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76,箱入り令嬢、男二人

「2人きり、だわね……」

「2人きり、ですね……」


 ワンミに効果抜群の色仕掛けをくらった次の日、今度は薫と二人きりだった。もちろんいつも林で。今日も良く晴れている。

 男二人。


「これ、どこに需要があるのかしら?」

「需要、ですか?」

「ううん。気にしないでいいのよ。まさかなおちゃんに提案されて2人になってみたけど、よくよく考えたらなおちゃんたちが2人きりになりたかったからよね……やるわねなおちゃん……!」

「どうしましょうか?飛行練習の続きをやりますか?」

「いや、だいぶ疲れているからしばらくは休みたいわ」

「分かりました」


 そう言って令は薫の隣に腰かける。

 先ほどまで令と薫は飛行魔法練習を行っていた。あれからお互い幾分良くなった。令はある程度スムーズに移動できるように、まだ飛べるまでのスピードは出せないが。

 薫の方は逆にスピードよく飛べるが止まり方がわからないようだった。かなり危険な暴走列車と化している。


「やっぱり花の女子2人いないとなんだか寂しいわね~」

「それだったら、私たちが女性だったこと思い出しながら会話するのはどうですか?」

「なにそれ、面白そう。だけどワタシは男のつかさちゃんしか知らないし、逆も然りでしょ?」

「それもそうですね……」


 しょぼん。


「アイデアとしては素晴らしいのよ!この世界に写メがあればつかさちゃんの女性時代見れるのにな~。不便よね~」

「でも前の世界の持ち物は全くないですからね。確かに、薫さんの女性だった頃の写真、お顔を拝見してみたいです」

「ワタシなんて、ブサイクよ!ブ・サ・イ・ク!いもっぽいなんて同級生の男どもから何回も言われたからね!ムキィー!つかさちゃんは……お嬢様だったんだっけ?てことはスタイル抜群?」

「そんなことは……ただ身体のバランスには気を付けていました。バランスのいい食事、適度な運動は毎日欠かさずに」

「はえ~!ぐうたらしていたワタシからすれば凄いとしか言えないわ!いや、瘦せたいと思っていたのよ!でも会社があるとやる気がそがれるのよ!気づけばビールとおつまみ!ああ、飲みたくなってきたわ!」

「そういえばトンギビスタ村ではビールありましたね。王都にはまだ少量しか運ばれていませんが……あの時は飲んだのですか?」

「いや、飲みたかったけどね?ほら、この身体って17歳でしょ?びびって飲まなかったの!でも飲みたかった!悔しいぃぃ!」


 薫は崩れるように、そして右手をタンタンと地面をたたいている。よっぽど飲みたかったらしい。


「ま、まぁ、この世界のお酒の法律は緩そうですから次見かけた時飲んだらどうですか?」

「ぞうずる!そしたらつかさちゃん!一緒に飲も!」

「私もですか?!」

「そうよ!一緒にビール飲みながら今みたいに会話しましょ!飲みにケーションよ!」

「その……飲んで大丈夫なのでしょうか?」

「さっきつかさちゃんが言ったじゃない!大丈夫なんでしょ?一人よりみんなで飲みたい!飲みたいのー!」


 今度は駄々をこね始めた。よっぽど一緒に飲みたいらしい。というよりなんなら今すでに出来上がっているのではと令は思い始めていた。


「わ、分かりました!今度飲みましょう……」

「やったー!ありがとう!」


 そう言って薫は令に軽快に抱きついてきた。完全に今自分たちがどういう性別になっているか忘れている。

 かと言ってにっこにこの嬉しそうな薫を、令は引き剝がすのは躊躇われた。地面をジタバタしていたせいか土の匂いと汗の臭いが混じっていた。

 そうこう思っているうちに薫から離れてくれた。


「約束よ?つかさちゃんてお酒飲んだことないのよね?」

「そうですね」

「そっかー。つかさちゃんどんな感じに変わっちゃうんだろ?」

「やっぱりお酒飲むと変わってしまうものなのですか?」

「たくさん飲めばほとんど人が変わるのよ。本性が見えるの。つかさちゃんのお父さんはどうだった?」

「確かにお父様はお酒を飲むといつも以上ににこやかになっていましたね」

「笑い上戸ね。そうそうそんな感じで喜怒哀楽がより豊かになる素敵な飲み物よ!」


 令はふと考える。


(自分が酔ったら……どうなるのでしょう)


 少なくとも暴れるだけは絶対にならないで欲しい。もしそうなるのであればお酒は永遠に封印した方がいい。


「ワタシが予想しまーす!つかさちゃんはね……もっと積極的にね色々と聞いてくるんじゃないかな?だから楽しくなる感じ?なおちゃんはね……凄いにこにこしてそう、だから喜びが強そうよね!ワンミちゃんは……未知数ね~……だけど、もっとなおちゃんにべったりになるんじゃないかしら?なおちゃんの度肝を抜かれるくらいね」


 それからしばらく薫のお酒トークは止まらなかった。奈央たちの気持ちが分かった。



「つかさちゃんはさ、憧れる人とかいた?夢とかってあった?そういうば聞いてないって思って」

「憧れ、夢、ですか……憧れでしたらお父様、ですね。夢はお父様の跡取りになるのですかね。なるつもりでいましたので」

「そっかそっか。つかさちゃんは偉いねしっかりお父さんと仲良くて」

「過保護気味は否めませんでしたが……」

「それでもしっかり愛されていたってことは本当に大事よ。本当に大事。他の人に憧れの人はいた?」

「そうですね……そういえば……」


 憧れ、というより羨ましいといえばいいのだろうか。それを久しぶりに思い出す。長らく前の世界の記憶を掘り起こしていないのでかなり懐かしく感じる。

 薫に伝える時、お昼の鐘が鳴る。こういう音は風情があって令は好きだった。カーンカーンとあくまで時報を伝えるために、力いっぱい甲高い音ではなく穏やかに一定のリズムで。前の世界で暮らしていれば聞くことはなかっただろう。


「あら、お昼ね!戻りましょうか!」

「あ、はい!」


 どこまでも自由な薫に、令は後ろからついていく。

 そんな吹っ切れたように行動できる薫が羨ましかった。


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