61,元高校球児の空中戦術
「ワンミちゃん、ちょっといいかな?」
「はい」
薫が真剣な表情に変わり、ワンミは姿勢を正す。
「ワンミちゃん、これからワタシあなたに意地悪な質問ばかりするけどいい?」
「……。はい」
「まず、ワタシたちについていきたい、というよりなおちゃんについていきたいだと思うけど、それでいいのよね?」
「はい。奈央さんと冒険をしたいです」
「分かったわ。そうなるとこういう戦闘が今後も起こるかもしれない。そんな時ワンミちゃんはビビらずに戦える?」
「……。頑張ります」
「怖いでしょう?無理に戦う必要はないんだよ?村に残れば今後そういう戦闘は起こることほぼないはずだわ」
「……」
「今のなおちゃんと同じくらいの……言ってしまえば殺し合いに近い死闘になっても逃げずに戦える?生き残ることができる?」
「それは……」
「ワタシたちこの前にも戦闘したことがあるけど、本当に怖かったわ。いくら魔法の能力があっても、一歩間違えば死ぬ可能性があるの。なおちゃんはそれを一番望んでいないはずよ」
「……」
「特に自己犠牲なんてもってのほかよ。ワンミちゃんみたいな心優しい子は一番危ないから。それで本当について来れる?無理についてこなくてもなおちゃんは納得するよ?」
ワンミは少しの間うつむく。そして顔を上げ、
「じ、自分はそれでもついて行きたいです……!自分は奈央さんに救ってもらいました。ここの生活のこと。色んなこと。奈央さんは初めて心を許せる存在なんです。なんていえば分からないですが……落ち着くというか、もっと一緒にいられたら……そんな気持ちを奈央がいると感じるんです!だからもう迷いたくないです!生きたいんです!」
ワンミは目をめいいっぱい瞑るくらい訴える。
「「……」」
薫、令は少し目を見開きながら、
「……あてられちゃったわ。本当に二人は相思相愛なのね」
「羨ましいです。私もこれぐらい言える相手が欲しいと思ってしまいました」
微笑みに変わる。
「分かったわワンミちゃん。じゃあ最後の入隊試験……」
ワンミは力いっぱい瞑った目からでた涙をふき取りながら、
「はい!お願いします!」
薫はニヤリと、
「ドラゴンを一緒に倒しましょう!」
次の瞬間、山頂に衝撃がぶつかる。
(ドラゴンの急所を潰したい……!)
ワンミたちが覚悟を決めている頃、上空のいる奈央は疲弊しながらもドラゴンの攻撃をすれすれでかわしながら闘いを続けていた。
令の回復薬はあと一つ。しかしこれは保健用として残しておきたい。だが魔力は少しずつ無くなっていく。
ドラゴンにはだいぶ傷をつけている。腹部を割いた時の程の深いダメージは負わせていないが、ドラゴンの体あちこちに切り傷は与えている。
ドラゴンもしぶとい。5分以上こうして戦闘している。空中では十分すぎるくらい長期戦。しかし一向に落下する素振りを見せない。
(致命傷を……!)
奈央はドラゴンのブレスを上昇しながらかわす。
ドラゴンも疲弊はしているようでブレスの精度は落ちている。
しかし奈央の飛行精度も同時に落としている。少しでも燃費をよくするため、そうしないとこの消耗戦を生き抜けない。
(やっぱりワンミの顔が見たい!)
今ワンミはどうしているだろうか。
ドラゴンの突進が迫る。それを奈央はバレルロールしながらかわす。そしてすれ違いざまに魔法剣で一撃を入れる。軽いダメージ。
早く終わらせてしまいたい。隙はないか。
ドラゴンの動きが変わる。
(隙……?!違う!)
ドラゴンは静止し、翼を奈央に向け前へ押し出す。風起こしだ。
ここにパターン外の攻撃、奈央は強風で姿勢が乱れる。
<隙があるぞ!>
そのままドラゴンの突進が再度迫る。
(避けられない!なら!)
奈央は正面に沼を召喚する。闘牛のマントのように使い、沼とドラゴンをぶつける。
<……!>
奈央はギリギリで下降し、ドラゴンの怯みを見逃さずリミッターを一時解除する。
奈央の翼はさらに広がり、魔法剣は長くなる。
すぐに回り込みドラゴンの右目を突き刺す。
<ぐわぁぁぁぁ!>
ドラゴンは悶える。
チャンスだ。
(山は……?!)
奈央は地上を確認してから、今の場所から倍近く瞬間的に上昇しドラゴンが本来最初にやりたかった叩きつけを行う。
「やぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
一気に急下降し、ドラゴンの中心部分の背中を突き刺し、山頂まで下降する。今の奈央たちは南西に300mくらいずれていたので流星のように山頂にぶつかる。
衝撃で地震のように山頂から辺りが揺れる。
(すぐ離れないと……)
奈央は僅かな力を振り絞ってドラゴンから剣を引き抜き、ワンミたちとの合流を図る。
(フラフラする……)
地面に着地し、すぐに最後の魔力薬を飲みながら回復魔法を強める。
魔力を一気に消費したことによる貧血のような症状、相変わらずこれには慣れない。気持ち悪い。
しかしまだ戦闘中。ドラゴンにトドメを刺したわけではない。
奈央はおぼつかない足を何とか前に出しながらワンミの元を目指す。
(ワンミ……)
そこに彼女がいる。それだけで今までの戦闘の疲労が消えていくような、そんな高揚感を奈央は感じる。
「奈央!危ない!」
ワンミが叫ぶ。
どうして、それを奈央が疑問に思った時にはドラゴンの翼が迫っていた。
気づくのに遅れた。
作者:ブックマーク登録、いいね!評価いただけると励みになります!気軽によろしくお願いします!!




