77,箱入り令嬢と王との会話
「次は東北東にあるビルコン山脈という所に行ってもらいたい」
今日は王室。外は相変わらず秋晴れが素晴らしく王宮で籠っているのがもったいないくらい。
しかし、時は流れるもので休暇も残りわずかになり、次回の冒険の行き場所を王とパーティ4人で会議をしていた。
ワンミと王は初対面。王は毅然として、ワンミは人見知り全開で最初は奈央の後ろに隠れていた。そんな姿も可愛い。
こういう会議の時は進行役は令だ。
「今回は山脈地帯、何か目的があるのですか?」
「流石目ざといね。そう、このビルコン山脈にはとある鉱石が眠っている。鉱石とは魔石だ。この魔石はこの世界ではとてつもない便利なものでね。今までは魔力を消費しながら魔法を使用していたが、魔石があればそれが肩代わり、補助をしてくれる。一気に魔法、魔力のレベルを上げることができ王都の発展に結びつけるというわけなんだ」
「なるほど、分かりました。それで今回はどれぐらい距離にあるのですか?地図があれば分かりやすいのですが……」
「すまないねぇ。地図製作はまだもうちょっとだけかかるんだ。今回も馬で移動すれば1週間でつけるところだ。方角はさっき言った通り東北東に進めばたどり着く」
1週間、というワードに各々が反応する。
薫は、
「1週間?!また長いわね~……」
移動がそこまで好きでないらしくげんなりしている。
ワンミは、
「初めての奈央と冒険……!」
ワクワク、ソワソワしている。男に興味はないらしい。
奈央は、
「スヤァ……」
「ちょっと奈央、起きてください!」
ワンミが奈央の席をトントンしながら起こしている。奈央はそもそもこの手の会議が苦手らしく、どうやら睡魔が勝ってしまうらしい。というよりワンミが来てきてから一段と甘えている節がある。そんな姿も可愛かった。
王はそんな各々に苦笑しながら、
「すまないね。魔石が取れるようになれば魔法で移動できるようになるから……」
「王は色々と知っているのですね。もう少しお聞きしたいのですが……」
令はその前に考えるより行動派の3名を解散させる。きっと話を続ければ全員寝てしまうだろうから。
「すみません、勝手に帰してしまいましたが良かったですか?」
「いいよ。君ぐらいだからねこうして話を聞いてもらえるのは……本当に助かるよ」
「それで魔石についてもう少しお聞きしたのですが……」
「まずは現物を見せた方が早いな。これだ」
そう言って令の前に王はコトンと石を置きにきた。
その石は宝石のように緑色で半透明。前の世界の宝石と違うのは内側からわずかに発光していることだった。
「触ってごらん」
「はい」
王の言う通り、令は魔石を手に取る。
すると魔石からじんわり熱のようなものを感じ始める。
「熱があるように感じるだろう。それが魔力だ。魔石は魔力を貯蔵し触れることで内部を使用することができる。ただし……貸してもらえるかい?」
「はい」
令は王に魔石を渡す。
王は風魔法を使い始める。王室に心地よい風がふく。
しばらくして魔法を止め、魔石を令のところに置く。
「もう一回触ってごらん」
「はい」
今度は魔石から熱が感じられなかった。王が握っていた手汗は感じるが。
王が何を伝えたいか、令は気づく。
「使用すると内部のエネルギーがなくなってしまうのですね」
「そう。これは弱い魔石だからこんなんですぐ魔力がなくなっちゃうけど、鉱山内部にある魔石はかなりの効力がある」
「この魔石はどうなってしまうのですか?」
「ああ。しばらく時間が経てば元に戻るよ。もしくは魔力を注ぎ込むこともできるね。ただし、魔石の内部を使いすぎると粉々に砕けるし、魔力を注ぎ込みすぎても砕ける。粉々になり過ぎると効力はどんどん薄くなる」
「なるほど……」
前の世界でいえば電池みたいなものだろう。
「それに魔石にも種類がある。属性魔法があるように魔石にも各属性が存在し、目の前にあるのは風用の魔石。火魔法をイメージすると効力はほとんど発揮しない。それだけでなく様々な用途の魔石が存在する。もちろん加工することも可能だよ」
「なるほど……ありがとうございます。しかし、王は本当に何でも知っているのですね」
「あ、ああ!偵察にいかせた手下からの報告を覚えていただけだからな!また何かわからないことがあれば知っている範囲で教えるよ!」
「分かりました、ありがとうございます」
令は王に会釈し、王室を後にした。
(魔石、ですか……)
もし手に入れることが出来れば今苦戦している飛行魔法も易々とできそうだ。それにバフ魔法を使用しながらの戦闘も容易になるだろう。
令は立ち止まる。
(物に頼ってはいけない)
自分でできなければ意味がない。
実際奈央は飛行魔法を駆使しながらドラゴンと戦闘している。令の戦闘スタイルとは別だが何かしながらの戦闘をすでに見ている。だからこそ令は出来るようになりたい。
令は再度足を進めながら物思いのに深ける。
(まだ時間はある……焦り過ぎずに頑張ろう)
焦りが毒になるがいい薬になる。これくらいの追い込みはむしろ令にとっては燃えるシチュエーションだ。
むしろ今まで苦労せずにここまできてしまったのだ。正確に言えばそんなことはないがこのこと、出来ないということは令自身の尊厳に関わる。
令は闘志を目に宿し、王宮を出た。
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