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65,元高校球児のグッドエンド

「奈央おねぇちゃん、本当に行っちゃうの?」


 クルギアスラ村を発つ日、今日も晴天で前ほど暑くなく過ごしやすい一日が始まっている。

 奈央たちは馬たちと共に村を去る、別れのところだった。

 馬たちはこのクルギアスラ村で滞在している期間本当に大人しく、正しくはダラダラの駄馬と化していた。水のクッションが本当にお気に入りだったようで、奈央が魔法を解除した時馬たちは、心なしか泣いているような気がしたがこればっかりは止む無し。奈央は休憩の時はまた作ってあげようと心の中で約束した。

 そして今はマイルが行かないでと奈央の服の袖を掴んでいる。


「ちょっとマイル!本当に年上好きね!」


 マーナはそれを引き剝がす。


「痛いよ!マーナ!」

「奈央さん困るでしょ!しょうがないの奈央さんたちは冒険するんだから!子供みたいにわがまま言っている場合じゃないのよ!私たちは!」

「だって……」

「だってじゃないの!」


 そんなガミガミ言っているマーナも目元には涙が見える。本当に二人は子供らしく微笑ましいと奈央はくすっと笑う。

 隣にいるワンミも同様のようで、


「マーナ、マイル今までありがとう。これからは中々会える機会は減っちゃうけど、必ず戻ってくるから」

「ワンミ絶対だよ!」


 マーナはこらえきれない涙を拭きながら、ワンミに抱きつく。


「切ないねー。旅だから仕方のないことだけど」

「そうですね。あんな感じで抱きつかれたこと……卒業式を思い出しますね」


 TPOをわきまえ、そこに入れない元女性2人は羨ましそうにその光景を眺める。


「つかさちゃん、性格的に後輩に好かれていたんでしょ?わかるわ」

「はい、エレベーター式で上がる学校なのにやっぱり卒業式は寂しいみたいで。よく泣きつかれました。今は出来なさそうですね」

「そうなのよね~来るとしたらマイル君くらいだけど、奈央おねぇちゃん大好きっ子だから。年頃の少年じゃしょうがないけどね」

「やっぱりあのくらいの年頃の男の子はそういうものなのですか?私はどうしても疎くて……」

「そうね~やっぱり男の子はお姉さん好きなものよ。それにああやってちょっかい出しても許されるからね。ワタシがなおちゃんに抱きついたりでもしたら逮捕よ逮捕!」

「そうなんですね。覚えておきます」

「これからまだまだ冒険するみたいだし、ひとつずつ覚えていけばいいのよ。ワタシもいい加減この身体にも慣れないとだし……」


 二人は各々考えにふけ始める。


 村はマーナが村長になってから、村人たちがあれやこれやと文句や抗議をしてきた。

 まだ少女に対してのこの仕打ち、奈央たちは助けようかと割って入ろうとした。

 しかしマーナは要らないと断った。そのまま村人にピャーピャーと大きな声で反論していた。凄い胆力だ。

 村を作り変えるには結局自分で動くしかない。それにドラゴンのせいで大事な時期の思い出が曖昧になっていることがなにより悔しいらしい。これからは自分の手でその思い出、記憶を掴み取りたいらしい。凄いやる気に満ちていた。

 奈央はその姿を見て懐かしく感じた。自分が野球に明け暮れる日々もそれくらいのやる気と根性で頑張ってきた。奈央はそれが嬉しく、困難な事もあるかもしれないがめげずに頑張って欲しいと願ったが、それも今のマーナならいらないかもしれない。

 最初はドラゴンのせいで嫌う形になってしまったマーナも、本来のマーナに戻ればいつの間にかそれもなくなっていた。


 マイルもマーナのサポート役としてあれやこれやを任されている。当の本人は全てが初めてな仕事ばかりなので混乱していることが多々見受けられるが、やる気は十分にあったので後は慣れるだけだ。

 2人が大きくなり、村が発展する姿が本当に楽しみだ。

 元村長、マーナのおじいちゃんは淡々と2人の補佐をしている。特に笑うわけでもなく、怒るわけでもない。そんな姿を村人たちも見て、少しずつ現状に受け入れているようだった。

 トンギビスタ村に続いて、クルギアスラ村を今日で発つ。2つ目の冒険が終わるのだ。



「こうしてキャンプするのも久しぶりだね」

「夜、奈央の隣に寝てもいいですか?」

「もちろん」


 クルギアスラ村を発ち、王都に戻る中間くらいの場所で奈央たちはキャンプをしている。こうして緑の下に座っているのもご無沙汰だ。

 薫たちは夜ご飯の支度をしている。奈央とワンミは今回の功労者だからと休まされている。

 馬たちはむにむにの水のクッションでくつろいでいる。キャンプと分かると馬たちはすぐに奈央に近づきせがんできた。


「ワンミはこれからどうしたい?どんな冒険がしたい?」

「奈央と楽しければどんな冒険でも。でもできることなら奈央が前にいた違う世界に行ってみたいですね」

「なんと!うーん……一緒に行きたいけど多分無理かな……」


 奈央は転生した身。あちらの世界では死んでいるはずだ。

 あの日の新幹線を思い出す。もう前の世界から随分経った気がする。この前まではつい昨日のことのように感じたのに。


「そうですか……でもこの世界も見ていない景色しかないと思うのでそれを見たいですね」

「そうだね」


 奈央はワンミ手を繋ぐ。移動中はこのように触れ合える時間がなかった。寂しかった。

 ワンミに触れると自分の気持ちがスッと落ち着き、暖かさを堪能する。


「ふふ、奈央って結構甘えん坊?」

「そうかも」


 今度はワンミが手を絡ませるように。それが嬉しかった。

 異世界で本当の大事な人を見つけることができた。


 令はキャンプの夜寝落ちした奈央とワンミに毛布をかける。


(本当に仲がいい。羨ましいと何回思うのだろう)


 薫はすでに自分のテントで休んでいる。起きているのは令1人。

 令は座りながら少女2人の寝顔を眺める。奈央は小柄故に可愛らしいが先にきて、ワンミは可愛らしいもあるが美しさも兼ね備えている美貌。


(薫さんならまた眼福眼福なんて言うのでしょうね)


 そう思うとおかしくなり、令は小さくクスッと笑う。


(もっとみんなのために頑張らないと……)


 父の残した言葉、そして自分の生きる意味。それを定期的に思い出す。

 今回は奈央にかなり頼ってしまった。

 自分が攻撃ができない。というより向いていない。


(みんなを守りながら、攻撃がしたい)


 練習はしているが中々上達しない。二足の草鞋を行うことができない。


(男性になったからできない?)


 違う、元々自分は一つ一つを丁寧にこなす性分だ。それは一番よく分かっている。

 だが戦闘ではそうはいかない。臨機応変に対応できなければならない。


(何でも出来て損はない)


 父の教訓。苦手ものを克服しろ。真っ向から立ち向かうのも良し、上手くかわすように立ち回りを改善するも良し。

 父が羨ましかった。あんな大人になりたいと。

 奇妙にも転生したことによって男性になった。同じ血筋、できないことはない。

 令は今後の改善を練りながら自身のテントに戻った。

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