7,フェミニスト初の異世界バトル?!
注;これはあくまでフィクションです。
「やるのねぇ、アーシとぉ」
「真剣勝負だわ……」
いつもの掘削作業が終わり、みなが寝静まった夜、レンヘムと薫は睨みあっていた。マジでバトル始まる5秒前である。
レンヘムと決闘当日、薫と令の日中はいつものように掘削作業をしていた。そしてお昼休憩の時、オークのリーダーが薫たちに話しかけてきた。
「今日もお疲れ様、毎日毎日これだから大変でしょ」
「そうねぇ、でもおかげさまで体力と筋力はだいぶ付いた気がするわ」
「私も慣れました。最初の頃は申し訳ありません」
「気にしないで、気にしないで。むしろ最初からこんなハードワークやるの大変だと思うから。俺らは気にしないけど、人間さんは通気悪いと調子落としやすいから。令さんに限った話じゃないから」
そう薫たちは話しながら、硬いパンを食べる。味はない。
「しかし、あんたらよくレンヘムに好かれたねぇ。良かったじゃん、幾分か優遇されて。まぁ……でも、うざい、でしょ?男だからってあんな言う必要あるか?たまにただの悪口混じっている時あるしさー。掘削作業も男だけだし。しょうがないところもあるから理には適っているのかもしれないけど、もうちょっと女性にも手伝って欲しいよなー」
リーダーは飽きれ笑いのような表情で話した。
薫は少し眉を寄せる。自分がそう言われているような気がし、レンヘムがそう言われるが嫌ような気がし、でもそれは事実なのだと理解し。
「……」
「私は好かれているでしょうか?あまり変わらないように思えまして」
「令さんねー。なんかレンヘムが避けている気がするよね、なんでなんだろ?」
リーダーはパンを食べ終わり、立ち上がる。
「あんたらが来て、感謝しているよ。レンヘムが不機嫌になることが少なくなって、なにより過ごしやすい。これからもよろしくな!」
リーダーはそう言い。後にした。薫と令は脱出する気満々なので申し訳ないと思った。
夜、薫と令はレンヘムの部屋の前にきていた。
この不平等でかつて理想と考えた環境からおさらばするために。
「やっぱり緊張します……」
「そうね……ワタシもよ、でもやると決めたからにはしっかり全力でいきましょう!」
二人は小声で覚悟を決める。
「いい?令ちゃんはここで待機しててね、バトルになればきっと凄い物音がするはずだから、そしたらお願いね」
「わかりました」
最後の確認を済ませ、薫はレンヘムの部屋にノックする。
「夜にすみません、薫です」
『あらぁ、薫ちゃん!どうしたのぉ?』
「少しお話がしたいわ、よろしいかしら?」
『いいわよぉ、お入りぃ』
「失礼します」
薫はレンヘムの部屋に入る。
第一目に飛び込んできたのは、奈央の姿だ。
元々レンヘムの部屋にいることは知っている。レンヘムに気に入られこの生活期間中、ずっと一緒に寝食を共にしていた。奈央はレンヘムとはまったく気があわず滅入っていた。3人の中で先に限界が来るのは間違いなく奈央になるだろう。あの時の念話にて、幾度と悲痛の訴えをしていた。事あるごとに話しかけられ、連れられ、そして……着せ替えをよくされるらしい。
今まさにその最中だった。綺麗なメイド服を着ていた。おそらく仕立てすぐに着ているのだろう。黒と白の2色のメインで構成しており、これでもかとフリフリがたくさんついていた。奈央の髪型はツインテールになっており、金髪、小柄な体型、そして衣装でこれでもかと可愛くなっていた。
薫は見とれた。少なからずドキドキしているのが自分でも分かった。そして奈央がぐずりながら訴えてくることに気づく。
「か……かおるさぁん……」
裾を両手で掴みながら、涙を浮かばせてこちらに訴えてくる表情に、薫はさらにドギマギしてしまう。
(な、なんて可愛いいの!?)
薫の中で何かが崩れる音が聞こえ始める時、
「可愛いでしょぅ?奈央ちゃんはホントなんでも似合うのよぉ」
「そうね!可愛いわ!!……じゃなくて!……なおちゃんが、嫌がっているのに、こんなことしたら、ダ、ダメじゃない!」
レンヘムの言葉を否定しようとしたが、薫はどもってしまった。その可愛い姿を否定するのが、なぜか躊躇いたくなっている自分がいたからだ。
「あらぁ?せっかく奈央ちゃん可愛いんだからぁ、いっぱいおめかししてナンボじゃないぃ。それにこの衣装ぅ、うちの女オークが丹誠込めて作ってくれたのよぉ?嬉しいわよねぇ?奈央ちゃん?」
「う、うぅ……」
「それにこの姿だけじゃないわぁ、薫ちゃんあそこごらん!あれ全部ぅ、奈央ちゃん着てくれたのよぉ。可愛いかったわぁ」
「ぐすん……うぅう……」
そうレンヘムが指さした方を、薫は確認する。そこには色々な衣装がかかっていた。村の服、怪獣のパジャマ、アニメで見たことのある学校の制服、そしてフリフリの水着。おそらく奈央はレンヘムから衣装関連の尋問を受け、それを答えて着せられてしまったのだろう。
薫は元々想像力豊かだ。そのため自然と着ている姿を想像してしまった。
(でもやっぱり直接見たかった!)
レンヘムが言う感じ、おそらくこちらが掘削作業に勤しんでいたときや、こういう就寝前にされていたのだろう。薫は激怒した。それを見られない悔しさに。
かつて否定していた志向と同じ思考になっていることに、気づかずに。
「それで要件は何かしらぁ?薫ちゃん?」
薫は我に返り冷静になる。奈央の姿を拝みに来たわけでは、なくはないのだが違う話をしにここに来たのだから。
「レンヘム、ワタシたちに王都に戻らないといけないの」
「あらぁ?薫ちゃんはぁ、たしかゴマットンだっけぇ?そこから来た人だったのねぇ」
「そうなの、だからいい加減戻らないといけないの」
「そうぅ?でもここは薫ちゃんが望んだ環境よぉ」
薫は唇を噛む。
薫とレンヘムはテーブルで向かいあいながら話し合っていた。奈央はメイド姿のまま部屋の端で体育座りしていた。そんな姿も可愛い。
(確かに望んだ環境、だったわ。でももう過去形なの)
薫は覚悟を決め、話を切り出す。
「レンヘム、確かにワタシはこういう環境を望んでいたわ。男に色々されて辛かった。だから逆転すればどれだけいいだろうかと思っていた……でもね、こうしていざ目の前にその環境になって、生活してわかったわ……これじゃそんな男たちと一緒だって」
「ワタシはぁ!あんな男どもとはぁ、違うわよぉ!」
レンヘムは勢いよく立ち上がった。
「薫ちゃん!侵害よぉ!一緒にするだなんてぇ!こうして平和に暮らしているじゃないぃ!」
「レンヘム、あなたは、よ……他のみんなは?男たちは?あなたの過去と同じようになっているわ」
「いいのよぉ!あんな男どもはぁぁ!そのようにすればいいのよぉぉ!」
「そうしてまた反逆が起こった時、あなたを超える力を持っているものが現れた時、どうするの?きっとやり返されてまた前の生活が戻ってくるわ」
「ワタシに勝てる奴なんてぇ!いるわけないわよぉ!」
「それに村の人が困っていたわ、人を盗られて。もし同じように、女性オークを連れていかれてしまったらどうするの?」
「そんなことされたらぁ、取り返すに決まっているじゃないぃ!」
レンヘムは一度冷静になり、薫に問う。
「何が言いたいわけぇ?薫ちゃんぅ?もしかして私から奪おうっていうのぉ?」
「そうね……あなたがそう思うならそうなのかもしれない……ただワタシは課せられた使命をこなすだけよ!」
「ーーそうなのぉ……」
その言葉とともにその場の椅子とテーブルを破壊し、奈央のもとに一瞬で駆け寄り締め上げる。奈央は反応できずもがき苦しむ。
「薫ちゃんたちはぁ、そもそもアーシに勝てるわけぇ?こうして簡単に捕まるわけだけどぉ!」
「そうね……個々の力ではあなたに攻撃することさえ許されないでしょう……でも!」
その瞬間部屋の外で待機していた、令が侵入する。
「ウィンドウボール!」
「……!?」
レンヘムは気づくのが遅れた。令が繰り出した風魔法の攻撃呪文、ウィンドウボールはレンヘムに目掛け……奈央に目掛け飛んでいき直撃する。
「うっ……!」
奈央は重い一撃を受け苦痛を浮かばせながらも、ウィンドウボールの勢いともにレンヘムの拘束から抜け出した。
「驚いたわぁ。アーシじゃなくてぇ、奈央ちゃんを助けるために直接ぶつけるなんてぇ。それに魔法ねぇ……そういえば人間はそのような芸当が出来るようになっていたのを忘れていたわぁ。だってあそこの村人はまったく使わないものねぇ」
薫たちは態勢を整え臨戦態勢に入る。
「ワタシたち、ひとりでは勝てない、身体能力もあなたより優れない。でもパーティ組んで、知恵と魔法でなんとかしてみせるわ!」
薫は呪文を使う準備を始める。
およそ2ヶ月前
薫たちは王都の壁外で魔法の訓練に励んでいた。
「魔法?呪文?不思議なものね~。イメージすれば発動するだなんて」
「総称を魔法、細かくしたのが呪文みたいですよ薫さん。しかし本当に不思議ですね」
「ゲ、ゲームみたいで面白いっす。自分で、目の前で出来るの面白いっす!」
「ホントね~、まさかワタシたちがこうして火の玉を転がせるなんて」
「気を付けてくださいね、イメージが強すぎるとまたこの草原を焼け野原にしてしまうので……」
「あ、あの時は申し訳っす!楽しくてついつい調子に乗ってしまって……」
「まあまあいいじゃない、なんとか消火できたんだから」
薫、令、奈央は会話しながら、それぞれ火の玉、水の玉、雷の玉、風の玉を飛ばしていた。
魔法、この世界では全て『イメージ』で威力や効果が変わる。弱くしたいならそのようなイメージ、強くしたいならそのようなイメージをする。魔法を使用するときは身体の内側から力を吐き出すような感覚だ。そして使いすぎると貧血のようにクラクラし力が入らなくなってしまう。
呪文、と言っているが唱えるようなしっかりした詠唱は存在しない。個々で唱えやすいように詠唱するものもいるらしいがあくまで我流となる。
その代わり呪文の名前は存在するようだ。薫たちは転生してすぐに王宮のメイドらに魔法などを履修している。その時に基礎的な呪文を一通り習った。
呪文は名前を付けることでイメージがしやすい。火の玉、薫たちはイメージしやすいようにファイヤーボールと呼ぶことにしているが、イメージの強弱で威力が大きく変わる。
先日、奈央は呪文が使えること、有名なゲームキャラクターのようにファイヤーボールが連発できることに楽しくなってしまい、加減せずに連発し過ぎて大惨事になりかけた。ただ薫と令が水の呪文で急いで消火したため、事なきをえた。
魔力の消費量も、『イメージの強さ、しやすさ』に相応にして変わる。ファイヤーボールも強い一撃を当てたいと、強いイメージをしなければならないため魔力消費量が上がる。ただそれを何回もやる事によってイメージしやすくなると、消費量は少しずつ軽減されていく。薫は練度ボーナスように考えていた。
『イメージ』を魔法では大事にする。人それぞれで想像力は違うので、同じ呪文、同じ強さ、同じ練度でも、魔力の消費量は変わる。薫と令、奈央がそれぞれ同威力のファイヤーボールを連発すると、薫が一番早く疲弊する。同様に雷の玉・サンダーボールを連発すると、奈央が先に疲弊してしまう。
以下をふまえ、魔法・呪文は実に不安定なものだった。もちろん魔力総量も人それぞれだ。
(だからあの王、個体差がとうたら言っていたのね、せめて個人差!でしょ)
薫たちは想像力に長けており、固有スキルもあるがかなりの魔力があるように感じていた。
「令ちゃん、奈央ちゃん凄いわ~ワタシよりたくさん呪文使えて」
「いえいえ、私の転生前は安易にお出かけできない環境だったので、風景や建物などよくテレビなどの映像で妄想していましたので……」
「じ、自分も色々と……でも薫さんも凄いっすよ白魔法!」
「それがメインだからね~。令ちゃんは無魔法だっけ?なんか魔法が無いみたいでイヤね」
「言いづらいですよね。どこにも属さない魔法だから無魔法みたいです。自分や周りに力を与える~みたいな感じですか?あいまいですみません」
「バ、バフって言うと分かりやすいかもっす。自分は黒魔法がメインみたいなんすけど、ピッタリだな~て」
魔法はメインの火・水・雷・風の4属性、大抵の人が比較的簡単に使えることができる。薫たちも初級、簡単な属性呪文は唱えることができる。
そして選ばれた人、使える人がかなり限られて来るのが、白・黒・無属性の魔法だ。
白魔法、使いやすい呪文は『フラッシュ』、目くらましだ。光を使って攻撃や自身にバフ、相手にデバフを繰り出していく呪文が多い。
黒魔法、奈央いわく、人の影に隠れることができるようだ。見た目通り闇討ちが得意みたいだ。
無魔法、令いわく、自分自身や周りにバフやデバフがかけられるようだ。足の速さの強化、力の強化など、前に使用した念話も含めて、あると便利な呪文を数多く使えるらしい。
この属性らは、想像力に長けているものしか使用できない。そのため使えるひとが少ない。ただ非常に強力な属性であるゆえに、王都ではこき使われてしまう。とくに無魔法を持っているものは、大人数にバフをかけられるため、消費量がとてつもないことになり、結果短命になってしまう。魔法の進歩と共になんとかしなければいけない課題だと、薫は感じている。何よりそうまでして暮らすのは、自身の良心が痛む。自分が蔑まれてきたからこそ、そのような行動はとりたくないからだ。
「魔法の攻撃、調整が難しいですね……燃えたり痺れたりしない、殺生のあまりない呪文はないでしょうか?」
「そうね~……変に調整しすぎると今度威力が少なくなってしまうわよね~……」
引き続き、魔法の訓練に励んでいるとある日、令と薫は悩んでいた。自分たちが使う呪文の選別、優先度を決めていた。
白・黒・無属性の魔法は非常に強力であり、ボスのような大戦にならない限り、使用したくなかった。薫たちは各々、王宮の書庫にある魔法書で呪文を覚えて、試している。ここらは自分たちでやるしかなかった。バレてしまっては困るからだ。それぞれ専用の魔法使いのためか、それとも転生者ゆえかは分からないが、魔法書の呪文は一通り使用できた。
それだけでもなかった。薫たちが考えた、オリジナルの呪文もこの世界では使えてしまった。想像力さえいくらでもあれば、3属性の魔法は歯止めが効かないくらい強かった。
そのため、なおさら盗賊や小童のようなものにそのような技を繰り出してしまえば、木端微塵になってしまう。相手によって調整しやすく、使用しやすい、護身用の呪文はないか考えていた。
奈央が顎に手を添えながら呟く。
「火は、燃えるっすよね……水は、風邪ひいちゃいそうっす……雷は電気ショックが……風は……つ、令さん!風って何か状態異常起こりますか?!」
「そうですね……場所によって左右されるかもしないですが、基本的に衝撃を与えるのがメインになりそうですかね……?!
「確かゲームだと、風で目をまわしてみたり、吹き飛ばしたり……いいかも!風の弱呪文を極めておくのはいいんじゃない?!」
「いいですね!確か初歩の呪文は、ウィンドウボール……風の玉を相手にぶつける技です!」
「ウ、ウィンドウボール……かっこいいっす!それでいきましょう!」
薫の提案に令と奈央は賛同した。
こうして薫たちは色々な呪文を覚えつつ、ウィンドウボールを軸にしながら戦うことを決めた。
(さっそくウィンドウボールが役にたったわね……!)
奈央を救うために使ったウィンドウボール、こういうことが起こることを令は想定済みだった。
薫たちのパーティー構成は、タンクが薫、引き付けをメインに行い攻撃や防御をする。白魔法は正面の相手に対して非常に強い。
逆に裏どり、遊撃に特化している黒魔法の奈央は、薫が引き付けているところを影に忍んで一気に迎撃する遊撃枠。
令は薫の後ろでバフ・デバフ・ヒールを行い、全体の状況把握、薫たちに念話で指示を行う。パーティー3名しかいないが、各々やれることがはっきりしており、戦いやすかった。
レンヘムが臨戦態勢に入り、薫たちは身構える。
「やるのねぇ、アーシとぉ」
「真剣勝負だわ……」
鴨鍋ねぎま:バトルを書くって文章にするって大変ですね……薫たちをより感情、表情、行動豊かに書けるように努めて成長していきます!
赤烏りぐついに来ました戦闘シーン!オークとバトルとはリアルに腰抜かしそうですね。あ、リグさんでしたー!