73,箱入り令嬢は飛行練習を始めます
「飛ぶ魔法!」
令はイメージを高めるために自分だけの呪文を唱える。
王都に戻り1月分の休暇兼特訓期間、本日は薫・奈央・ワンミで集まり魔法の練習を王都郊外の人気のない林で行っていた。
(自分でやると難しい……!)
令は身体が浮いた瞬間、態勢を崩しその場に倒れ込む。
隣では同様に薫が練習しているが、向こうもうまくいっていないようだ。
奈央とワンミは、ワンミが戦闘に向けてある程度自衛できるように特訓中だ。今日も2人は密接になっている。凄く可愛い。
薫は寝そべりジタパタ始め、
「あー!飛ぶの難しすぎるでしょ!よくやるわーなおちゃん!」
「そうですね。私も上手くできません」
令は起き上がり苦笑しながら応える。
「なおちゃんがどう表現するか頭悩ませて、自転車の補助輪無しと一緒の感覚って言ってたけど本当にその通りみたいね……大変だわ……」
「それであれば最初私たち2人で飛んでみませんか?まずは飛べるようにならないといけないと思うので」
「いいアイデアね!早速やりましょう!」
薫はシュバッと起き上がり、令の両肩を掴む。
薫が急に来たので令は少しびっくりしたが、やる気満々の薫の目を見てすぐに魔法の準備をする。
「飛ぶ魔法!」
イメージを高めると身体から魔力が抜ける感覚と共に、ふわっと浮き始める。
薫と一緒やっているおかげか今度はバランスを崩さずに上昇していく。
(でも難しい……!)
イメージを、集中を少しでも切らしてしまうとすぐにバランスを保てなくなりそうな危うさが令を襲う。
令は冷や汗を垂らしながらなんとか100mくらいまで上昇し、ゆっくり下降する。薫がどのように魔法を使っているかまでは余裕なく見ることが出来なかった。
地面にたどり着くと、2人でその場に座り込む。
「ぜぇぜぇ!やっぱり疲れるわねこれ!」
「はい……!でも上昇することができました」
「そうね、まずは第一歩だわ!でもここから右に左に飛べるようにならないといけないんでしょ?!できるかしら……」
「焦らずにゆっくりやるしかないと思います。いざとなったら奈央さんから助言をもらいましょう」
「つかさちゃんのその諦めない気持ち、励みになるわ……ワタシだけだったら絶対諦めるから」
「できないのはやっぱり悔しいですから」
「そういうところがホント偉いわよ。それじゃ引き続き始めましょうか」
2人は立ち上がる。
そうしてしばらく男2人が肩を組みながら上昇下降を繰り返す、謎の儀式のような光景がそこにはあった。
「なおちゃんおつかれ~。こっちは休憩することにしたわ……そっちはどんな感じ?」
それから2、30分で魔力が少なくなってきたので令と薫は練習を切り上げ、奈央たちの元に向かった。
「薫さんお疲れ様です。かなり疲れていますね……」
「そりゃまた慣れない魔法を練習しているからねー。なおちゃん簡単にやってるからワタシたちもなんて思ってやってるけど難しすぎよ!」
「ははは……なんか出来てしまったので……」
「つかさちゃん聞いた?羨ましい限りよー!」
「そうですね。追いつくにはとにかく練習するしかなさそうそうですね」
「つかさちゃんのそういうポジティブ、ホント見習わないとねー。そうそうなおちゃんたちはどんなことをしていたの?」
「ワンミの戦闘用の火魔法の練習……て言えばいいのかな?」
「はい、奈央に見てもらって様々な力の火魔法を使っていました」
「相変わらず仲良さそうで何よりだわ。大技だけが全てじゃないものね~」
「奈央から色んな的に加減ができるようにしたいねーといわれましたから」
「そうそう、なんだか強敵ばっかり殺意ばっかりな敵にあたっているけど、向こうの反応次第で強弱は大事にしたいからね」
バフのレベルもそうだ。一番上から程遠いものまで、薫たちが求めた能力とその力量を提供できなければいけない。
戦闘中は余裕もって話せるわけではない。空気感を読んで的確に与える。
薫はバランス良くが好み、奈央はとにかくスピードを好む、ワンミは、
「お話を遮ってすみません。思い出したので忘れないうちにと思って。ワンミさん、ワンミさんは自分がパワーアップできるならどの能力が欲しいですか?バフをかける時にお役に立ちたいので」
「私は……落ち着いて魔法が撃てるようになりたいですね。強力な魔法はどうしてもすぐに放つことが難しいので……」
「ワンミ、それだったら防御上げてもらって敵の攻撃を無視できるのはどうかな?」
「いいと思う。それなら集中できるかも」
「なるほど、ありがとうございます。それなら状況に合わせて防御メインでバフをかけますね」
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
「ワンミちゃんが来てくれたおかげで一気に戦闘のバランス良くなった気がするわね~」
「そうですね。それに賑やかになって嬉しいです」
「ホント華が増えることはいいことよねー。つかさちゃんはどっちが好みとかある?」
「えっ?私の、ですか?」
「そうそう!2人とも魅力的だけどちょっとタイプが違うじゃない?だからさー!どっちどっち?」
「えっと……」
令は完全に固まる。どうしたものか。
女性2人は少し恥ずかしそうにこちらを見つめている。それがまた令の困惑に拍車をかける。
(なんて答えればいいのでしょうか?)
こういう時の経験が令にはない。
2人とも薫の言う通り魅力的な女性だ。だからこそどう答えればいいかためらってしまう。
奈央を見る。小柄で金髪の長髪が似合う、最近はワンミのおかげでハキハキ活発になりそれも魅力の一つだ。
奈央と目が合う。
(なんて気まずい……!)
つい恥ずかして目を逸らすと今度はワンミに見られていたことに気づく。
(うう……)
令はどう切り抜ける悩んでいた時だった。
「あ、ワタシまたとんでもないこと聞いてない?!今は男なのに!これじゃセクハラよ!みんな本当にごめんなさい!!」
そう言って薫は思いっきり土下座をした。
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