63,元高校球児は漫画の光景をされます
ドラゴンと同等サイズの黒炎弾が、上空のドラゴンに直撃した。
その瞬間、物凄い衝撃音と爆風が奈央たちを襲い地面に叩きつけられる。
奈央はワンミをしっかり抱き留めながら地面を転がっていく。
「凄いわねこれ!」
「私たちは大丈夫ですが?!」
薫と令は体重増加バフのおかげでその場にとどまることができるも、爆風が強すぎて正面を見ることができない。
『奈央さん!ワンミさん!大丈夫ですか?!聞こえますか!?』
『つ、令さんですか?!奈央が気を失って!』
『今どこですか?!遮断される!』
令は念話で会話を試みるのも強すぎる爆風で空気中の魔力が乱れ、ブツ切りになってしまう。
「薫さん!このままじゃ奈央さんたちが飛ばされます!ここは山です!」
「そっか!どこにいるの?!砂煙凄すぎて見えない!」
薫たちは救いに行けずにいた。
(良かった無事に当たったんだ……あれ今どうしているんだっけ……?)
奈央は魔力残量が1/100になるまで消費していたため、完全に力を失っていた。起きているのが奇跡だ。
(身体が痛いような……まぁいいか……)
それより早く眠りたい。魔力を体力を休めたい。
身体が洗濯機のように回転している、どうしてだろう。
遠くからワンミの声が聞こえる気がする。そっか、生き抜くことが出来たのか。
それなら休んでも問題ないよね。
「奈央!奈央!」
ワンミの呼びかけに答えない。しかし奈央の抱き留める力は失っていない。それが使命と言わんばかりに。
このままでは真っ逆さまに落ち、奈央の身体がもたない。今の奈央がそれに耐えれるとは思えない。
ワンミは奈央の胸の中でどうすればいいのか、必死に頭を回転させる。
ガンッと音と共に身体が浮く。山頂から外れた合図だった。
ワンミは覚悟を決める。
「ふぅ……やっと落ち着いたみたいね。ドラゴンの姿は見えないわね……」
「奈央さんとワンミさんを探しましょう!一緒にいるはずです!」
「そうね!」
薫と令は見晴らしのいい山頂から奈央たちの捜索に入る。
令はすぐにクルギアスラ村とは反対の麓に目立つものは発見する。
「あれは……もしかしてワンミさん?!」
それは炎の大きな球体。周りは岩と砂しかないこの地域にイレギュラーな球体は少しずつ形を崩していく。
どうやらワンミは自身の魔法で炎の球体を造り、クッションとして落下を緩和していた。
その中から少女2人が見える。
令はすぐに念話で会話を試みる。
『ワンミさん!奈央さん!』
『……うう……』
『ワンミさん!大丈夫ですか?!』
『はい……大丈夫です。おそらく奈央も無事です』
『分かりました!今そっちに向かいますね!』
『はい……』
『薫さん!こっちです!』
『えっ?念話?見つかったのね!』
令は一足先に奈央たちのもとへ向かう。
(うぅ……身体が動かない……重い……気持ち悪い……)
奈央は少しずつ意識を覚醒させる。
(えっと……ドラゴンをやっつけたんだっけ……?それでその後は……どうしたんだっけ……?)
目が開けられない。覚醒させたかったが脳が、身体がそれを拒む。もう少し寝ていてくれと訴えてくる。
(とりあえず、まだ生きているんだ……良かった。ワンミも無事だよね……)
頭に柔らかな温もりを感じる。身体が少しずつ軽くなっていく。
(これは回復の……)
今自分は回復をしてもらっている。後者は何度か令からしてもらっているから覚えている。ただ前者が分からない。違う、分かっている。この温もりとわずかに甘いような特有の香り、ワンミが傍にいてくれているのだ。
「奈央……」
ワンミの声が耳元で聞こえる。
(そういえば、いつから呼び捨てに。まぁいいや……)
それより早く目を開けたい。ワンミの姿を確認したい。
身体がいうことを聞いてくれない。
(どうして……ってそういえば魔力フルに使ったんだ……)
こうして全力をまた出せた。出すことができた。野球の時とはまた違った理由で、目的で。
そして疲れてはいるが身体は壊れてはいない。また回復すればワンミのために全力を出せる。それが何より嬉しい。
奈央は令の回復のおかげで少しずつ体力が戻っていた。
少しずつ目を開ける。
「ワンミ……」
「……!奈央!」
起きたらワンミの顔がすぐ目の前にあった。
自分の態勢、場所を少しずつ確認する。
(ワンミの膝枕?!)
恋愛漫画でよく見た光景が今実際に起こっている。されている。
「ワンミ……この態勢、どうして?」
「奈央の顔を一番よく見えるのがこの態勢だったので……もしかして嫌?」
「ううん。むしろ嬉しいくらい」
奈央はワンミその膝と目の前の暖かな光景を堪能しながら微笑む。
それから、
「令さん、回復ありがとうございます。ドラゴンは?」
「ドラゴンは文字通り木端微塵になりましたよ。回復はもう少しさせてくださいね。奈央さんかなり疲弊しているので」
「分かりました」
奈央もしばらくこの場を起きるつもりはさらさらないので丁度いい。
足音が近づき、
「あれ?なおちゃん起きた?!良かったー!無事で!最初見た時二人ともボロボロだからびっくりしちゃったのよ!あ、これ見るドラゴンの残骸。ちゃんとやっつけた証拠よ?」
薫は奈央に見えるようにドラゴンの残骸、大きな爪を持ってきて見せびらかす。
「良かった……不安だったので」
「なおちゃん今回は本当にありがとうね。消耗戦引き受けて最後の最後まで魔力使ってくれて。それにワタシもあのドラゴンやっつけてスッキリしたしね!本当はこんなこと思っちゃいけないのでしょうけど。力に任せてやりたい放題っていかにも調子乗った男がやりそうなことだったから。今ならレンヘムの気持ちがよくわかるわ」
薫はいつもようにぷんすかしている。
「奈央。自分からもお礼を言いたいです。今回本当にありがとうございます。奈央がいなかったらそもそも自分は生きる道を選ばなかったし、楽しい思い出を作れなかったから」
ワンミは嬉しそうに涙をこらえている。
奈央は寝たまま、ワンミの顔に手を伸ばす。
(ワンミのほっぺは本当に柔らかい)
「ワンミ、こっちこそありがとう。ワンミがいたから自分は過去と向き合えて進む意味を見つけることができた」
「ふふ。奈央の手くすぐったいです」
そんな二人を横目に薫は、
「あ~、眼福眼福ね~若い女の子が由利百合しているのは最高ね~」
「そうですね。本当に仲が良くて羨ましい限りです」
「ワタシもそんな子欲しいわぁぁ!」
外野二人がガヤガヤしている頃、
「奈央、見てください。朝焼けです」
「本当だ。綺麗」
いつか薫と見た時よりも何十倍にも輝いて見える。同じ太陽なのに。
それはきっと奈央の心が晴れているから。ワンミと見られているからだろう。
その朝焼けはこれからの希望を運んでくれるんだ。
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