈央もそうですが、それに自分もまだまだだけどサポート出来るように頑張りますから!」
「……」
ワンミは令の手を取りながら、真剣に話す。
令はただ聞いた。
「そ、それじゃ、おやすみなさいです!」
ワンミは自分の行動が恥ずかしくなったのか、少し慌てるようにテントに戻っていった。
令はワンミがテントに向かったのを見送り、もう一度寝転がる。
(気を、使われていますね……)
令がサクサクと魔法を取得出来ないから、ワンミはきっとあのように言ってくれたのだろう。本当に優しい人だ。
しかし、
(それに甘えていてはいけない)
立派になること、今の令では到底そこにはたどり着いていない。
(明日も頑張ろう)
令は寝落ちする前に自身のテントに戻った。
「今日はオムライスだ!!」
「凄い、可愛い料理です。オムライスっていうのね奈央」
冒険から3日目の昼食、令はたくさんあるストックの中からオムライスを解凍し、火魔法で温めなおした。
ちなみに2日目の昼食はカレーパン、奈央が飽きずに食べ続けていた。しかし流石に薫はそろそろ限界のようで、また連日の味の濃さにお腹の調子を悪くしたので夜は大人しく4人でレーションを食べた。
馬たちにも食事を忘れずに提供する。今日は少しいぶした麦、毎日同じ味では飽きて特に薫の馬は簡単に暴れやすいので、適度に毛手上げる必要がある。そこは馬も人間も一緒にだ。
オムライスをこれまた久しぶりに見た奈央が目をキラキラさせ、初めてその名前を聞くワンミは興味津々で眺めていた。
薫が令に近づき、
「オムライス、ずいぶん本格的ね」
「大きさだけかもですが……一応味見はしましたが皆さんのお口に合うかどうか……」
「あら自信なかったの?」
「向こうでは作ったことと食べたことがなくて……漫画の知識だけ作ったので」
「それでここまで作れるなら十分だと思うけどね、どれどれ……」
それぞれ各席に座る。
令は薫に言った通り、オムライスは不安だった。
少女漫画で培った知識を絞りだしながら作っていく。
貴重な貴重な卵、鶏はまだまだ数が限定的の様で高価だ。金銭的な問題は王からの支給があるので皆無だったが、このままでは数が作れない。
(卵、増やせないでしょうか……増える魔法!)
試しに念じてみる。目を開けたらそこにはふたつの卵が並んでいた。
(またとんでもないことをしてしまいました……)
それ相応に魔力は減る。軽く半分以上持っていかれた。軽くめまいがする。
ただこれでまた一つの食材を多く確保できる。乱用はすべきでないと良心が訴えているので身内だけの料理でしか使わないが。
少しずつ魔法を慣らしながら、続けて同じく貴重なトマトを必要分増やす。
基本的な材料は完了だ。ご飯は麦で代用できる。
(問題は味……)
漫画を頼りに作るしかない。最初に試したオムライスはひどく甘いものだった。フィクションゆえのものだったか、おやつ用だったのか、改良からの始まりだった。
(チキンライスが甘すぎますね)
次にバターを減らして見ると幾分良くなった。ケチャップも同様に甘さを減らした。
ただ、
(世間のオムライスって甘いものなのでしょうか?!)
試行錯誤するうちに、漫画通りが世間一般なのではと令は混乱し始める。なぜなら食べたことがないから。
(と、とりあえず……薫さんたちから意見もらいましょう……甘さは後からでも足せるので)
「いただきます!」
「いただきます」
「いただきます!」
「いただきます」
薫、令、奈央、ワンミの順番に挨拶し、オムライスを食べていく。
「美味しい!」
一番に嬉しい発言をくれたのは奈央。
「お店、ファミレスで食べるような本格的なやつだ!」
「奈央、ファミレスって何?」
ワンミは奈央をガン見しながら聞いていた。
続いて薫がスプーンを口に運び、
「うん、本当ね。本格的で好きな味だわ」
「……良かったです」
令も安心し、食べ始める。
奈央がワンミに説明し終わったのか立ち上がり、
「令さん、バターって追加出来ますか?自分はもう少し甘い方が好みで」
「そうだったんですね。バター、ありますよ」
令がバックから取り出そうとした時だった、ワンミが奈央に、
「太るよ」
「うぐっ!そっか……そうだよね……うーん!どうしよう!令さんすみません!やっぱり無しで!」
「分かりました」
バターは魔法の調味料、それゆえに脂質が半端ない。
奈央は泣く泣く断念するようだった。そんな表情をワンミは横目でニヤニヤしながら見ていた。怖可愛い。
そんな昼下がりの昼食は楽しく過ぎていく。
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