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80,箱入り令嬢と冒険の昼食

「今日はカレーだ!嬉しい!」

「カレーっていうの?!奈央!」


 秋晴れの昼下がり、王都を出発し最初のご飯。

 奈央とワンミは目の前のごちそうを前に目をキラキラを輝かせていた。


「つかさちゃん、どうやっての作ったの?!調理しているところほとんど見ていないのだけど!」


 料理のアシスタント役の薫は今回お役御免になったことで、少しショックを受けているようだった。


「料理はやっぱり手間を省けた方がいいので、今回は向こうで作っていたカレーを冷凍して持ってきました。他にも様々用意していますので楽しみにしてください」

「ほぇ~」


 令の説明に、薫は目が点になっていた。


(シチュー、ハヤシライス、衣までつけたコロッケ、カツ、ピザ……)


 令の大きいリュックには沢山の種類の食材、および食品が入っている。

 今回チャレンジしたこと、冷凍食品を、あらかじめ作った料理をそのまま持ち込む。前世で出来なかったこと、お弁当を作る際にはわざわざ解凍し、数時間以内に食べないといけない。

 しかしこっち世界ではそんな手間をかける必要はない。あらかじめ用意した食品、冷凍しても味があまり変わらないものたちを冷凍魔法で長期冷凍。そしてそれを伸縮魔法で圧縮し、大量にストックする。

 令も流石にメモを見ないと内容を覚えきれないくらい作ってきた。とりあえずひと月分を3食4人前準備している。おかけで圧縮量はとんでもないことになっている。

 料理袋の中身は、小さい袋にお皿ごと凍らせた料理を2センチくらいに圧縮する。小さすぎるとつまんで取れなくなるので、目に見えて取れるギリギリの圧縮。お皿ごとでも解凍次第で割れない所は素晴らしい。


「いただきます!」

「いただきます」

「いただきます!」

「いただきます」


 薫、令、奈央、ワンミの順番で挨拶を食べ始める。


「うん!美味しい!」

「お、美味しい……!」


 奈央は満面の笑みで、ワンミは初めての食べるカレーを恐る恐る口に入れ、驚きの声を上げていた。


「美味しいわつかさちゃん。しっかしカレーも随分久しぶりに食べるわ~」

「そうですよね。私も思い出すことに苦労しました。向こうからだいぶ経ちますよね」

「だってそろそろ半年過ぎるっていうか、もう過ぎているんじゃない?」

「本当に月日はあっという間ですね……」

「月日……婚期……婚期だけはまた逃してはいけない……」


 薫が謎の呪文を唱え始めたので、令はそっとしておいた。

 女子2人が見える方に身体をずらし、


「カレーどうですか?」

「久しぶりに食べました!とっても美味しいです!」

「良かったです。ワンミさんはどうですか?」

「美味しいです。こんな深い味わいあるもの初めて食べました……」

「向こうの世界では当たり前に食べられている料理です。向こうは時代が進んでいるのでこういった複雑な料理が数多くありますよ」

「凄いです……本当に美味しい……」


 ワンミは目を見開きながらパクパクと手を進めていく。


(無事に作れて良かったです……)


 冷凍食品を自分で作るのは初めてのもちろん初めての試み。当然味見は何度もした。今回のカレーは少し不安だったが。

 令が食べたカレーライスに近い形をできるだけ再現したいと思ったが、如何せんスパイスが足りなかった、というよりなかった。トンギビスタ村からいくつかの食材は運ばれて来るがそれでも限界があった。

 スパイス、この世界では流通はおろかまだ認知されていない。王都の民に聞けばはてなマークが浮かぶはずだ。

 カレーを作るにあたって一番の困難はそこだった、味をどう作ればいいのか。

 令は無数にある小麦に、申し訳ないと思いつつ、魔法を唱えた。小麦がイメージするスパイスに変換するか。


(食材に対する冒涜かもしれませんが……)


 実験は成功した。スパイスの元が小麦が変換して見せた。

 物質の変化、できるとは思わなかった。植物から植物に変えたから変換することが出来たようだった。更に試して小麦から魔石にと念じてみたが、それは出来なかった。


(なるほど……でもこれであらゆる料理が作れる!)


 カレーの他の材料、ご飯は麦ご飯でなんとかなる。人参などはトンギビスタ村から数に限りはあるが確保は可能。

 あとは何回も実際に何回も試して完成させた。


(少し甘めかもしれないですが……)


 令が食べていたカレーはもう少しスパイスの効いたちょっと辛みのあるもだった。しかし令はこちらの世界に半年いたせいもあり全てのスパイスを思い出せず、結果的に牛乳や野菜の甘味が効いたカレーが完成した。

 それが向こうの世界でいう一般的なカレールーの味と酷似していることは知らずに。

 奈央は馴染みあるカレーを勢いよく頬張り、


「令さん!おかわり!」

「おかわりですか?!すみません、今日の分はこれだけでした……」

「あ、つい癖のように言ってしまいました!き、気にしないでください!今の身体で食べたら絶対太る……」

「ふふ。学生時代はよくおかわりしていたのですか?」

「それはもう!ご飯と一緒に何杯でもいける魔法の料理ですから!」


 奈央は食事になってからずっと目を輝かせている。今もキラキラしながらの力説、可愛い。

 そんな奈央を見てワンミは、


「奈央、そんなに食べたいなら残りあげるよ?」

「いいの?!い、いや、ワンミは食べて。ワンミ初めて食べるでしょ?」

「それより奈央の食べている姿見ている方が良い」


 ワンミの言葉に奈央は面食らっているようだった。


(なんだか妬けますね)


 男も、元女性メンバーも入る隙がないふたりの世界に令はただ微笑ましく眺めた。

 結局奈央たちは交互にあーんしながら食べることになったようだ。仲良すぎ。


 薫はと言えば、相変わらずカレーとにらめっこしながら「コンキ……コンキ……」と唱え続けていた。

 そんな楽しい冒険初日の昼下がりが終わる。


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