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6,フェミニストはフェミニズムとういう概念に気づく

注;これはあくまでフィクションです。

「すいません、薫さん、私気分が……」


 令が薫に、顔を真っ青にしながら訴えていた。

薫たちは掘削作業を手伝わされていた。灯火だけの暗い環境、そしてオークと村の男性たちが共同でバケツリレーのように、砕いた岩を運んでいく。そのため密集率も高く圧迫感があった。


「そうよね令ちゃん、男と一緒にいること自体今までなかったのよね?」

「はい……父親もほとんど見かけずに生活していたので……その圧迫感と……匂いが……」

「男どもの汗よこの臭いのは!辛抱たまらないわよね!洞窟で密集しているせいもあるのだけど」


 どうしたものかと薫は周りを見る。そこにたまたま近くにいた男オークが近づいてくる。


「あんたたち大丈夫か?!」


 話しかけてきたオーク、彼はオークたちからリーダーと言われていた。能力の高さからレンヘムに任され、歳は周りのオークよりも若く、薫たちとほぼ同世代ように感じていた。頭にはバンダナを付けているのが印象的だ。


「ごめんなさい、つかさちゃんの調子が悪いの。休ませて上げて欲しいわ」

「ホントだ、顔色悪いね。分かったちょっと待って」


 リーダーははきはきと話し、レンヘムのもとに向かった。ほどなくしてレンヘムが薫たちの前にリーダーの首根っこを掴みながら現れた。


「ツカサちゃんがぁ?軟弱ねぇ。いいわぁ、カオルちゃんの頼みは優遇するから一緒に休んでらっしゃいぃ」

「……ありがとう」


 レンヘムに許可をとり、令と共に掘削作業場から離れた休憩できる部屋を目指す。

 その後ろでレンヘムとリーダーのやりとりが聞こえる。


「ほらぁ、あんたちっこいんだからぁ、速く掘削しなさいよぉ。もっと拡張しなきゃいけないんだからぁ、ペース上げてぇ」

「……これでもみんな頑張って真面目にやっているんです」

「あぁん?よくアーシに歯向かうはねぇ。口動かしてないで速く働けってぇ、言ってるんだけどぉ」

「……はい」



 薫たちは部屋に到着する。その部屋はものがほとんどなく殺風景で薄暗い。

 薫は、藁が厚く敷かれたところに令を誘導し寝かせる。


「すみません、薫さん」

「いいのよ、これくらい」

「……私たちはこれからどうなってしまうのでしょう……」

「……そうね……」


 令は腕で顔を隠し、薫はうつむいた。

 薫はどうしたものかと考える。このままでは飼いならされて終わりなのは明白だった。


(これだと、まるで前と……)


 令が話し出すことに薫は気づく。


「私もレンヘムと話しました。男ってそんなに『クソ』なんですか?凄く連呼していたので……」

「そうね、確かにバカよ。こっちの話を理解しないことは多いし、ガサツだし、スケベだし……ワタシたちはそうならないように気をつけないとね」

「……そうですね、男っていうのがそもそもまだ分からないので、理想もパッと出ないですが……」

「お利口であればいいのよ。レディファーストってあるでしょ?それが出来ればいいのよ」

「なるほど。気をつけてみますね。そういえば奈央さんは?」

「なおちゃんはレンヘムの近くにいつもいるみたいよ、レンヘムがお気に入りみたいなことを言っていたから、連れまわしているみたいなの。寝食も同じ部屋らしいわ」

「そうなのですね。薫さんもレンヘムに好かれていますよね」

「……そうね……ちょっと話があったいうか、似たもの同士とういうか……」


 薫は歯切れ悪く答えた。令に嫌われるのを恐れたからだ。

 そんな考えをもった自分に薫はびっくりした。



 それから1週間近く経過した。

 あれから変わらず薫と令は掘削作業を手伝わされていた。令は嫌でも慣れたらしく、最近は気分を悪くすることはなくなった。

 今日もレンヘムは見回り時に、男たちを睨みながらリーダーをどやしていく。


「ほらぁ、あそこ削りきれていないじゃないぃ!これだから男って大雑把でぇ!」


「しっかし男たち臭いわねぇ!何とかならないのぉ!」


「こんなんで女が振り向くと思うわけぇ?」


 掘削作業は進行していくが、変わらない状況に薫は悩んだ。そんな就寝前だった。


(ワタシはレンヘムと同じ境遇で嬉しいと思った。だけど慕われるつかさちゃんから嫌われるのは嫌だ思った……ワタシは……)


 転生前にはなかった感情だった。


 転生前の理想が今、目の前で行われている。男が働き続け、女性は悠々と暮らせていること。これが薫がSNSで呟き続けた理想だ。

 ただ転生後は男だった。だからこそ転生前と同じ境遇になってしまった。

 レンヘムはいつも男たちをどやしている。その光景は転生前経験したものと同じだった。そしてレンヘムに対して、不安や妬みをぼやく男たちが後を絶たなかった。薫が転生前やってきたように。同じだった、男女が逆転しただけで、行動、心情は同じだった。仮に今度は薫たち男がレンヘムと同じように行動しても、それこそ転生前と何ら変わらない。

 そのことに薫はこの1週間へこんでいた。


 もう一つ悩んでいた。『令に嫌われたくないことに』

 今までなかった感情。転生前の薫は気にせずに、勝手に嫌ってどうぞの精神だったことを自覚している。なのに凄く胸が痛かった。そのことで悩んでいた。

 理由は少しずつ理解していた。

 今まで他人とこんな密接になったのは初めてだった。転生前の学生時代はほぼひとりでやりたいことをやってきた。社会人時代は友達を作る時間なんてなかった。それで後悔した。

 だから転生後は出会いを大事にしようと思った。一種の吹っ切れだったかもしれないが、反省し前と違う人生をしてみようと。

 性別逆転の件もあった。そのことについて相談し合った、話し合った。3か月というのは短くもある時間かもしれないが、他人と密接に初めて行動した薫にとっては濃厚な時間だった。なにより楽しかった。色々なことを共有できる仲間がいることが嬉しかった。

 それぞれ生まれ、育ち、性別は違えど、自分だけガツガツいくのではなくではなく、令と奈央のこともしっかり見てあげる。それだけでここまで暮らしやすいとは今まで思わなかった。ゆえに最初はお互いの距離感がぎこちなかった、でも2人がどこか薫と似ているところ、素敵なところを見つけてからは話しやすかった。

 壁を作っていたのは薫自身だった。その壁は転生という形で無理やり壊され、過去の経験があったから、再び壁を作ることはなかった。

 そして過去の経験があるからレンヘムの気持ちもわかる。何も経験全部が無駄ではないのだと、気づいた時安堵の気持ちで満たされた。


(令くんと奈央さんを助けよう、そしてレンヘムも説得しないと!)


 転生して、性別は逆転して、仲間がいる。ここまで変われば、性格も変わるものなのか、薫は思った。そしてそれはレンヘムも。


 薫は決意ケツイを固め、しっかり眠った。



「つかさちゃん、この環境うんざりよね?」


 薫は夜の就寝前に、令の部屋に忍び込んでいた。


「そうですね、まずはお外の空気を吸いたいです」

「そうね。長いこと太陽を見てない気がするわ」

「でもどうやって打開するのですか?レンヘムの身体能力は私たち以上ですし……」

「まずは交渉してみましょ。ワタシの話は聞いてくれると思うから!」


 そうしてオーク集落脱出計画を少しずつ練っていった。

 まずは奈央の安否だった。長らくご無沙汰になっている。早く可愛い姿がみたいと思った。そして我に返る、男だ。元男だと。


「つかさちゃん、まずは念話でなおちゃんの様子確認しましょ!」

「そうですね。分かりました!」


 令には『念話の魔法』を持っている。これは無属性の魔法らしい、令は無属性魔法使いらしく、薫同様に『精神力と生命力の消費無効効果』のスキル保有しているらしい。あいまいなのはあくまで令から聞いた話になるからだ。『この世界は他人の能力を確認することが困難だ』。ゲームみたいに表示されるわけではないためだからだ。もしかしたらスキルで覗けるものがいるかもしれないが、王都にそのようなものは存在せず、今までいた試しがないらしい。もし今後見つかっても相当な代償がありそうだと薫は考えている。

 そして『無効効果』はあくまで、精神力と生命力のみ。体力は相応に減る。薫はいくつかの魔法を試したが、多用すると疲労困憊し、最悪しばらく身動きが取れなくなる経験をした。必要な時に必要な時だけ使ったほうが良さそうだと感じた。

『念話』はレア呪文だ、と薫は思っている。溢れかえっていたらおかしいし、以前令のお願いで試したが、数十分でバッタリと倒れてしまったからだ。それだけ体力を消耗しやすい強力な呪文だ。


 この世界のレア呪文は会得できるのものが限られているのに、それでいて体力をかなり消耗する。そしてさらに強い呪文は生命力をむしばむ、使い過ぎると早く老衰するらしい。


 転生時にいた少女たち、あとから聞いた話だが、残り4,5年生きれば良いほうらしい。聞いた時薫は絶句した。


(有能な人材は酷使され、早死になんて……まるで……)


 だが薫たちは転生者は『無効効果』がある。あらためてとんでもないスキルだと薫は思った。

 奈央は黒魔法使いらしく、同様のスキルを保有している。

 転生者は早死にすることはないが、その分体力を使う。昏睡状態は危険なのでコントロールしなければならなかった。この3か月体力お底上げを入念にトレーニングした。



「いい?つかさちゃん、5分程度よ。いくら前より体力ついたといえど、無茶はダメよ。レンヘムにバレないようにだからね」

「わかりました」


 令は集中し始めた。念話は対象をイメージすることでそのものたちと意思疎通が取れる。


(……奈央さん、奈央さん)

(え?え?令さんの声?!……あ、念話っすね!使って大丈夫なんすか?)

(短時間で勝負よ、それよりなおちゃん無事?!)

(は、はい……無事なようなそうじゃないような……感じっす。ずっとレンヘムと一緒なので……その自分……苦手で……ああいうタイプ……)


 薫は胸がズシリと傷んだ。


 レンヘムと薫は割と似ている。令に言われた時同様、奈央からも正面きって言われ、あらためて改心しなければならないと感じた。


(じ、自分もう限界っす!レンヘムと一緒なのもあるんすけど……この……どちらか一方的な環境は見てられないっす!)

(奈央さんもなんですね。私たちもそのように考えていたところです。村の件もあるので解決しないと……)

(で、でも、あのレンヘムからどうやって逃げればいいんすか?!絶対に能力が自分たちよりも上な気がして勝てる気がしないす!)

(なおちゃん落ち着いて)


 薫は念話に集中する。


(確かにこの状況を無理に変えようとすると間違えなく衝突するわ。おそらくだけど彼女の性格的にバトルを望んでくるわ……ただね彼女は素直なの。きっとバトルに勝ち、しっかり話せばわかってくれる。ちょっと御幣があるかもしれないけど……ワタシね、転生者はあんな感じだったの……男に対して良いイメージなんてもったこともなくて、自分のことをわかって欲しくて言いたい放題だったの。でも……それがね、生きづらさに繋がってしまったこともわかっていたの……そんなことをうじうじしていたら転生してしまったの!しかも男になって!そして今ここにいる……転生前だったらきっと理想郷だと思ったでしょう。でも、男になったから働かされているんだけどね!それで思ったの……なおちゃんが言っていた通り一方的なのは良くないなって。立場が変わっただけで根本的なものは何も変わっていないの……バランスって大事って思ったわ。思いやり?もきっと大事だと思ったわ。だってこの3か月間つかさちゃんとなおちゃんと楽しく過ごせたもの!色々あべこべになったから接しやすいってのはあったのかもしれないけれど、それがお互いの尊重に繋がりもしたのかなって!……ペラペラ喋ってごめんなさい!とにかくなんとかなるわ!なおちゃんもいけそう?

(は、はい!頑張りましょう!)

(うん!元気な返事で嬉しいわ!)

(私も頑張ります。奈央さん作戦の説明ですが……)


 薫は色々話してしまったことに赤面した。このように他人に赤裸々に語ったことは今までになかった。でも隣で親身になって聞いてくれた令、奈央が落ち着きを取り戻し、そのことが嬉しかった。


(ふふ、こうして聞いてもらえるのって凄く嬉しいわ!)


 薫は、子供のように無邪気に喜んだ。念話が続いている状態で……


(薫さん、可愛いです)

(薫さん、可愛いっす!)


 二人から穏やかな声が、薫の脳内で溢れかえり、さらに赤面し、床を転がり回った。

鴨鍋ねぎま:人はその状況を環境を経験しなければ実感できない。だから薫たちよ、もっともっと色々な冒険が待っているからね(ニチャァ

赤烏りぐ:まいどまいどりぐさんです。薫がデレた!可愛い!だけどイケメン男子だし中身はおばさん……?!頭がバグるぜ!

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