74,箱入り令嬢のラブコメ
少しずつ王都でも暑さが納まりを見え始めた快晴な今日、依然として令は飛行魔法会得に向けて練習していた。
あれから数日が経過し、上昇と下降までは一人でもできるようになったが問題はそこから実際に飛行することだった。
鳥のように、と奈央は言うが令は鳥ではないので上手くイメージが出来ずにいた。
そのため今回は奈央に付き添ってもらっている。
薫とワンミは親睦を深めるため、王宮にいるようだ。
令たちは前回同様の林で練習を始める。
「すみません奈央さん、お願いします」
「いえ、教えるのが苦手で本当に申し訳ないというか……こうすればああすればって言えたらいいですが、完全に感覚頼りなので……」
「だからこそ奈央さんはすぐに上達するのだと思います。凄いことです」
「ありがとうございます。今日はとりあえず水平に横移動してみて、だんだん速度を速くしてみたり上下に動いて見るのはどうですか?」
「そうしてみますね」
「いつでも補助ができるように自分をおぶってください」
「おんぶですか?」
「はい。落下しそうになったら自分が補助するので」
「なるほど。それでは失礼しますね」
令は奈央の前で後ろを向いてしゃがむ。
「乗りますね」
奈央が背中に乗る。
(なんですか……!?)
ただ人が背中に乗る。前世界でもおんぶはしたことがある。ただそれはあくまで同性で女の子同士。こっち世界に来てからおんぶすること自体初めてだが、
(奈央さんからいい香りが!)
前世界では感じなかった心が一気に揺れる。
(どうして……!?)
奈央から感じる甘いような香り、ふわっと柔らかく感じる肢体。ひとつひとつが令の脳を刺激する。
何より、
(背中にあたっていますね……)
女性の時は気にもしなかった感触。やはり男性に変わってしまったからなのだろうか、令の心はまだ落ち着かない。
「令さんどうかしました?もしかして重かったですか……?」
「ううん!全然です!むしろ軽くびっくりしてしまいました!」
「そ、そうですか!」
令は誤魔化しながら立ち上がる。
人が背中に乗っているはずなのに、奈央の体重は羽のように軽く感じるのだ。小柄ゆえはあるかもしれないがそういうのもまた令の気持ちが揺れ動く。
(い、今は練習!付き合ってもらっているんだから!)
令は大きく深呼吸し、目を閉じて集中を始める。先ほどまでの揺れ動くことが若干あるのでもう一回深呼吸し、深く自分を鎮める。
「飛ぶ魔法!」
イメージ通り令たちの身体が浮いていく。
「今回は横移動の練習なのであんまり高く上昇しなくて大丈夫です」
「ひぁい!」
「令さん大丈夫ですか?!」
「大丈夫!気にしないでください!」
令の右耳に奈央が囁くように話し、大きく動揺してしまう。
優しく話す奈央の声が、令の身体をゾワゾワとさせた。しかし今は飛行訓練中、すぐに切り替え集中を戻す。
20mくらいまで上昇し、止まる。
そこからゆっくりと前に進む。
この動作に入った瞬間、魔力が吸い取られるように減っていく。それだけイメージがまだ固まっていない証拠だった。
「令さん、こわばり過ぎてます。もうちょっとリラックスしてもいいかもしれません」
「は、はい!」
ゾワゾワが令をまた襲うが今度は2回目そこまで驚かないように、顔に出さないようにする。
令は身体のこわばりを解くため、集中は切らさずに深呼吸をする。
そしてまた前進を始める。先ほどより滞る感覚が減った。
「いい感じです。今度はこのまま一度後ろにさがりましょう」
「う、後ろ……分かりました……!」
令は前進を一度止め、ゆっくり後退を始める。
(これであっているのかな?!)
令は確実性を求める性分。そのためやりながら何かをすると動揺が先にくる。
イメージが崩れ、落下する。
「ああ!」
「大丈夫ですよ!しっかり浮いていますから。落ち着くまで自分が魔法を使っていますので」
「すみません、ありがとうございます」
令は落下しないことにほっと息をつく。
(やっぱりご迷惑を……早く習得しないと)
そのためにどうすればいいか、呼吸を整えながら考える。
すると奈央が、
「令さん、あんまり変に考えなくても大丈夫ですよ。ただあそこまで飛びたい。スピードはこれくらい出したい。くらいの軽さで大丈夫です」
「それで本当に大丈夫ですか?飛ぶって色々な技術がいると思って……」
「少なくとも今の自分はこの場に浮きたいなーって思っているだけですよ。他に考えなくても後は魔力が補ってくれますから」
「わ、分かりました」
「ぞれじゃ魔法解除しますね」
「お願いします」
令は集中する。身体に力を入れすぎず、頭で考えすぎないように。
(目の前の木にゆっくり進もう)
令たちは前進を始める。
「いい感じです。今度はバックしましょう」
奈央の指示を受け、
(10mくらいゆっくり後退)
前進から一転、停止することなく後退を始め少ししてから止まる。
「で、できた!出来ました!」
「はい!やっぱり令さん色々考えすぎてしまって上手くいかない感じなので……なんていえばいいのかな……?その……1+1から始めるといいと思います」
「なるほど!ありがとうございます!」
令は出来たことにリラックスする。
すると今の状況、奈央と密接になっていることを思い出し恥ずかしさがこみ上げてくる。
こうして令と奈央はもうしばらく練習し、令は飛行ができたらリラックスして恥ずかしくなるのを何回か繰り返した。
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