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81,箱入り令嬢と銀髪の美女

(食事、良かった……)


 令は空を見上げながら、身体を伸ばす。

 冒険初日の夜、静かな草原で令一人座り瞑想を始める。もうすぐ本格的な秋になるような肌寒い風が令をなでる。

 移動したてなので外見周りの変化はほとんどない。もう少し進んでいくと大きな山々が見えるとのことだった。

 それに山付近の気温は寒いらしい。後ほど衣替えをする予定だ。

 晩ご飯は奈央の強い希望でカレーをアンコールした。今回準備した中でカレーは特にストック数が多いのでちょうど良かった。

 たくさん食べても美味しいカレーはきっと奈央が言った通り魔法の料理かもしれない。


(明日はどうしましょう……)


 令は献立を決め、立ち上がる。


(よし……魔法の練習だ!)


 瞑想で高めた集中力を発揮する。スルスル上昇を開始する。ここまで難なく出来る。

 令は一度降り、再度飛行魔法を行う。


(今度は!)


 一気にスピードを付けて上昇するように。

 令の身体は一気に上空めがけ上昇していく。スピードも乗っている。雲のある所まで上がり続け、


(止まる!)


 急制動で身体をビダっと止める。身体に悪い止まり方、しかし今の令にはこれしかブレーキの効く手段がなかった。

 令の額に一気に汗が噴き出る。上空は更に寒いというのに燃えるように身体が熱く感じた。


(ここまでは出来る……問題は……!)


 ここから下降し、地面に上手く着地すること。

 下降なら魔法を解除するだけでいいので、さほど燃費を食う行為ではない。しかし令が現在課題にしているのはスピードが乗った時に止まれるかどうか。

 上昇と同じように急制動をかければいいかもしれないが、タイミングが分からずにいた。

 今までは地面よりもだいぶ上に止まってしまったり、地面に激突したりを繰り返していた。

 何より魔力燃費が悪い。正確には身体の発汗を多く感じる。息が上がる、酷いときはめまいもする。

 息を整えたいところだが実践ではそんなことは許してくれない。

 令は息を小さく吐き、地面に向かう。


(今……!)


 グッと再度急制動をかける。この衝撃にはまだ慣れない。

 今回の令は奇跡的に地面にすれすれで止まることが出来た。


(やった!)


 令は魔法を解除に地面の草原に倒れ込む。そして大の字に態勢を整える。

 男になってから寝っ転がるときはこの態勢がお気に入りだった。


(前だったら絶対はしたないと怒られるのでしょうね)


 少しずつ令は呼吸を整えていく。


(どうして料理をする時の魔法はここまで疲れないのに、飛行魔法と戦闘はいつまでも慣れないのでしょう……?)


 飛行魔法はやっと上昇と下降でスピードが出せるようになった程度。全力で前進するところはこれからだった。すでに何回か試しているが今のところ光明が見える気配は感じられなかった。


(というより、飛行魔法ってどの属性になるのでしょうか……?)


 奈央が最初に使用していたので黒魔法専用のものかと思われたが、令と薫もできるあたりそうではないようだ。

 そして奈央が初めて使用したときのように背中に翼が生えるわけは無かった。奈央もあの戦闘以降翼が生えるわけでもなく。本当に飛行魔法は謎に包まれていた。


(でも全員使えるあたり、無魔法ですよね……)


 だとすれば令の領分だ。しかしこうして苦労している、それが分からずにいた。


(とにかく努力して会得するしかないですね……)


 令が大きく息を吐いた時だった。


「つ、令さん?どうしてここに?」


 顔を覗かれるようにワンミに話しかけられた。

 月明かりに照らされた彼女のサラサラ揺れる銀髪が映え、非常に美しく何より可愛い。


「ワンミさん、魔法の練習をしていました。ワンミさんは?もうお休みの時間ですが……」

「えっと……奈央に教えてもらったんだ、こういう時は……お、お手洗いに行っていました!」


 ワンミは少し恥ずかしそうに言うが、それ以上に失礼なことを聞いてしまった令はあわあわし、


「そ、そうですよね!ごめんなさい!聞かなくていいことを……」

「い、いえ!気にしないでください!」


 ツッコむところがあったが令は気づかず、会話がそこで終わる。

 何か話さなければ、令は口を開けるも共通の話題が見つからずにいた。

 するとワンミの方から、


「カレー凄く美味しかったです。ありがとうございます」


 そして流れるように隣に座る。

 今まで大の字になっていたことを思い出し、勢いよく起き上がり、ワンミと同じ態勢になる。


「いえいえ、ワンミさんの口にあって本当に良かったです」

「奈央の新たな一面が見られたので……」


 ワンミはにやけるように笑っている気がした。夜の風景も相まって少し不気味だ。しかしそんな姿に絵になる、怖可愛い。

 ワンミは咳払いし、


「令さん、良ければカレーの作り方を教えて欲しいです」

「料理に興味があるのですか?」

「はい。それといつでも奈央の笑顔が見たいので」


 ワンミはとんでもないことを言っている気がしたが、表情は真剣。


(本当に愛されていますね奈央さん)


 今が特に熱い時期なのだろう。


「分かりました。冒険が終わって王都に戻ったらでもよろしいですか?」

「はい!お願いします!」


 にこやかワンミの表情は奈央に見せてあげたかったと令は思った。それほどまでに輝いていた。


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