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70,箱入り令嬢の好奇心

 夜、父は明日の朝まではいる。令は何を話そうか楽しみにしながら寝ていた。

 そんな時だった。


(なんだか香ばしい……?違う、焦げ臭い臭いがしますね……)


 令はそんな臭いと共に目を覚ました。


(え?)


 寝起きで焦点が定まらないが、やけに明るい。オレンジ色のような赤いような普段の電気の明かりとは明らかに違う配色。


(違う、火事だ!)


 ようやく令は気づく、火はあちこちに散逸している。遠くからは非常ベルが聞こえる。


(どうして気づかなかったの?!)


 令の自室は3階、窓を方を見るがすでに火の手が回って開錠できそうにない。扉からはさらに火が強く上がっている。

 すでに手遅れなレベルで延焼していた。

 令の部屋は遮音性がかなり高い、そのため非常ベルが聞こえなかった。


(どうすれば……?!)


 シーツをくるまって脱出を、違う。それではシーツごと燃えてしまう。

 シーツを火にかぶせて脱出を、それも違う。そもそも薄い布切れではすぐに燃えてしまう。

 幸いまだ令のベッドまでには火は及んでいない。しかし、到達すればすぐに恐ろしい火の手となる。

 だが、逃げ場所がない。


(そんな……!どうして!)


 思い出が燃えていく。テレビ電話をしていたパソコンが燃える。漫画が燃えていく。家族のアルバムが、父からの贈り物が、どんどん燃え始め令にゆっくりと、ゆっくりと近づいてくる。

 令はすくんで動けなかった。立てなかった。どうしようもなかった。


(ここで死ぬんですね……)


 令は身体から力がスッと抜けた。そうすると少しおかしく思えてきた。

 きっとこの火災も令が万能になれなかった罰なのだ。誰がこんなことをしたのだ。


(もしかして、お父様が……?)


 試されているのか、それとも情けない令を見限ったか。

 そう思った時だった。


「令!やっぱりここか!」


 勢い良く燃えている扉から父が勢い良く入ってきた。

 そんな不安な邪念は間違っていた。


「お父様!」

「もう無事だ!」


 そのままベッドにいる令を抱きしめる。

 令を抱きかかえ脱出しようとしたが、


「火が!熱い!」

「お父様!」


 扉を開けてしまったことにより令の部屋に一気に炎が押し寄せた。

 廊下を方を見るがとても人が安易に入れるものではない。

 令は父を見ると、


「火傷が!」

「ああ!これくらいなんてことはない!令が無事ならな!」


 父は服がほとんど燃えてしまい、肌が露出。その肌も爛れるレベルでいかにここに来るまでが大変だったかを物語っている。


「飛び降りるしかないか……」

「そんなことしたら!」

「分かっている。でも令を守らないといけないんだ。生きるよ」


 父はこんな状況でも笑っていた。父は強かった。


(私は……弱い)


「申し訳ございません。逃げられなくて……」

「ベルが聞こえなかったんだろ。作りが古かったからな。すまないのは私の方だ」

「そんな!もっと自分が強ければ……」


 涙を流す令に、


「令、お父さんは強くない、立派じゃない。この火災だってお父さんを恨んでつけられた火だ。犯人はすでに捕まっているからな。いいか令、結局こうなってのは立派じゃない父さんなんだ」

「そんな……」

「令は十分強くなった。お母さんのように美しくなった。だから令は敵をあまりつくらずに生きて欲しい。父さんみたいにならないで欲しい」

「いえ、私は!?」

「令は立派になるのだぞ!さぁ飛び降りるぞ!」

「お父様!」


 それから父に担がれ、窓を突き破った。令が覚えているのはそこまでだった。



(結局あのまま死んでしまったのですね……)


 令はストレッチを終え、寝間着を脱ぐ。

 父には遠く及ばなくまだ細いガタイ、薫はそんなことないと言っていたがやはり比べるものは父になってしまう。


(父はこっちに来られなかったのですね……)


 おそらく抱きかかえられたまま、一緒に飛び降りて死んでしまった。だがこうして転生してこちらの世界にいるのは令だけだった。



 急な転生に本当に驚きました。

 暗転から光点が見え、光が身体を襲ったかと思えば、今まで見たことないような宮殿に自分が立っていたのですから。

 そしてこちらの世界では高価な姿見を見れば、自分の姿が変わっていました。前の面影はほとんどなくなり、父の雰囲気とも違う、唯一一緒になったのは身長くらいでしょうか。まず大きく背丈が伸びていましたね。

 初めて見る青髪、しかし自然な感じで違和感は自然と発生しませんでした。顔立ちは整っていましたが似ても似つかない自分に混乱しました。

 それを真っ先に打開してくれたのは薫さんでした。薫さんも男性に変わったことでショックを受けて失神。それで自分は我に返り、とりあえず宿舎まで運びました。

 この時に私ってここまで力ありましたっけ?となりましたね。薫さんが決して重いというわけではありませんが、それでも男性をおんぶするなんて変わる前の姿では絶対できないことでしたから。

 奈央さんは自分たちの逆で男性から女性になってしまったみたいですね。最初は本当にびっくりされて漏れてしまいそうと呟いていましたね。

 それから諸々済ませて宿舎の自室に戻りました。

 急に世界が変わったので気づくのが遅れましたが、私は男性になってしまったと……


 好奇心には勝てなかった。ゆっくりと着ている服を脱いでいく。

 まずは上、明らかに肩幅が広くなっている。腕を曲げると力こぶができる。掌が大きくなり、肉が減りガッチリした手付きに変わっている。

 おもしろい。

 お腹を見る。こちらも肉加減はなくなり、より引き締まっている。乳頭はわずかに前より色がある気がする。

 おもしろい。

 次は背中、前は少しラインがあり、丸みがあるような柔らかいものだったが、今は全然違う。直接は見ることはできないので触ることしかできないが、大きい。硬さがありずっしりとしている。

 おもしろい。

 最後は下腹部からさらに下へ、恐る恐るズボンを降ろす。

 ある、本当にある。今まで無かったそれがある。しかも毛が生えている。不思議だ。

 脳まで転生してしまっているせいか、ここまで違和感だとは覚えなかった。しかしそれはしっかりとある。

 ちなみにお尻は前に比べかなり筋肉質だ。脚もやっぱり違う。


(これが……)


 令はゆっくりと物に手を伸ばした時だった。


『す、すみません!えっと……つ、令さん!ちょっといいでしょうか?!』

「ひゃい!」


 奈央が何かを訴えるようにドアをノックしてきた。

 たまらずびっくりした令は変な声で返事をしながら急いで服を着る。


『だ、大丈夫ですか?!』

「大丈夫ですよ!気にしないでください!」


 そして服装を正し、令は扉を開ける。


 奈央がお手洗いに行きたいと言い、性別が変わったことで2人であたふたするのであった。

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