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72,箱入り令嬢の異世界での思い

(トンギビスタ村は本当に大変でした……)


 初めて尽くしの経験、男性になってから初めての冒険。


(男性はあんなに汗をかいて、あんなに動けるのですね……)


 その中でも一番辛かったのはやはり洞窟内での地下労働。

 何時間も何時間も絶えず働き続ける。令は真っ先に体調が悪くなった。しかし、オスのオーク、連れてこられたトンギビスタ村の男性たちは根をあげながらも体を動かしていた。

 どうしてそこまで動けるのか、令は不思議に思った。

 令も決して体力に自信がないわけではない。前の世界では運動は普通にこなせることが出来た。

 しかし、休みなしで何時間も動かすことは初めてだった。

 そして何より初めて嗅ぐ臭い。

 独特な汗の臭いに、令は耐えられなかった。通気性の悪い洞窟では臭いが充満し続ける。

 何よりそれが自分からもかおるのだ。女性だった時よりも濃い汗の臭い。それが一番の衝撃でショックだった。

 それ以降あそこまで濃い臭いが自分から出ることはないが、


(これは治るものでしょうか……)


 今後の悩みの種。やはり公衆の面前で何かの催しの時、酷く汗臭くては失礼にあたる。


(お父様はこういう時どうしていたのでしょう……?)


 女性の頃は、そこまで気にしたことはない。せいぜい清潔なタオルで拭けば事足りた。しかしあの臭いはそれでは取り切れないだろう。

 世の男性はどうしていたのか。


(やっぱり疎い……)


 結局、体調が戻らないままレンヘムとの戦闘。初めての闘い、それも相まって薫に任せっきりになってしまった。

 それでも、


(高揚感があったんですよね……)


 男性は戦やスポーツが好きであり得意と聞く。なって分かる、もっとそういう戦闘をしたいとどこかで思っている。

 由来は先祖が食料確保するための狩りからそれはくる。

 女性の時、スポーツを熱中したいとは思わなかった。それよりももっとクラスメイトに教員に色々なことでコミュニケーションを取りたいと思っていた。

 今はどうだろうか。思えばそこまでコミュニケーションをとりたいと考えていない。それよりもあの時の戦闘のことが頭をよぎる。


(随分とアクティブになりましたね……)


 自分がインドア派だったのかアウトドア派だったのかは分からないが、少なくともこの世界でインドア派になることは情勢的に難しいだろう。


(レンヘム……)


 両方の性を知り始めた令に、薫から聞いたレンヘムの過去話を真っ直ぐにきくことは出来なかった。レンヘムの気持ち、そしてどうして男性オークたちがそのような行動をとったのか、まだなんとなくだったが、令はそれを感じ取った。

 やられたらやり返す、昔だったらもっとコミュニケーションをとってそんなことをする前にやることがあるだろうと考えただろう。しかしその気持ちも今の令には同調できた。


(野蛮になってしまったのでしょうか……)


 男性だからなのか、それとも令の気持ちが変わりつつあるのか、もっと性に色々な知識が欲しかった。

 ただ同じ冒険仲間2人はそれぞれの事情がありそうで聞くにきけない。女性の時ならそんなこと臆せずにコミュニケーションを取っていただろう。


(とにかく冒険して経験を得るしかないですね……)


 そう不安に思うことは多かったが、嬉しいと感じることもあった。

 まだまだ理想の男性像には届いていないが、肉体が少しずつ少しずつたくましさが出るようになってきた。

 地下労働の影響もあるだろうが、それでも心がワクワクする。

 もっと鍛えたいと令は少しずつ男性の道を歩み始めていた。



(クルギアスラ村では薫さんにも言われましたが、奈央さんに失礼をしてしまいました……)


 自身のことで頭がいっぱいになっていた。明日のご飯の献立・確保で頭がいっぱいになっていた。

 薫が猛省していたように、令も凄く申し訳なく思った。

 クルギアスラ村では奈央に任せっきりになる場面が多くなってしまった。それに道中での熱中症、女性を少女をそのような具合に気づかなかったことが悔しいと感じた。

 結果的に森を造るというありえない奇策を講じたがそもそも、もっと奈央の様子を見ていればそのようなことをする必要もなかった。

 猛省だ。

 ワンミが奈央に懐いていたとはいえ、もう少しやりようがあったのではないか、と今の令はこちらも反省している。


(自分にできることはまだある)


 はずだ。父親はそうして会社を維持し、発展させてきた。

 もっと頑張れたはずだ。父親のように。

 今の自分はどうだろうか。父親のように皆のために働けているだろうか。

 王への報告、冒険での食材・献立管理、戦闘でのバフ要因。まだまだやれることはあるはずだ。そうすればもっと薫たちの力を引き出せるはずだ。

 そのための戦闘参加をもっと頑張らないといけない。

 男になったから、父親と同じになったなら、できるはずだ。

 恋とかそんなことはまず、己の成長し高めてからだ。


 そんな令の少し偏った男性像の次の冒険はこれから始まる。

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