78,箱入り令嬢とレポート
(さて……)
令は自室に戻り、テーブルに紙とペンを持ってくる。ペンといっても鉛筆、ボールペンのような高度なものはまだまだこの世界には存在することはかなわないだろう。
魔石について、薫たちに説明できるようにまとめる、レポートのようなものだ。一般的には面倒だと思うものだが令はそこまで嫌だとは感じない。むしろ調べたことを自分らしくまとめ、新たな知識として覚えることが面白かった。
魔石に以下の働きがある。
・魔石は魔力をため込んだ石
・それを持つことで電池のようにエネルギーを得ることができる
・電池に種類があるように魔石にも様々な用途の種類、火属性や水属性などが存在する
・魔石の内部エネルギーを全部使い切ると粉々に砕けてしまうので温存が必要
・逆に蓄電しすぎて必要以上に内部に貯めるとそれも砕けてしまう
魔石について王から最初に説明があった分。
令はあれから気づいたことを王に質問した。王は魔石についてかなり詳しく教えてくれる。まるで実際にたくさんの魔石を見てきたように話してくれた。
そこについて感心すると、王は少し歯切れが悪くなるような気がしたがそれよりも魔石についてどんどん知識が増えていく方が嬉しかった。
・魔石には個体値なるものが存在する
分かりやすく言えば宝石のカラット数だろうか。魔石も元は石なので不純物が混ざりやすいらしい。そのため王が見せてくれた魔石は色こそかなり独特な緑色だったが、かなり不純物が混ぜっているようだった。
より高度な魔石は不純物がどんどん無くなり、純粋な魔石はかなり性能がよく強力な魔法を使用しても壊れる心配はないとのことだった。
そして今回の任務はそんなかなり強い魔石を各々手に入れつつ、現地民が今回もいるので貿易できるように手配して欲しいとのことだった。
魔石の探索はかなり時間を有するため今回の冒険も期限は問わないとのことだった。この感じからして次に王都に戻ってくる頃には冬になっているだろう。
(魔石を自分で見つけることはワクワクしますね)
特に奈央ならさぞ楽しみながらやってくれそうだ。彼女、元は男性なのでそういう冒険の定番は本当に楽しんで行う傾向にある。
逆に薫はどうだろう。宝石は女の憧れ、そこに惹かれれば熱中するだろうが飽きっぽい性分の彼は果てしてどっちに転がるだろう。
ワンミは奈央と一緒に出来ればそれが楽しいのだから問題ない。そんな思いも可愛い。
・最深部にいくほど純度、個体値が高いものが出やすい
今回の山脈は相当大きいらしい。標高は5000mを超える山々が連なっており、その長さは100km、200kmをゆうに超えるらしく、魔石が早々に枯渇することはないらしい。
そしてその山脈を掘り進め、ちょうど真ん中らへんに到達すると個体値の高い魔石が眠っているようで、またそこから掘り進めると魔石が石油のように湧いて出てくるようだ。
(掘削の時はバフで頑張らないと!)
おそらくかなり掘り進めなければ令たちが求める高レベルな魔石は出てこないだろう。そのためトンギビスタ村での掘削作業がここで活きることになりそうだ。
(てことは……)
どうしよう、令は汗臭さについて気にし始める。
この世界に香水のようなものはないわけではないがかなり貴重な代物。それを冒険にわざわざ持っていくのもおかしい。
それに怪しまれてしまう。汗の臭いが気になると自分から公言するようなもの。それはなんだか嫌だと、令は思った。
(魔法でなんとかならないでしょうか……)
無魔法なのだから、臭いも無にして欲しい。早速令は立ち上がり、目を閉じイメージする。
自身の臭いを、いっそ気配を消すようなそんなイメージ。
魔力が減る感覚がある。魔法自体は発動したようだ。早速自分の匂いを確認する。
(今は普通だから分からない……)
今はそんなに汗をかいていない。そもそも自分の体臭というのは自身では分かりにくいものだ。しかし、魔力を一気に消費したあたり何らかの効果あるはずだ。
(これでなんとかなるのでしょうか?)
もしダメなら水魔法で汗ごと流すしかない。そんなことをすれば皆がびっくりするので出来れば避けたいが。
(薫さんは羨ましい……)
汗問題、薫は無関係だ。あの時薫からそのように感じたことは一切なかった。というよりあまり汗をかいていないような気がした。汗が出づらい性質、それが何より羨ましい。
女性だった頃の令はそこまで汗っかきではなかった。おそらく性別と身体が変わってしまったから。
思い出す。父は汗っかきだった。しかしそれを不快に感じることはなかった。汗をかいているな、汗の匂いだなと思った程度。父は仕事ゆえによく動き、よく頭をフル回転している。そのためオンとオフの動きにかなりの差が出る人間。オフの時の父はあまり見る機会はなかったが、最後に見たのはまだ母の記憶がすごく曖昧にあるぐらいの時だろうか。
(とにかく、問題を自身で起こさないようにしなければ!)
もし奈央とワンミから「「汗臭い」」とそれもう蔑むような眼で言われたら令は立ち直れない。そういう趣味の方もいるらしいがワンミに言われた通りなら自分はピュアだ。純粋に受け取ってしまい、ショックで息ができなくなるだろう。
想像するだけで令は身振るいしながら、魔石についてパーティに報告するため自室を出た。
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