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79,箱入り令嬢と冒険の旅たち

「お久しぶりです」


 令は馬に挨拶する。



 冒険の準備が終わり、これから王都を出発するところ。

 そしてクルギアスラ村で共にした馬たちの再開だ。

 この休暇期間、馬たちは厩舎きゅうしゃでまったりと休んでいた。奈央の水クッションと共に。

 令は度々厩舎に訪れ、自身が乗った葦毛の馬と散歩に出ていた、同様に薫たちもそれぞれの馬で同様に王都の外を散歩していたようだ。そうでもしないと馬たちは水クッションで全く動かない。馬の運動不足は非常事態になってしまう。

 奈央は薫にも水クッションをプレゼントしたようだったが、それから薫を外で見かけることが少なくなった。それだけ恐ろしいクッション、令は欲しい気持ちはあったが堕落はいけないので奈央には頼んでいない。

 馬たち、少なくとも葦毛の馬はこの期間も良好な体調で過ごしている。水クッションでちょっと外に出すのが苦労するが、外に出てしまえばこっちのものだった。散歩はいつも軽快だ。

 令は女性時代にも乗馬の経験はそれなりにある。たしなみとして最初は父に勧められて始めたが、馬と、動物と、一緒に行動することは心がスッキリし、それからも何回か乗馬をしている。

 馬と心を通わせるのは心地良く、最初は意思疎通が取れず苦労こそしたが分かってしまえば、共にどこまでも行けそうな気分にさせてくれた。

 こちらの世界の馬も同様、葦毛の馬は令に合わせてくれる傾向が強く、助かっている。馬たちは向こうの世界の競馬クラスの大きさで本当に頼もしく、これからの繁栄に期待だ。

 魔法という移動手段が後々確保されると王・レベリヤンは言っている。そうすれば馬は必要ないと思われるかもしれないが、全員が全員魔法で移動できるとは限らない。おそらく魔法の方は高度な技量で使えるもの、それで移動できる者は限られるだろう。そこで馬、庶民の味方になってくれるだろう。


(仔馬も増えましたからね)


 令たちの馬の子孫はまだいないが、他の馬たちは着々と繫栄している。

 今後数年、供給しきるまでは数十年はかかるかもしれないが、隣に馬がいる生活が各所で見られるのは令としては嬉しいことだった。


(中世ヨーロッパがどのような雰囲気だったのか、興味がありましたから……)


 中世というよりはもうちょっと古いという感じが今の王都だろうが、これが少しずつ発展していく様子が見られるのは面白いと思っていた。



 令の馬はスリスリといつもように挨拶を返してくれる。


「相変わらず、あんたは愛想がないわねー!」


 薫の馬はいつもように唾を吐かれていた。

 奈央とワンミは2人で、


「今回もよろしくね」

「よろしくお願いします」


 馬の顔をスリスリしている。可愛い。というより馬が羨ましい。



(練習は頑張ってきたけど……)


 もうすぐ出発だが令はひとつふたつの不安があった。後悔があった。

 それは魔法練習の明確な成果が得られなかったこと。バフ中に戦闘が行えるようになること。それと飛行魔法。ふたつとも完璧には出来なかった。

 前者の方は有人で練習した方がより身になると感じ、薫に何回か付き合ってもらった。いつも林にて、


「いいよー!バフは来ているよー!」

「はい!」


 薫に攻撃力上昇バフを渡し、令は身体を動かし始める。


(ただ目の前の木に到達するだけでいい……!)


 ゆっくりと歩けばバフが途切れることはない。しかし戦闘でそんな悠長なことは許されない。駆け抜けるようにダッシュする。

 あと少し、あと10m、そんな時身体から魔力がフッと浮くような感覚。魔法が途切れる合図だった。


「あー!つかさちゃん惜しい!」

「はぁはぁ……!すみません!もう一回お願いします!」


 かれこれ何時間薫に付き合ってもらったのだろうか、日は少しずつ傾いていた。

 令は頭から流れる汗を拭う。たった少しの魔法と移動をしていないのに、身体の疲労はみるみる溜まっていく。


「つかさちゃん、今日は止めときましょ。息がかなり上がっているわ」

「……すみません。そうしますね」


 焦り過ぎてはいけない。元々薫にも言われているが無理に会得する必要もない。割り切って戦闘すればいいだけだ。


(出来ないことが悔しい……!)


 飛行魔法も同様だ。汗水沢山流しても結果は微々たる進捗速度。やっとゆっくりと上下左右、行きたい方向に曲がれるようになった。

 ただそれでは実践では使えない。令が目指しているのは実践で使用できるレベル。


(移動中も練習しよう……)


 成果が全てないわけじゃない。令の魔力はみるみる成長していた。現在は5000程度、休暇前は3000程度だったのでかなりの成長スピードだ。

 それでも奈央に追いつかないことは少し悔しい要因だが。

 魔力のコントロールは丁寧に確実に良くなっていた。奈央が言っていた火と水を合わせて使うドライヤー、これも今なら簡単にこなせる。

 他には料理で鍋に最初から沸騰した状態で水を出せるようになった。これは料理にて便利の極みであり、料理魔法を極めるなら初歩だろう。

 令は料理が好きだ。そのため料理で使える魔法は他にもないかこの休暇期間で軽く研究していた。


(冷凍保存に縮小は便利ですよね)


 前の世界で料理をする際にこれがあると便利、というものは大体試していた。

 冷蔵庫の要領の保存魔法、これで野菜や生ものを冒険中にも食べることができる。更に無魔法だからできる物体の伸縮。これは薫たちには出来ない。数日分でいっぱいになってしまうリュックもこの魔法によって何日分の食料を冷凍保存できるしくみ。


(前世であったらとんでもないことになっていたのでしょうね……)


 食べたい時にその場でテーブルを出し、ステーキをむさぼることができる。その環境を令は作り出していた。

 そんな薫たちの食生活を救った救世主の令は誇りを忘れ、戦闘関連の事ばかりを考え続けていた。

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